消毒済みは媒体を触れる義務
パチパチパチパチ、と、ひびく音。今日もわたしは音ゲー三昧。
……終わった。さて後ろを見る。だれもいない。ならもう一度。中古の財布の硬貨がコロリ。
「汚い手でさわるなっ!」わっ。いずこからか声が聞こえたぞ。どこだろう。
右左真後ろ。ふむ。そのいずれでもなし。じゃあどこー、なんて途方に暮れる。そんなわたしに憐れみをたれたのか、先ほどの声、もう一度。自存在の位置示す如く。
「どこ見てんだよ! こっちだよっ!」方向感覚を分娩室に置いてきたわたしですら理解。
目の前だ。
ここでちょっと説明しよう。わたしがやっていたのは「Alphanima」という音楽ゲーム。筐体にはボタンが八つはめられていて、これをぶっ叩いてプレイするってわけ。
で、声はなんとそのボタン部分から聞かれたのだ。
いやしかし、そんなことはあり得ない。これプラスチックの非生物。声など出せるはずがない。
「おい!」しかしもう一度聞かれたあのお声。幼い少女のような声。それは間違いなくここから。なんだなんだと頭を近づけていくと痛っ!
ボタンは少女と成り果てん!
どのボタンも少女だったから、すなわち八人の少女。顔の相似から察するに、おそらく彼女ら八姉妹。そういえば先ほどからの三つの声、すべてわずかに声色の違い。
「やー、あんた! よくも汚い手で触ったわね」真ん中の少女高らかに叫ぶ。わたしの鼻先に指突きつけて。おお、けっこうな迫力、わたしは萎縮。しかし反論しなければ。
「汚いだなんて心外な! わたしの両手、浄化の手。一度ならずと水くぐり、菌のひとつもいやしません!」
「ウソつけ不浄の怠け者! 白熱のプレイはいいけれど、両手の発汗とどまらず、我が光沢の表皮を不躾に汚さん!」さっきの娘のとなりの娘、わたしの手汗を咎めるに、今改めて両手を見れば、なるほど確かに塩気をたたえん。
こりゃ失敬と必死の謝罪。「いやはやどうもすみません。あと少しで届いたハイスコア。それに目くらみ心ははやり、にじむ手汗に気づきもしないで」
「わかればよろしい」と、八姉妹。声をそろえて言いにけり。まばたきのうちに消えにけり。
「ありゃ何だったのだろう」としきりに首をひねるなら、背後から思い切り殴られた見れば――
店員なり!




