非現実的な現実の楽しみ方
そして翌日
私はランフォート武具店に顔をだした。
「最近なんなの?天使結晶がどうとかって客ばっかりだし、死に戻りの実験とかって追い回されるし、世の中戦争だってなって騒々しいし…」
「あはは、そんな所悪いんだけど…」
私はゲイルから受けた依頼の事、運営も予定していなかったイベントであること等々、現状知りうる情報を洗いざらい話した。
その中には勿論彼が隣国との戦争のトリガーになっていることも含まれる。
「なんかすごくめんどくさい事になってるわね」
「で本題なんだけど、素材周回手伝って?」
「そんなことだと思った。アオイの事だからもう天使結晶とかいうアイテムの周回始めてるんでしょ?」
「まあね、でも中々周回がめんどくさいアイテムだから」
「まあ、前の時みたいな事にはならないと思うし、天使結晶関連のお客も多いから、私は行っても構わないよ?ランはどうする?」
「二人が行くなら勿論行きますよ。ちょっと待ってて下さいね?先に入ってた方に一言入れるので」
そして昨日と同じくプレイヤーで賑わうダンジョンにやって来た。
天使結晶の周回に熱中してるせいか、関わっても損するだけだと解ってるからか、アオイたちが入ってきたことに対する反応はない。
「さてと、人が少なくなるまではmobは撥ね飛ばしていきますよ」
「高速ロードローラーの本領発揮ですね」
「その汚名は出来れば返上したいんだけどね」
「二つ名なんて他人が決めるものはどうでもいいでしょ。大事なのは自分にとって自分がどうあるかでしょ」
レイはいつもの片手棍を手に取る
「多少は風体も必要だと思いますけどね」
ランも腰の短剣を抜いた。
私も腰の刀に手をかけて進む。
雑魚を蹴り飛ばしながら階段を下りていく。
レベルも耐久力も防御力も低い雑魚共相手に私は剣を抜く必要もない。
スキル:蹴撃
それだけで敵の骨は砕けて、手足は千切れ飛ぶ。
「あんたまたレベル上げたわね」
「あはは、下のダンジョンを攻略したらカンストしました」
「レベリングの鬼ですね」
「そうかな~二人ならやろうと思えば直ぐカンストできると思うよ?」
「あんたとちがってこちとら生産職なもので」
「まあ、アオイさんが卓越したセンスを持ってるのは解りきってたことなのでさして驚きませんが。あっ電話です、ちょっと失礼しますね?」
ランは右耳に手を当てて少し離れる
「誰?もしかして彼氏でもできた?」
レイはニヤニヤしながらランの目を覗き込む。
「え?左ですか?はい、下がります」
ランは一歩下がる。
するとランの左側の壁が崩れて人が出てきた。
「埃っぽいな~アレルギーでそうだよ」
白い鎧の男性が片手にピッケルを持って出てきた。
「アオイちゃんとレイちゃんは久しぶりだね?ランちゃんとは昨日会ったしね」
「まさか追ってきたんですか?」
「いや別に?端からここに来ることを目的に誘ったようなものだったからね。僕は狩り場を繋ぐ秘密の入り口を作ってるんだ」
「レンさんその手に持ってるものはピッケルですよね?」
「そうだよ?さっき上でインテリア用って銘打ってあるのを買ってきたんだ~」
「それで壁を掘ってきたんですか?」
「そだよ、即席魔改造してあるけどね」
「壁って掘れるんですか?前に地面が不可侵オブジェクトになってたと思うんですけど?」
「それは適切な道具とスキルを使わなかったからだよ、壁ならピッケル、地面ならスコップで掘削とか土木工事師とか使って掘れば掘れるんだよ」
「知らなかった」
「だろうね、知ってたら壁に埋まった紫結晶を引き抜こうとはしないよね」
「みっ見てたんですか!?」
「ちょうどそのときに近くを通ってさ」
「この道って何処に繋がってるんですか?」
「大輝練結晶の回廊まで直通だよ。でもお薦めはしないよ?あそこは平均レベルも高いし、何より効率が悪い。帰り道だから繋げたけど正直用は無いかな、僕ならこの辺で魔物を拘束して天使結晶を剥ぎ取り続けるけど、今は天使結晶目当てで来てるわけじゃないから僕は先を急ぐよ」
レンさんは向かい側の壁をピッケルで掘って行ってしまった。
掘っていっているのにもう暗がりに紛れてしまった、すごい作業効率だ。
「今レンさん『天使結晶を剥ぎ取る』って言ってたよね?」
「言ってたね」
「適切なスキルと道具を使えばmobを生かしたまま結晶が剥ぎ取れるのかもしれない…」
「それ、検証するの?」
「多少試す程度にね?」
「まあ、そう言うスキルもそんなに多くないのでそんなに難しくはないと思いますよ?」
「でも二人ともそう言う役に立ちそうなスキル持ってる?私は採掘と鍛冶と鋳造ぐらいしかないよ?」
「筆写師と経理師と製図と…薬草目利きぐらいですね。アオイさんは?」
「・・・・・ない」
「え?一個も?」
「うん、一個も。全部戦闘系スキルに振っちゃった…投擲とか体術とか精密射撃は持ってるよ?あとは刀系列のスキル一通りかな…」
「じゃあ使えそうなのは私の採掘しかないじゃない」
「じゃあ採掘だけ試してみましょうか」
「でも適した道具が無い」
「うーん、なんか無かったかな…あっ、片手棍に分類されるんだけど『石鎚 岩砕き』っていうのはあるよ?ステータス低いけど…」
私はアイテムストレージから石で出来た片手棍を取り出す。
「まあ、やってみる?」
レイは石鎚を受け取って肩に担いだ。
すると丁度よく蠍が通る
「グッドタイミングですね」
レイは狙いを定めて蠍の背中に石鎚を振り下ろした。
ガツンッ
蠍の背中の殻が縦にひび割れて両方向に落下した、殻の下には赤赤とした新しい殻がある。
よく見ると、小さい紫の結晶が点々と埋もれている。
どうも成功したらしい
私はとりあえず蠍の頭に踵を入れた。
パキャッ
軽い音を立てて蠍の頭の甲殻は砕けて辺りに赤々とした液体とピンク色の何かを飛び散らせ、直後光となって砕け散った。
「靴が汚れた」
「あんたもうちょっとマシな殺し方出来ないの?」
「剣を抜くまでもないし」
「それでもさあ、踵落としで頭蓋粉砕ってグロすぎでしょ、あのピンク色のやつ脳髄よ?」
「うわ、足に脳髄付いたのか~なんかアレだなー」
私は踵についた脳髄を岩肌に擦り付けた。
「帰ったら靴洗うわ」
「まあ、コレが成功したって事はmobを減らさずに必要な物を採り続けられるって事ですよ?凄くないですか?ここの蝎を檻に入れて天使結晶を量産すれば凄い儲けが…」
「檻って言ったって、それこそ不可侵オブジェクトの檻でもなきゃ無理でしょ?」
「そうでした、いやこの岩肌を檻に改造すれば…」
岩肌が崩れて蝎が出てきた。
「mobは掘れるみたいですね…」
そうして殻を割りつつ洞窟内を進むこと数分
私達は練結晶の回廊に出た。
そしてちょっと既視感のある光景を見た。
白い大きな袋を背負った全身鎧の大男が回廊をかなりの速度で走りながら、mobを蹴散らしている。
それだけじゃなく、mobの死骸を次々に背負った袋に放り込んでいるのだ。
「何あれ…」
「凄いですね」
「銀治郎だー・・・あの鎧にはいい思い出無いんだよね…」
ある訳がない
何て言ったってあの鎧にかっ飛ばされて、木に衝突して内臓を破壊されたのだ、いい訳がない。
幸い、ソウジ君の治療のお陰で一命は採り止めたが、それが無ければどうなっていたことだか…
まあ、その鎧を作ったのもそのソウジ君だが。
ついでに言えばあの鎧が前の姿の時にも潰されかけている。
「何、知り合い?」
「ちょっとね?あんまり関わりたくないかな…それに戦って勝てる相手じゃないし」
「へー、もう一戦したんだー。でもなんとか逃げおおせたんでしょ?」
「いや、ホントにあのときは死んだと思ったよ。まさかのバッティングフォームだもん」
「へー、でも所詮はmobでしょ?レベルも低そうよ?」
「いや、異常ですよ。あのレベルであの速度、それでいてここの魔物を一撃で粉砕出きるだけの攻撃力ですよ?」
「はいはい、気にしない気にしない。間違っても攻撃はしちゃダメだからね?私、最近あの鎧にワンパンされてるから…」
「わワンパン!?」
「ほら、さっさと行くよ?こんなところで銀治郎とやりあったら助からないかもね、聞いたところによればプレイヤーを何人かミートペーストにしてるらしいから…」
私は回廊に出た直後、高速で登ってきた蝎に撥ねられた。
私は、壁に叩きつけられる。
「ガフッ…イッタいなぁ…」
どうやら壁に叩きつけられたのと同時にmob達のタゲを取ってしまったらしい。
mobが群がってくる。
だが、mobは一瞬で残らず消え去った。
いや、正確には袋に詰められていた。
私の前にはmobを袋詰めにした帳本人が手を差し伸べて立っている。
「前回は酷い目に遭いましたが、今回は助かりました」
銀治郎は無言で親指を立てる。
そして首を傾げる?
「ん?」
銀治郎は閃いた様に両手を合わせる。
そして深々とお辞儀をした。
「へ?」
何処からか銀色のプラカードを取り出した。
プラカードには日本語が掘られている。
『まえにつぶそうとしてすいませんでした』
「あー、そう言えばそんなことを前にレンさんが言ってた様な…アレ?でも確か倒されたんじゃなかった?」
『こあのたいきゅうちがいちどっとでものこってればしなない。あのしゅんかんこあからからだをきりはなすことでからだのたいきゅうちとのりんくをきって、からだをたてにすることでこあをほごしました。そのごてんによるほきゅうをうけてからだをさいこうちくしたところをごしゅじんさまにやられてはれてしもべになりました』
「もしかしてこの子凄い賢い?」
ただのテイムモンスターが日本語を喋っているのだ。
「アオイ、大丈夫?」
「大丈夫、なんか助けられちゃった」
・・・・・・!
銀治郎は思い出した様に手を叩いて、鎧の中から紙束と封筒を取り出す。
「なにこれ…」
封筒の表面には「ベイグル領領主様へ」と書かれている
ん?ゲイルさん宛てだよね?
銀治郎は親指を突き立てて、敬礼すると袋を持って走り去ってしまった。
「自分で届ければいいと思うんだけどな…」
「なにそれ」
「ゲイルさん宛てだって」
「どうせこのあと行くんでしょ?ついでに届けてきたら?」
「そうなんだけどさ、明らかに火に油を注ぐようなおまけ付きだからさ」
紙束の表紙にMAGIC AVIATION BATTLE AIRSHIP「Hippogriff」と書かれている。
魔導航空戦闘飛空艇…ヒポグリフ?
グリフォンと馬の合の子?
なぜに?普通にグリフォンでいいんじゃないのかとか思ったりしたが、あの二人の思考を私のような凡人に理解できる訳もないから考えるのを止めた。
にしても、かなり精密に書き込まれてる。
うーん、でも動力源とかはたぶん例の飛行機と同じ物かその改良型だろう
例の飛行機の母艦としての機能が主な様だ。
そこに大砲を載せる感じかな?
もっと複雑な機構が書き込まれている。
なんだコレ、形状的には大型の大砲だが、薬室と思われる場所には何故か非常に細々した機構が書き込まれている。
ただの大砲でないのは明白だ。
そしてこの各所に見られる水晶球?水晶玉?も何を意味するのか…コレって占い師が使うアレだよね
そして各所に見られるミスリルを使った回路、かなりの精密機械であることが一目で解る。
「へー、誰が作ったのかなんとなく解るけど、ソレをホントに届けて良いのかちょっと微妙だよね」
「うん、あの二人の真意が知りたい所だね」
「その手紙を見せてください」
「いいけど…」
私は手紙をランに渡す
「!これ王家の印が押してあります!」
「王様からの手紙ってこと?」
「いえ、コレはもっと違う…王家の印が脇に押してあるので主体は王家ではなくて、王家はどちらかと言うと援助してる様ですね」
ランは中を改める。
「コレは…兄さんの意思を聞かなくてはいけません。もしもコレを受諾するなら私は…」
ランは強く唇を噛み締める
「やっぱりか…あの二人はあくまでプレイヤー、常に私達の味方とは限らない」
「まあ、レンさんはともかくソウジ君は話が通じるから後で話してみましょ?」
「じゃあさっさとここを出ようか」
私達は転移石を目指して階段を登り始めた。