10 衝動買い
「お待たせしました。ちょうど今日から売りに出すようになっていたようです。今から部屋に入れますので見て行って下さい」
店の奥から店員の男が勇馬の元へと戻ってきた。
そうしてほぼ同じタイミングで店の奥からガラス張りの部屋に入ってきたのは先日勇馬が行列で目にしたハーフエルフの少女であった。
身長は160センチにわずかに足りないくらい。
この世界のエルフにしては背が低い方だがハーフエルフとすれば平均的である。
体型は中肉中背であり、エルフとしてはどちらかといえば肉付きは良い方と言えるだろう。
(あっ、あの子だ!)
以前見たときについていたほこりや泥はきれいに落とされている。
美しく整った顔は輝いて見え勇馬の視線は目の前の少女に釘づけとなった。
「お客様、気に入られましたか?」
店員の男はニヤニヤと笑みを浮かべている。
「この子は娼婦にすることなどは禁止されていますが、買い取った主人自身が手を出すことは禁止されていません。つまりあなた様が望むことは思いのままです。何なりとご命令できますよ。一応申し上げておきますと生娘ですので念のため」
「そうなるとやはり高いのでしょうね」
「確かにお安くはありません。しかし純潔のエルフではなくハーフエルフということでそこまでにはなりません。純潔のエルフであれば希少性が高いことに加えて容姿も格段に整っているため人気があり、その結果お値段も自然とお高くなります。それに比べてハーフエルフは純潔のエルフよりも市場に出やすいですし容姿も整っているとはいえ人間の美人の範疇です。同じ程度の美人を買うのであればハーフエルフよりも人間をという声の方が多いという事情もありますのでお買い求めやすい価格となっております」
そうはいっても何でもできる美人の奴隷は元々が高い。勇馬としては金額の想像がつかなかった。
「あの子はおいくらですか?」
「金額自体は300万でお出しすることになっています。ただ、少々条件がありまして……」
「条件?」
「ちょっとあの子は特殊の方でして。なんの条件もなければ500万の値はつくところです。条件というのは購入できる方は商人を除く平民のみで年齢は20代以下。また購入してから5年間は購入不可の者への譲渡は禁止されていて約束を守らなかった場合には契約が解除されるという条件になります」
その説明を受けて条件が何の障害にもならない勇馬は即座に買い受けることを決意した。
「特殊な条件ですのでお支払いの期限について2か月はお待ちしますよ」
店員の言葉に勇馬は強く頷くと手付金としてそのとき持っていた10万ゴルドを支払い足早に店を出た。
正直言って衝動買いに近い感情だった。
今の状態で即断即決するのは無謀もいいとろかもしれない。しかし勇馬はどうしても彼女を買わないといけない、そう強く感じた。
店員の男が店先に戻ると会合から帰ってきた店主と鉢合わせになった。
「今、店の奥から若い男が出てきたが客か?」
「左様でございます。例のハーフエルフを買いたいとおっしゃいまして……」
「もうあれが売れたか。面倒な条件がついた奴隷はさっさと売ってしまうに限る。早く買い手がついてよかった」
奴隷は売れ残れば売れ残るほど維持費がかかる。売りに出した日に売れるのは奴隷商としては最高の商いである。
店主はいつもの自分の席に座ると商売の神に感謝しながら帳簿を手に取った。




