18 獣王国からの使者
戦争が終わっても勇馬のポーション作りは続いた。
とはいえ、勇馬はポーションを樽に入れておくだけで瓶詰め作業は相変わらず孤児たちの仕事だ。
戦争前までは聖教会が孤児院の運営をまがりなりにもしてきたが戦争後はセフィリアの『優真教』が孤児院を引き受けることになった。代官のクライスからすれば敵国となった神聖国と一体の立場にある聖教会に対して孤児院の運営名目であっても補助金という金銭の支出をすることには抵抗があった。実際に聖教会も補助金の一部を孤児院運営以外に流用していた事実があるためクライスの危惧は正しいものだった。
孤児院の運営は財政面においては街からの補助金が、人手については戦争後に聖教会から『優真教』に鞍替えしてきたシスターたちが戦力になっていた。このシスターたちは以前からセフィリアとともに孤児たちのために炊き出しをしていた面々でありセフィリアとは戦争前から親交のあった者たちである。
元々ラムダ公国の聖教会、とりわけ若手のシスターや助祭は純粋に神を信仰していて人助けにも熱心であった。彼女らは聖教会の中でも穏健派に属しており元々今の聖教会の主流派となった急進派への抵抗があったことから、戦後に限界を超えて聖教会からの大量離脱となった。
セフィリアとしても孤児への援助を一緒に行っていた元聖教会のシスターたちとは価値観を同じくしているという認識であったため『優真教』への帰属をあっさりと認めた。
ラムダ公国の聖教会は以前から穏健派が多数であったが、戦争開始以降、急進派は国を出て神聖国に戻っている。残った穏健派は『優真教』への鞍替え組と聖教会への残留組に別れるが前者がやや多いというところだろう。
こうして新しい生活が始まったある日、勇馬のパーティーハウスを訪ねてきた者たちがいた。
「こちらに錬金術師様がいらっしゃるとお聞きしたのですが……」
訪問者に玄関で対応しているのはメイド服に身を包んだアイリスである。
そのアイリスとしてもどう応じたらよいものかわからなかったため主である勇馬にお伺いを立てることにした。もっとも馬鹿正直に主に確認をとるなどと伝えるのは憚られた。
「主はただいま留守にしております。ご用件を承りますが?」
「でしたらこの手紙を錬金術師様にお渡し下さい。私たちはしばらく『月の宿』という宿に宿泊していますので、そちらまでお返事をいただくかお会いしてお話する機会をいただければ幸いです」
「承りました。しかと主に伝えさせていただきます」
訪問者はアイリスに手紙を託すと直ぐに出て行った。
アイリスは直ぐに2階にいた勇馬へと手紙を渡し、いきさつを伝えた。
「……なるほど」
勇馬は手渡された手紙を一読し机の上に置いた。
「主様、どういったお話でした?」
「訪問者は獣王国の使者で俺に獣王国に来て欲しいそうだ。ポーションを作って欲しいらしい」
「ポーションですか?」
「ああ、これまではこの国の錬金ギルドを通じてポーションを購入していたようだがこの国と獣王国との国境付近で神聖国の兵士が物流を妨害しているそうだ。それでポーションを作れる錬金術師を獣王国に呼んで現地生産をしたいみたいだ」
「それで主様はどうされるんですか?」
「あらかた条件が書いてあるんだけど悪くない話なんだ。最終的には使者と会ってから決めたいな」
「わかりました。それでは私が連絡に行きましょう」
勇馬は会って話をする日時の候補をいくつかあげてアイリスに伝えた。
アイリスは勇馬の言葉をメモにとると使者たちの逗留する『月の宿』へと向かった。




