20 到着
幸い獣王国の使者であるルナールが手配した護衛たちは勇馬の傍にはいなかったことから勇馬たちはよそ様に無様な姿を見られることはなかった。
これは獣王国側の護衛たちの多くが斥候として進む先の安全を念入りに確認していた他、伏兵がいないかを確認するためかなり広範囲に散らばり警戒していたということも理由の一つであった。
それだけ獣王国側が勇馬を連れて帰りポーションを確保することを重視しているということだ。
こうして馬に乗って半日、勇馬たちは獣王国の一個中隊が待つ国境へと無事辿りつくことができた。
国境を越えて獣王国内に入ると今度は馬車での移動となる。
護衛にしては数の多い一個中隊が勇馬とルナールを護衛しながら北上する。
獣王国内では今のところ神聖国の兵士が入り込んでの破壊・妨害活動は行われてはいないものの念には念を入れた警護となっている。
そして馬車で2日ほど移動し、ようやく狐人族の族都にたどり着いた。
「ユーマ様、ようこそ狐人族の族都フェデレイへ」
勇馬よりも先に馬車を降りたルナールが馬車から降りた勇馬をそう言って歓迎した。
「ここが獣王国か……」
勇馬たちが降り立ったのは街の中心部である。
とはいえ街の建物のほとんどは平屋であり木造のものと石やレンガ造りのものが半々である。建築水準はお世辞にも高いとは思えなかった。
勇馬たちが案内されたのは周囲の建物に比べても一際大きな2階建の石造りの建物だった。この建物は普段は迎賓館として利用されておりポーション作りはこの建物ですることになるらしい。
建物の中はきれいに掃除されていた。
「こちらの建物の内部は大きく2つに分かれています。大通りに面している部分が普段レセプションを行う場所で、こちらでポーション作りをしていただきます。奥の方は普段、外交使節の方にお泊りいただいている宿泊施設があります。皆様にはこちらで寝泊まりしていただきます」
「わかりました。ポーション作りは明日からですか?」
「はい、本音を言えば直ぐにでも始めていただきたいところですが準備もあるでしょう。必要なものや手順については今日のうちにご指示をいただければとは思いますが」
勇馬は話をしながらルナールから建物の中の案内を受けた。
一般的な錬金術によるポーション作りに必要とされる道具や原料についてはある程度用意されていた。
「用意して欲しいものがあるんですが、お願いしてもいいですか?」
「それは勿論!」
「では、用意できるだけ作ったポーションを入れておくための樽をご用意いただけますか? 作ったポーションを樽に入れますので、それをそちらで瓶詰めしていただければと思います。それから、ポーションを作っている最中は部屋への立ち入りは控えて下さい。外から作業を覗くことも禁止します。これは絶対に厳守して下さい」
「樽については至急用意させましょう。ポーションの作り方についてはそれぞれの錬金術師様によってノウハウがあるのだと思います。作業中に立ち入ることや覗き見ることは絶対にしないことをお約束します」
勇馬とルナールが話をしながら建物の玄関ホールまで戻ってくると、立派な体躯の狐獣人の男が息を切らせて建物に入ってきた。
「ルナール!」
突然名前を呼ばれた勇馬の隣人は声がした方を向くと表情を綻ばせた。
「父上!」
「父上?」
狐獣人の男は勇馬の前であるにも拘らずルナールに足早に近づくと人目も憚らずルナールに抱き付いた。
「ルナール、よく帰って来てくれた」
「父上、人目もありますので……」
ルナールは顔を赤くしながら勇馬にちらっと視線を送った。
自称空気の読める男である勇馬は気を利かせて適当な場所にへと視線を移した。




