天啓戦争 開戦
ゲイルから協定に関しての話を聞いた日から4日が過ぎた。
なんだかんだとゲイルに色々と押し付けられた私は忙しく各所を回っている内に日が過ぎていた。
四日で開戦の準備が急速に進んで一触即発の状況に至っていた。
いきなり新兵器の飛行機は出さないらしい
まあ、幾ら火力や機動力で優れていても操縦者が居なければただの鉄屑に過ぎないから奇襲の可能性とかを予測しにくい開戦時は使わないことにしたのだろう。
ゲイルに聞いたが、アレもそんなに安く無いらしい。
と言うことで初戦は白兵戦でスキルエフェクトが派手に散りそうだ。
で、私は今前線に来ているわけで。
もちろんのことだが二人には内緒だ。
二人にはソウジ君のとこに行くって言ってあるからまあ大丈夫だろう。
嘘はついてないし。
ソウジ君もまた前線に来ていた。
今回のイベントは知名度を上げるのに手っ取り早いと言っていた事から考えるに、半分は宣伝だろう。
でもう半分は全くの謎だ。
ゲイル曰く「彼には新兵器の開発を急いで貰わなきゃならないから、あまり前線にはでないでほしいんですが」
との事だから依頼ではない。
ゲイル曰く「それとrenrenというプレイヤーです探してください」との事だからレンさんを探している可能性もなくはない。
まあ、レンさんも神出鬼没とはいえ、なんだかんだでベイグル近辺で活動してるんだからその内会えると思うけど
「さてと、まあこんなことは初めてだから最初は作戦も糞もない混戦になると思われるから周りに気を付けろよ」
そして私逹は開戦前の作戦会議中だ。
幾ら残念な汚名とは言え異名持ちの私は強制参加だ。
勿論ながら青髪ことソウジ君もここに…
アレ?
さっきまでソウジ君が居たところに代わりに銀次郎がプラカードを持って立っている
「逃げた…」
『ちょっくら頭潰してくる 青髪』
「えー!手柄持ってかれた!」
「アオイさん?どうかしましたか?」
「ソウじゃなくて青髪さん、独断専行しちゃったよ」
場がざわつく。
青髪って誰だ?なんて声もある、いやそんな声が殆どだ。
一部は額に手を当てたり、頭を抱えたりしている。
「・・・青髪が頭を潰してくるって言ったならもう敵の大将は落ちたも同然だな」
「青髪って誰?」
「ベイグルの近くに住んでる青い化け物だ」
「そんな異名持ちは聞いたことないんだが?」
「二年前の話だからな、アイツは二年前から化け物だった。単独で隣国の王を拉致って殺したらしい、それ以外にも単独での新エリア攻略、想像を絶する生産スキル、あらゆる一流を素で行く化け物、最近だと武器と消耗品を主に売りつつ何でも屋を営んでるな」
「いや、でも流石に今もそんな化け物なら少しは話題になるはず」
「その話題になるという現象すらもコントロールするようなヤツなんだよ。現にヤツは誰も見ていない内にここから抜け出して、向こう陣地の人間を血祭に上げてる」
「なら、ここで悠長に構えてるべきでは無いのでは?」
会議用のテントの入り口が開く。
「ふー、ちょい疲れたな…なあ?大将殿?」
「いっそ殺せよ」
青い髪の少年が全身拘束具でぐるぐる巻きにされた男を引き摺って入ってきたのだ。
「ちょい殺しすぎた気もするけど無事に人質をゲットできましたよ?ねえ?大将殿?あと勿論殺しますよ?でも今死に戻りされたら情報が流れちゃうから生かしてるだけですよ?あなたには他の誰かに殺されて欲しくないですから、そこで俺が戻ってくるのを待っていて貰いますよ」
男の周りに氷の箱が現れて囲ってしまった。
「さて、向こうは偵察兵に大将を拉致られて混乱しています。今のうちに打って出ますよ?怖じ気づいたならそこで待っていて貰っても結構ですよ?この戦はもはや追加の戦果稼ぎに過ぎませんからね」
そう言うと彼は出ていった。
「なら俺はそこの大将とやらを始末して戦果を稼がせて貰う!」
末席に居た男が大剣を片手に立ち上がって、氷の箱を切りつけるが逆に大剣を打ち付けた男が吹っ飛んでいった。
「硬え…」
箱は傷一つついていない。
耐久値も減っていないようだ。
さてと私も前線に出ますか。
私は刀を手に外に出た。
だが彼は既にそこには居なかった。
「やっぱり速いな~」
蒼次:「ズルしてますもん」
ソウ:「ズルじゃない、使えるものを使っただけだ」
蒼次:「いやそれをズルって言うんだよ」
走って向う側に向かってみると異様な光景が広がっていた。
陣営内で戦闘が発生しているのだが、どうも私達の仲間ではないようなのだ。
先ず言って制服と言うか腕章が違うから一目瞭然だが仲間割れにも見えなかった。
全体的に紫のカラーリングの側は戦術的な動きで効果的に殲滅戦を展開しているのに対して、そうじゃない方は連携も取れておらずゲリラ戦に近い戦い方をしていた。
何人か地面に倒れ込んでるし、悶えてるのも多数居る。
「?ソウジ君が見当たらないな~」
戦場に彼の姿はなかった。
居たら直ぐ解ると思うし、戦闘能力で頭一つ抜けてるからそこだけエフェクトが派手になりがちなのだ。
「もしかして俺を探してますか?」
声の方を見ると、そこには片手にはいつもの刀もう片方には見たことない禍々しい刀を持った彼がいた。
だが私はその刀がどんな刀なのか知っていた。
「ソウジ君、禍津牙を納めてください。そんな物による勝利は誰も望みません」
「ではこの刀を正しい手順で納刀しなかった場合の副作用を知ってますか?知りませんよね?この刀を強制終了した場合、支配下にあった者は制御を失い暴走して、付近の生命コードを見境なく攻撃し始めて他の生物に状態異常を振り撒き被害を拡大させます。所謂エピデミックですね。そうなれば鎮圧するのは至難の業ですよ。そう俺やレンの力を持ってしてもです、そしてその正しい納刀方法の条件には所持者がターゲットとしたモノ全ての破壊又は感染と言うのがあり、それを満たすにはこの戦争を終わらせる他ないんです。そしてターゲットを失った感染者は次なるターゲットが指定されなければ180秒後に暴走を開始する」
「そんな武器をあなたは人に向けたんですか!」
「その通りです、失望しましたか?レンもアオイさんも俺にどんな理想を思い描いていたか知りませんが、買い被りすぎですよ。俺はそんなに大層な人間じゃない、依頼とあればこんな事も平気でする薄汚いチーターですよ」
「依頼主は誰です?まさかゲイル君!?」
「領主殿は俺と違ってとてもお優しい方ですよ?そんなことを依頼できる筈もないでしょう?ヴェンデルド王政教国国王陛下その人ですよ。かなりの報酬が約束されているしもう手をつけてしまったので今更引けません」
「それでもこんなのは間違ってる、こんな卑怯な勝ち方…」
「残念ですが、決着が着きました」
ふと戦場の方を見やると紫色でない方の陣営の最後の一人の首が飛んだ。
「さてと後始末しますか、禍津牙の状態異常の効果の先についてもう一つ教えておきましょう。精神支配は宿主の死亡と同時に消えるんですよ。で俺の仕事はこの号令を掛けることです」
彼は禍津牙を掲げる。
「攻撃対象に感染者を選択、殲滅せよ」
「んなっ!」
陣地ないの紫の人間逹が各々の獲物を自身に向けて突き刺す、振り下ろす、打ち出す、自爆する、等々様々な方法で自らの命を絶っていった。
後には禍々しい紫色にはほど遠い蒼い光の欠片だけが残された。
「さてと、大将のところに戻りますか…」
「いかせません!」
「俺の前に立ち塞がりますか…俺としても貴女を殺すのは少し心苦しいのですが…」
「なら剣を納めてください」
「そのぐらいなら構いませんよ?」
ソウジ君は両の刀を鞘に納めて、禍津牙はその上で箱に入れてストレージに納めた。
「ソウジ君、正気に戻ってください。こんな事があなたのしたかった事なんですか?」
「したいかしたくないかは関係ありません。依頼なので、それと俺は十分正気のつもりです。そこを退いてください」
「イヤです。私はあなたを止めたい、これ以上あなたに人を殺させたくない…あの大将を捕虜扱いにしてください、そう約束するならここを通します」
「はあ、交渉決裂です。本当は皆さんの目の前で大将の首を落として見せるつもりでしたが、こうなってしまっては仕方がありませんね。少し心苦しいですが大将には串刺しになってもらいましょう…」
彼は自陣のテント正確には大将の入った箱に手のひらを向けて、強く握りしめた。
戦場の空に「Settlement WINER:ヴェンデルド王政教国 MVP:ソウジ・K・ミナヅキ MAX-KILL:ソウジ・K・ミナヅキ 」と表示された。
「ではアオイさん、俺は次の戦場があるのでこれでお別れです。依頼なら内容次第で受け付けますよ、ではまたのご利用をお待ちしていますよ」
彼はグリフォンで飛び去っていった。
私は唇を噛み締めた。
私は鉛のように重たい体を引き摺ってベイグルに戻ってきた。
なんか色々疲れた。
さっきから何故か村正がうるさいし
『いいなーワイもあんな主が欲しいな~あの精神力流石やで、でもってあの美形で両性具有、にしても凄い殺りっぷりじゃったな~あんなんがワイの主だったら他にも自慢するんにな~』
「うるさい」
一体全体どこから語りかけているんだろうか
『はーあ…ワイの主は人の心を読むのが下手だからな~あん少年、哀しんどった、そして後悔もしとった。それを捩じ伏せてなおも殺戮の限りを尽くす精神力、お前のせいで途切れかかってた状態でも大将とやらに手をかけただろ?』
そう自陣に戻って見たら箱は消えていたが聞いた話では、箱の内側に無数の刺が生えて大将を滅多刺しにして、大将ごと消滅したらしい。
『ふん、なのになんもしとらんお前が落ち込んでどうするやら…ワイにはようわからんわ』
確かに何もしてない、作戦会議に参加しただけだ
『言っとらんがワイは思念体ゆえ人の心、いや正確には魄の輝きからその者の思想を見ることができる。あん少年の思想には確かに物欲的な物もあったがそれ以上にこの戦争を終結させたいという想いが強かったな。ワイがお前に教えるのはここまで、後は自分で調べや』
村正は急に黙った。
正直、驚きが強すぎて何も言えない。
だが今思えば禍津牙を掲げた時の彼は確かに哀しそうに見えた。
私は自分の行動を思い返して余りの滑稽さに恥ずかしくなった。
文字通り顔から火が出そう
居ても立っても居られなくなって、走って自宅に帰った。