5 中級付与師
マジックペンを手に持った勇馬は作業台の上に置いた武具に次々と『強度1・5倍(2)』『重量軽減10%』などと書き連ねていく。
黙々と作業をしていくと、大して時間が経たないうちに作業は終わった。
「一応、確認しておくか」
勇馬は念のため鑑定を行った。
――鉄の鎧【強度1・5倍(有効期間2週間)】
――鉄の盾【強度1・5倍(有効期間2週間)】
――鉄兜【重量軽減10%(有効期間1週間)】
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などと表示された。
「これで終わりだとちょっとあれだな~」
せっかくギルドに来たのにすぐに帰るなんてもったいない。
勇馬はギルドの受付に戻っていたエリシアの元へと行くと、追加の仕事がないかを尋ねた。
「さっきお願いした仕事が終わりましたらまたお回ししますよ」
「いえ、もう終わったんですが……」
「…………」
「…………」
「……えっ?」
昨日の作業よりも必要となる魔力も技術力も大幅に上回る仕事にも拘らず昨日と変わらない時間で作業を終えた勇馬にエリシアは受付で固まってしまった。
「はっはっは、どうやらユーマくんにとっては初級レベルの作業だと物足りないようだね。じゃあ、このあたりはどうだろうか?」
バックヤードから出てきたトーマスがそう言って勇馬に新たな作業を指示した。
与えられた業務は何の変哲もない鉄の剣への魔法付与だ。
「強化と重量軽減の同時付与か……」
勇馬は作業部屋に入るとトーマスから指示された内容を確認した。
勇馬がすることになったのは、1つの物に2種類の付与を同時に施す『二重付与』と呼ばれる作業だ。
異なる効果を衝突させることなく1つの武具に定着させるということは精緻な魔力操作技能を求められる作業である。
勿論、2種類の魔法を使うことからそれだけ魔力の消費も伴う。
取り敢えず勇馬はマジックペンを顕現させるとメニューを開き、複数付与の仕方について調べてみることにした。
――その結果
「1週間有効の付与だと普通に並べて書けばいいだけか……」
この世界の付与魔法体系においては特殊な技能とされることもマジックペンの前では特別なことではなかった。
勇馬は安堵しながら鉄の剣にマジックペンで『強度1・2倍、重量軽減10%』と書き入れた。
「すみません。終わりました」
受付にまだトーマスがいる間に勇馬は戻ってきてそう告げた。
「鑑定」
トーマスがそう口にして手にした鉄の剣を視る。
――鉄の剣【強度1・2倍(有効期間1週間)、重量軽減10%(有効期間1週間)】
「……なるほど、わかった」
トーマスは鉄の剣から視線を外すと姿勢を正して勇馬と向き合った。
「きみは今日から中級付与師だ」
正直勇馬は初級と中級の違いというものを全く理解していない。
そんな勇馬だが付与魔法ギルド登録からわずか3日目で初級付与師から中級付与師にランクアップすることになった。
ちなみに中級付与師となることは付与師として一人前と認められたことになる。
「じゃあ、身分証は中級付与師のものに変更だ」
一昨日発行してもらったばかりの初級付与師の身分証を返納し、新たに中級付与師の身分証の交付を受けた。
「そしてこれが一人前の証だ」
そう言って渡されたのは1枚のマントである。
世間ではこのマントをしていれば一人前の付与師として認知されることになる。
「普段付けることはないと思うが、公の場では着用することもある。持っておいてくれ」
こうして勇馬は中級付与師となり早くも一人前の付与師として認められることになった。




