スチームパンツ
配管工として働き続けているが、
もうもうと噴き出す蒸気が何もかもを支配している時代において、
このまま配管工として働き続けてもいいものかと悩むところもある、
何せ、あまりにも急激に発展しすぎた、
陸に、海に、空に、蒸気はその支配領域を広めていった。
人類は自らが熱を支配し蒸気を作り出すことで遂に、
ありとあらゆる万物の秘密を解き明かしたに等しく、
雲をひとつかみにして台風を巻き起こし、
数多くの国を雷雨で破壊しつくした脅威の時代を生み出した。
鉄と蒸気の城、メニアックタウン、
全ての人々は蒸気を使いこなし、
自分の着衣を隅々までしわをの伸ばして着て、
あるいは頑固な油汚れを蒸気の力で吹き飛ばしたりしていたが、
一番大事なのは自宅を加湿して乾燥を防いだりしていたことである。
だが、おれは恐れおののいた。
「さてここのナットをしめれば、正常に機能するはずだ、よいしょっと」
もうもうと噴き出す蒸気が急激に足元の金網から吹きすさぶ、と、
「きゃあ!」
これでもかとバネで膨らませたスカートがめくりあがって、
ふかふかのパンツが目に入った、
うん、布切れ一枚とはいかないボリュームが蒸気の時代を表してるよね、
ってそういう問題ではない。
「きみ! はやく金網の上からどくんだ!」
「そ、そんなこと言っても、えっ?」
ぐんぐんと蒸気が彼女のスカートを押し上げて、
遂に空に舞い上がってしまった、
高く上がったらどうなる?
あとは自由落下で真っ赤に散るだけだ!
「きみ! 仕方ない! バルブを全開にする!」
最終手段ではあるが、
大量の蒸気を彼女が落下しようとしてる地点から、
噴き出させて、それによる浮力の働きで、
なんとか落下の位置エネルギーを徐々に減衰させて、と。
「大丈夫かい? きみ?」
「あ、ありがとう、はい」
彼女の手を取って無事に手すりにもたれさせる。
ここは鉄と蒸気の城、メニアックタウン、
あらゆるものは蒸気で容易に動かされてしまう、
人間でさえもそうなのだから、
パンツもまたそうなのだろう。
「とりあえずそのスカートで金網の上を歩かないようにね」
「まあ! でもそうね、気をつけるわ」
バルブを締めなおせば、蒸気はまた正常に戻る、
行くべきところに向かうだけだ、
間違っても彼女のパンツに向かうことはもう無いだろう。
完