9 奴隷商館
勇馬は午前中に付与魔法ギルドでの仕事を終えると奴隷商館へとやってきた。
「こっ、こんにちは~」
「いらっしゃいませ」
恐る恐る店に入ると、背の低い中年の男が奥から出てきて対応した。
その身なりから店主ではなく雇われの従業員であろうことが予想できた。
「奴隷について教えて欲しくて来たのですが……」
「ええ,構いませんよ。奴隷の種類についてはご存知ですか?」
「いえ、それもよく知りませんので」
「承知しました。ではそこからですね。奴隷は大きく分けて3つに区分けされています。1つは借金奴隷、次が犯罪奴隷、そして最後が特殊奴隷です。特殊奴隷は戦争奴隷や取り潰された貴族が奴隷落ちさせられるなどの場合があります」
このあたりは勇馬が以前ラノベで見たような世界とあまり変わらないようだ。
「奴隷にさせてはいけないことはありますか?」
「どの種類の奴隷であるかや奴隷となった経緯などによってさせられること、させられないことが決まります。借金奴隷はその借金の額によって奴隷となる期間や課される負担がおおよそ決まります。少ない金額ですとおおよそ下人の様な生活を何年か終えて年季明けということもあります。犯罪奴隷は犯罪の軽重で雲泥の差があります。例えば軽犯罪の場合、特定の重労働や戦闘行為、情事をさせることは禁止される一方、重罪ともなれば基本的には主人の裁量となります」
「奴隷を買った場合の義務というものはありますか?」
「奴隷に最低限生きていけるだけの食事・睡眠を与えなければなりません。もっとも、犯罪奴隷の場合は相当程度緩和されており基本的には主人の裁量とされています」
「なるほど、わかりました」
「お客様はちなみにどういった奴隷をお求めでしょうか?」
「そうですね。まあ、何でもしてもらえる若い女の子がいればな~とは思っていますが」
「……だとしますと少々値が張りますがよろしいですか?」
店員の男は『この好きものめ!』という下卑た笑みを浮かべて話を続ける。
「ちなみにご予算はいかほどでしょうか?」
男は勇馬を値踏みするように上から下まで見まわした。
「相場がわからないのでちょっと教えてもらえないかと思いまして。まあ、高いなら高いなりに金額がわかればそれだけこれからの仕事の励みにもなりますし」
「なるほど、そういった考え方もありますか。いいでしょう。せっかく来られたのですから一度ご案内いたしましょう」
男は軽い足取りで勇馬を店の奥の通路に案内した。重厚なドアの頑丈な鍵を開けると勇馬も促されて通路の中に入った。
「うわっ……」
通路に入ると右側の壁は相当な部分がガラス張りとなっている。
ガラスの向こうには仕切られた部屋があり、部屋の中では奴隷の女性が所在なさげにしておりガラス越しにその姿を確認することができた。その一方、奴隷の女性たちは勇馬や店員の存在には気付いた様子はない。
(まさかマジックミラー?)
現代日本の技術と同じものかはわからないがどうやらこちらからは見えても向こうからはこちらが見えないという仕組みのようだ。
「では、手前から順にご説明します」
入口から安い順となっており、できることが大幅に制限されている者、命令に制限はないもののある程度年齢が高い者や容姿が劣る者、体の部位に欠損がある者などがやはり最初の区画に多くいた。
順を追って奥へと進んでいく。
だんだんと年若く、容姿の整った奴隷となっていくがそうなるとやはり金額が跳ね上がっていく。
「そういえばこの前、奴隷商の行列でハーフエルフの女の子を見掛けたことがあるのですがどのくらいの金額になるのでしょうか?」
奴隷を買うきっかけとなったハーフエルフの少女のことが気になりそう尋ねた。
「ハーフエルフですか? 先日届いたばかりというのでしたらまだ準備中かもしれませんね。ちょっと確認してみましょう」
勇馬はあの奴隷商の行列がこの奴隷商館のものかどうかは確認していなかった。
しかし、違う奴隷商館であっても相場くらいはわかるだろうと止めることなく待つことにした。




