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19 獣王国へ

 翌日の朝、獣王国の使者がやってきた。


 対応に出たアイリスは事前に勇馬から指示されているとおり、勇馬が待っているリビングへと使者を通した。


「本日はお時間をとっていただきありがとうございます。わたしはベスティア獣王国の狐人族族長ヴォルペの娘、ルナールと申します」


 勇馬の前に立っているのは成人したばかりくらいの狐獣人の女の子だ。


 背の高さ、身体の大きさはアイリスと同じくらいで中肉中背といったところだ。背中までの長さの薄茶色の髪、頭には髪の毛よりも若干濃い色をした茶色の狐耳が2つぴょこんとついている。尻尾は先が白くなっており、お尻に近くなるほど茶色の毛が濃くなっている。


 言葉によどみはないもののふさふさの獣耳としっぽが緊張のためかいつもよりも縮んでいる。しかし、見慣れていない勇馬にはその女の子の堂々とした態度からそのような事情を知ることはできなかった。


「丁寧なご挨拶痛み入ります。錬金術師の柊勇馬です。遠路はるばる大変だったでしょう」


 勇馬はそう返すとルナールと使者の護衛だろう2人の男性狐獣人に椅子を勧めた。


 ルナールは一礼して椅子に腰をおろしたが2人の護衛は職務上立ったままを希望したため、ルナールの後ろに立って控えている。


「ところで条件の確認なのですがこの手紙に書かれている内容について間違いないでしょうか?」


「はい、その手紙は私の父である狐人族族長ヴォルペの直筆であり、その内容についてはわたしも把握しています」


「あなた方がこちらに求められているのは1日300本以上のポーション作りを最低でも1か月合計9000本のポーションの製造、あなた方が提供するものは私と護衛の宿泊滞在場所を含む滞在時の生活に必要なもの全て、ポーションの原料、瓶詰めなどの単純作業の労働力、そしてポーションの買取金額は相場の5割ということで間違いないですか?」


「……概ね間違いありませんが、あとひとつ、こちらが提供するものがありますが……」


「ということはこの手紙に書かれているもうひとつの条件というものは間違いないわけですね?」


 勇馬の念を押す声にルナールは顔を赤らめ、小さな声で「……はい」と答えた。


 勇馬はこの獣王国からの使者の提案を受け入れ、獣王国へ旅立つことになった。




 1週間の準備期間を経て勇馬はアイリス、エクレール、クレアを護衛として連れて獣王国へと旅立つことになった。


 セフィリアは『優真教』のトップとしての仕事に加えて孤児たちのポーション作りの監督のためサラヴィに留まることになっている。


 勇馬は1か月分の生産量に相当するポーション樽を倉庫に用意しているので勇馬がいなくても作業が滞ることはないだろう。


「お待たせ致しました、では参りましょう」


 勇馬のパーティーハウスの前には獣王国からの使者であるルナールが勇馬たちを迎えに馬車と共にやってきた。ラムダ公国から獣王国との国境近くの安全なところまでは馬車での移動となる。


 国境付近のエリアでは神聖国の工作兵が活動をしているという情報があるため、そのエリアでは馬車を使わず馬で一気に駆け抜ける予定となっている。獣王国は国境付近まで迎えの一個中隊を派遣しておりルナールと合流する手筈となっている。

 

 神聖国との戦争での貴重な兵力をこちらに回すということからもそれだけ獣王国側がポーションの供給を重視していることがわかる。


 ルナールが連れていた護衛は勇馬と交渉したときに連れていた2人だけではなく、他にも10名を超える護衛を連れている。勇馬たちは周囲を獣人の護衛に囲まれての移動となる。


 馬車で2日ほど進んだところからは予定どおり馬に乗って危険地帯を駆け抜ける。


 勇馬は1人では馬に乗れないため勇馬の護衛の中で一番馬を操るのが上手いクレアの後ろに乗っての移動だ。


「主殿、しっかりつかまっていて下さい」


 そう言われて勇馬は後ろから両手でクレアにしがみつく。顔をクレアの背中につけると鼻腔に女性特有の甘い匂いが広がった。



(ああ、神様。女の子はどうしてこんなにいい匂いで柔らかいのでしょうか!)



 勇馬はクレアにしがみつきながらその匂いと感触を堪能していた。


 クレアの体型は長身のスレンダーであり他のパーティーメンバーと比べると肉感という点では一番大人し目である。


 しかし、見て頭で想像するものと実際に触れて感じるその感触とでは雲泥の違いがある。

 

 クレアには剣士という見た目からは想像できなかった『女の子』の柔らかさがそこにあった。


「主様、だらしないです……」


「その顔はちょっと他の人には見せられないわね……」


 周囲を馬に乗って走るアイリスとエクレールが勇馬のだらしなく緩んだ顔を見て嘆息した。

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