完璧と青髪
目を覚ますとそこはログハウスの中だった。
中はかなりゴチャゴチャとしていて、そこらじゅうにインゴットやら素材やら試験管やらが置かれている。
「うわぁ、もうちょっと整理した方がいいでしょ」
起き上がると体に激痛が走る。
「ぐあっあぁっだっぐっぎぃっ」
諦めて暫く横になっていると段々痛みは退いていった。
あっ、全身鎧が入ってきた。
全身鎧は私を見て、頷くとベッドの横のサイドテーブルに緑色の液体の入ったボトルを置いていった。
きっと私の腹部に巻かれた包帯もあの全身鎧がやってくれたのだろう。
全身鎧はプラカードを持ち上げる。
『声帯が無いので話せません。
御用の方はこちらでお待ちください。泥棒の皆さん、どうぞお仕事にお戻り下さい。私が全力で追跡及び殲滅してあげす故』
と書かれている。
どうも彼は青髪では無さそうだ。
全身鎧は別のプラカードを持ち上げる
『この全身鎧のゴーレム「銀次郎」に叩きのめされた皆様へ。この度は大変なご迷惑をお掛けしました事を心よりお詫び申し上げます。銀次郎には皆様を殺さないように命じてあります故、最低限の治療をさせていただく場合がございます』
更に別のプラカードを持ち上げる
『ここの物は好きに使って頂いて結構ですので、傷の回復に集中して下さい。この度のご来訪ありがとつございます。留守中の主「青髪」』
そこまで解ってるなら何故このゴーレムに人を襲わせるのか…
とりあえずサイドテーブルからボトルを取って痛くない程度に起き上がって飲む。
「苦い…」
でも我慢して飲みきる。
すると体力と魔力が急速に回復し始める。
とりあえず一眠り…
私は再び眠りに落ちた。
「はぁ…」
目が覚めると外は暗くなっていた。
「おっ目が覚めたね」
そこには赤い髪に白い鎧のプレイヤーが居た。
「レンさん?」
「そうだよ。どうせあの子にやられたんでしょ?」
レンは森の方を指差す。
私には見えないがあの全身鎧の銀次郎が駆け抜けているのだろう。
「君は比較的マシな方だよ?酷い人は打ち上げられて地面とキスしてミートペーストになったよ」
「なぜ貴方がここに?あのゴーレムに打たれた私を見にきた訳じゃ無さそうだし・・・」
「そうだよ、僕は君がここに来ている事を全く知らずにここに来た。ここの主は今、本の向こうでチート武器を作ってるよ」
「ここの主って」
「あれ?知ってて来たのかと思った。ここは青髪ことソウジ君の秘密の作業小屋だよ。まあちょっとした家みたいになってるけどね」
「青髪ってソウジ君のことだったのか・・・」
「あのゴーレム、銀次郎君を復元したのもソウジ君だよ。素体は君達がボロ負けしたミスリルゴーレムのコアだったと思った。成長速度は段違い、ステータスの上昇度合いも使い魔にしては異常だよ。銀次郎君は復元からまだ十日ちょいちょいしか経ってないのに、既に攻略組と肩を並べるだけの力を獲得した。将来は有望なボスクラスだよ」
私は絶句した。
単純に実力の差があった。
彼は私たちがボロ負けした三日後ぐらいにあのゴーレムをテイムした。
確かに、あのときは全く統率が取れてなかったけど、もし確り準備が出来てれば勝てたかと言われると難しかったと思う。
「あっ、因みに僕は手を貸してないよ?ちょっと情報をあげただけ」
「ソウジ君はアレを一人で倒したんですか?」
「そうだよ、初っ端から本気出して掛かって十数秒で片付けたらしいよ、本人曰くね」
「十数秒・・・」
普通なら絶対にあり得ない数字だ。
バグかチートか抜け道があったのか…
「あっ、そうだった。臓器の回復速度を上げるポーション作ったけど飲む?」
レンさんは緑色の液体の入ったグラスをストレージから取り出す。
「僕の作る薬は効果と飲みやすさを両立してるから、ソウジ君の作った薬よりは飲みやすいと思うよ」
私はその緑色の液体を飲み干す。
確かにさっきのよりは飲みやすかった。
「それで今日は別の目的があって来たんでしょ?」
「そう、悪魔の力を抑制するか制御を手助けできる物を探してて」
「悪魔ね~、知り合いに魔王は居るけど話、聞いてみる?」
唐突に床に魔法陣が浮かび上がる
「あっやっと帰ってきたね」
「戻ってきて早々お前の顔を見るとげんなりするな・・・」
「いや居るの知ってたでしょ?」
「てっきりもう帰ったかと思ってた」
ソウジは片手に本を持ち、もう片方の手に三本の刀を持っている
「おじゃましてます」
「こんばんは、アオイさん。事前に連絡を頂ければ銀次郎を止めて置いたんですけどね。既に一戦やった後みたいですね」
「そう、どんな戦闘内容だったのかは知らないけど内臓を幾つか潰されてたから結構重症だよ」
「ここまで来たってことは、依頼ですね?」
「ソウジ君、もうちょっとなんか無いの?」
「だって一応ここ、青髪の野良猫の名義で買ったエリアで、店舗兼作業小屋だし」
「ランが悪魔落ちして、暴走と鎮静化を繰り返してて危険な状態なので悪魔の力を抑制か制御を手助けできる物を探してるんです」
「ランさんが悪魔落ちですか・・・物に関しては探すより作った方が早そうです」
「だよね。僕が作ってもいいんだけど・・・下手に作るとどんな副作用が出るかわからないからね」
「副作用!?」
「当たり前でしょ?溢れる力を外的要因で無理矢理抑えるんだから多少の副作用は付き物だよ」
「下手に聖属性の物とか近づけると逆に強くなったりするかもだし」
「そうですか・・・」
「とりあえずアル君に聞いてみようか」
レンはウインドウを弄る。
「もしもし、アル君?ちょっと情報提供して欲しいんだけど」
『今、忙しい』
「政務でしょ?解ってるから。そのまま聞いてね」
『さっさと済ませろ』
「アル君のとこで悪魔が暴走した場合ってどうするの?」
『暴れるだけ暴れさせて力を全て放出させる。その後は力を抑制する拘束具で抑えつけて暴走が止まるまで待つ』
「それによる副作用とかは?」
『俺らは体が丈夫だから特に無いな。あぁ?謀反だと?すぐ行こう。ライト、後頼んだ。セイスティーネ、第三師団を連れていく。300秒で出発する、準備急がせろ。んでなんだった?』
「副作用は?」
『ああ、暴れて周りが被害を受けるかもな。後は力に耐えられずに内臓が破裂する程度だな。終わりか?なら切るぞ?』
「あっ、じゃあその拘束具を一式用意して執務室にでも置いといて」
『しょうがないな・・・レフト、暴走対策の拘束具を神界のレンの執務室に届けてくれ。それじゃあもう掛けてくるなよ?ブツッツーーツーー』
「だってさ、内臓破裂だって」
「レン、パッと執務室行って拘束具取ってこい」
「いや、もう取ったよ」
レンはウインドウに手を突っ込んで、引き抜く。
その手には重々しい印象を与える黒い拘束具が握られている。
「それでアオイちゃん、どうする?この拘束具を使うか、この拘束具をソウジ君に改造してもらうか、僕がこれと同じ効果を持った物を作り出すか」
「たぶんレンに任せるのが最善だと思うよ。なんだかんだ言っても神だし、こういう時は変な小細工はしない・・・しないよな?」
「流石にTPOはわきまえてるつもりだよ。」
「え~と、基本的にはこの拘束具と似た効果を付与できればいいんだよね?」「いや、力を吸収してワイヤレスで拘束する方がロマンがあるだろ。どのみち力をどうにかしないといけないんだから」「じゃあ力を吸収して別の何かに変換できるようにしよう」「力を吸収して魔力に変換して回復効果を発動させるとか?」「それなら悪魔の力をそのまま回復効果に変換しちゃおうよ」「デザインはどうする?」
ここに来てここ一週間の間の私の目的は急速に達成されようとしていた。
で翌朝、私は病院に来ていた。
もちろん完成した腕輪をランに渡すためだ。
ランは特殊な隔離部屋に入っている。
真っ白な部屋で、真ん中にベッドがポツンと置かれているのだ、それも拘束具付きのやつが。
患者が恐慌状態にあるときに使う部屋らしく、暴れても患者が怪我しないように部屋からあらゆるものを取り去ってあるとの事。
そして窓がないのもそういう理由らしい。
元は真っ白な部屋だったのだが、今は真っ白とは言いがたい状態になっている。
所々黒かったり茶色かったり赤かったりしているのだ。
全てここに来てからランが流した血だ。
力の暴走はやはり体にかなりの負荷がかかるらしく、ランは何度も吐血したり指先から血を流したりしていた。
だが、ランの意思とは無関係に力は暴れている様で薬で眠らせるまでは永遠と暴走による再生と崩壊による停止を繰り返していた。
その度に何度も哭いて、絶叫して、血を吐いていた。
正直見ててキツい
なんど、楽にした方がいいんじゃないかと考えたか今では思い出せない。
「ランフォート、遅くなってごめんね…」
私はランの右手に受け取ってきた白銀の|腕輪<<バングル>>を嵌める。
腕輪はスッとランの腕に填まって、自然とカチリと音をたてた。
レンさんの言っていた通りにバングルの装飾が紅く光りだす。
『紅く光ってる時は正常に機能してるときだよ。そのバングルは悪魔の力を吸収して常時回復効果と攻撃力上昇、防御力上昇、HP量上昇のバフを発動する。ちょっとだけ面白いギミックも付けたからいつか動いたら楽しいと思うよ』
続いてソウジ君が
『それと、それの表面の装甲には俺が細工を施して破壊不能オブジェクトにしてあるから結構雑な扱いしても大丈夫ですよ』
で再びレンさん
『うん、ソウジ君の細工の効果に関しては僕が保証するよ。絶対大丈夫だから、あとはランちゃん次第だよ』
ランの肌の色がバングルの近くから徐々に戻っていく。
腕輪が吸い上げているのだ。
一対の翼も徐々に萎れていって、最後には跡形もなくなり、角も徐々に戻っていった。
牙も直ぐに元に戻ったが、髪だけは元に戻らなかった。
色素が完全に抜けてしまったらしい。
いくら神が作った腕輪でも失ってしまった物を元に戻すのは容易ではないようだ。
しかし、今はコレで充分だと私は思った。
だって皆が健やかならそれ以上は要らないでしょ?
そのあと数時間もしない内にランは全快して隔離病棟から一般病棟に移された。
数日間の急激な力の暴走と鎮静の影響で筋肉がかなり落ちてしまい、数週間のリハビリが必要だと医師は言っていた。
でも重大な障害は残っておらず、見た目的には片腕を失っている私の方が重症だ。
はやいとこ義手を作り直して貰わないと不便でしょうがない…いっそ義手もレンさんとソウジ君に頼もうかな…
いや、いくら取られるか解んないから止めておこう。
それに義手はやっぱりレイが作ったやつが良いしね。
「アオイ?どうかしたの?」
レイは棚に置かれた花瓶に花を挿しながら言う
「ううん、ちょっと幸せを実感してただけ」
「幸せって…ふふ、確かにランも完全復帰とは言えないけど回復したし、私もアオイも無事だったしある意味幸せですね」
「なんか私の為にアオイがかなり奔走してくれたって聞いたけど…」
「あー、気にしないで?私はできることをしようとしただけで結局何もできなかったから…」
「そう言えばその腕輪どこで入手してきたの?」
「やっぱり聞く?色々回った末にレンさんとソウジ君の所に行き着いて作って貰った。それ結構高かったんだよ?…おかげで私の財布にも氷河期が来ちゃった」
「え…アオイの財布に氷河期ってかなりのお値段じゃ…」
「まあまあ、それでランが治るなら安いもんでしょ。それに銀次郎の事もあるからって負けて貰ったし…実際その腕輪の性能からしたら倍の価格がしてもおかしくないんだよね」
「銀次郎?何かあったんですか?」
「うん、まあね…ソウジ君のゴーレムと一悶着あってさ…負けちゃった。最近負けっぱなしだからもっと強くならなきゃね」
「そうですね」
「でも、不思議です。ソウジ君本人ならあり得なくもない話かと思ったんですが、その使い魔に負けるなんてアオイにしては考えられませんね」
「あはは、これで私もうあのゴーレムに二連敗してるんだよね…次は勝たないと…」
「あはは、まあそれより先に義手を作り治さないとですね」
「そうそう、早く作り直して貰わないと不便でしょうがないんだよね」
ガラッ
「おっじゃましま~す、腕輪の調子を見に来たよ~」
赤髪に白い鎧のレンさんと蒼髪に白いコートのソウジ君が並んで入ってきた。
「お見舞いに来ましたよ。筋力値が落ちたって聞いたので筋力増強ポーションにプロテインを配合してみました。ほら、銀次郎も挨拶して」
ソウジ君について入ってきた銀色の全身鎧はその場でお辞儀する。
「わー、お行儀のいいゴーレムですね」
「いや、どうも銀次郎がご迷惑をお掛けしたみたいだったので…今回は大幅に値引きしましたよ」
「いや、確かに内臓潰されましたけどそれもソウジ君の所のポーションで殆ど治しちゃったのでプラマイゼロですよ」
「内臓潰されたって…」
「あはは、大丈夫完治してるから」
「なんか重ね重ね申し訳ない…」
「いや、良いですよ。私はこれで大満足だからさ」
「うーん、でもランさんにはどこかで別の形でお詫びをすべきですね。今度は菓子折り持ってきます」
「腕輪も正常に機能してるみたいだし僕はそろそろ帰るよ。その腕輪は絶対にとっちゃダメだからね?お風呂入るときも寝るときも付けといてね?」
「は、はい」
「じゃあ、またね」
レンさんは病室から出ていった。
「じゃあ俺もお暇しますね。また何かあったら森の小屋までどうぞ、叶えられる依頼なら全力でお応えしますよ」
そう言い残してソウジ君も出ていった。
「なんか嵐のような人達でしたね」
「そうだね。さ、ランも早く復帰できるようにリハビリ頑張ってね」
「じゃあランさん、今日は帰りますけど病み上がりなんですから無理しちゃダメですからね!」
こうして私達はランの病室を後にした。