5話 誘拐とジーク 1
「お前、可愛いな」
ん?今目の前のこの男の子はなんと言った?可愛い?いや川いいだな。うん。丁度後ろに川が流れているしな。
「お嬢様ここには川はありませんよ」
何故バレた!?
「ん……わかってる」
「ん?なんの話をしている。俺はお前が可愛いと思っただけだ」
平気でこんな恥ずかしい言葉を……。
「ありがと……」
「できれば今夜のダンスを一緒に踊ってはくれないだろうか」
え……ダンス?えっ!?サーラの方を見てみると、サーラは目を逸らした。
「私……踊れない……」
「構わん。俺がフォローしてやる」
えー!?私開始数秒で床とキスする自信あるよ?
「なんで……私なの……?」
「このパーティーには自分の子をできるだけ地位の高い子と結婚を前提に仲良くさせるという大人の思惑がある。それを素直に受け取って玉の輿を狙ってくる女子共に飽き飽きしていたんだ。そんな中お前だけは純粋にこのパーティーを楽しもうとしている。だからお前が気に入った。それに可愛いしな」
このパーティーそんな思惑があったの!?初めて知ったんだけど?
サーラの方に本当かと目で質問するとサーラは首肯した。
「本当に私でいいの……?」
「あぁお前がいいんだ」
そうか、なら答えは決まっているな。
「だが断る」
背後で効果音がなった気がするが気のせいだと思いたい。
「ほう……どうしてだ?」
「君が私の地位を狙ってる可能性がある……」
「なるほど……」
本心はまだ男と踊るとかそういうことをすることがまだできてないだけなんだが。
「気に入った!」
「ん?」
言葉の通り俺の心境は「ん?」である。どこに私を気に入る要素があった?
「慎重でないと騙されやすいからな。慎重すぎるのもどうかと思うが無警戒よりは何倍もマシだしな」
「そ……そう……」
「今回は諦めるとするが、次こそはその心射止めてやるからな」
そう言って去っていく彼に私は声を何故かかけた。かけてしまった。
「名前……何?」
「俺か?俺はジーク。ジーク・エルメリアだ」
「そう……」
「俺の名前を言ったんだ。お前の名前も教えてくれるよな?」
「エル。エルミナ・セルティアンセ」
「そうか……エルか。覚えた。またお前とは会う気がする。それではな」
そう言ってまた歩き出した彼の背中を見ながら私は呆然としていた。
「エル様?もしやあの男性を好きになったのですか?」
「えっ!?ちがう……気になっただけ……」
「それを好きになったというのでは?」
「違う!」
パリンッ!
ミーナと口論しているといきなり窓が割れてマスクをかぶった集団が入ってきた。
「全員手を上げろ!」
これが今生最初の災難であり、これから始まる私の災難続きの日々の始まりだった。