パパ
バーンの案内で緑と凛香は店の裏側へとやってきた。
しかし、そこは特に何もない薄暗い狭い部屋があるだけだった。
バーンはおもむろに木製の本棚から一冊の古びた本を取り出した。
すると何やらガチャという音が鳴り、バーンは本棚を横へとスライドさせた。
本棚を横へと滑らせると、その奥に木製の扉が顔を出した。
バーンは慣れた様子でその扉を軽く二、三度ノックした。
「パパ、入るよ。」
扉を開き、中へと入るとバーンが緑たちに手招きをした。
「今日はお客さんがいるんだ。紹介するよ緑と……えっと。」
「り、凛香です。」
隠し扉の奥の部屋は意外と広かった。
おそらく十二畳くらいはあるだろうか。
シックな作りで部屋の中央に三人掛けのソファーが対面に置いてあり、その間にガラスのテーブルが置いてあるだけのシンプルな部屋だ。
「お帰りバーン。その子たちは友達かい?」
緑はパパを見て驚いた。
色白で小さな顔は、どう見ても二十歳前後にしか見えない。
バーンの方が年上にしか見えない。
緑はバーンの顔とパパの顔を何度も見比べてみた。
「なんだよ、ジロジロと。言いたいことでもあるのか。」
ここで緑は一つの答えに辿りついた。
おそらく『パパ』というのは、あだ名なのだろうと。
そして思い切って聞いてみた。
「あ、あの、パパさんってバーンさんの本当のお父さんっていう訳ではないですよね。」
「ああ!?本当の父親じゃないって?じゃあ何か、俺はパパと血の繋がっていない、種違いの子供だとでも言うのか。」
「い、いえそういう意味では――。」
「おいバーン。彼が困っているじゃないか。」
パパは優しい口調でバーンをなだめた。
「君らがそう思うのも無理はない。だけど私は正真正銘、バーンの実の父親なんだ。」
これには緑は心底驚いたが、世の中には凄く若々しく見える人がいらるものなんだと、感心した。
「申し遅れたね、私はエリオットといって、この店のオーナーをやっているんだ。君たちは、緑君と凛香ちゃんでいいかな。」
緑と凛香はエリオットの大人びたオーラに萎縮してしまい、無言で頷いた。
「突然お邪魔してすみません。外で襲われてしまって勝手に、この店に入りこんでしまいました。」
「いいんだよ。今は誰もが混乱状態にある、いわば非常事態だからね。」
エリオットは綺麗な金色の髪をかきあげながら静かに言った。
「あの……いったい今、何が起きているのでしょうか?貴方ならその答えを知っていると、バーンさんが言っていたのですが。」
エリオットは少しきつい視線をバーンに送った。
「い、いや知っているかもって言っただけだよ。本当だよ、パパ。」
「ふーっ。まあいいでしょう。確かに私には今、この世の中で何が起きているのか、だいたい想像がつきます。ですが、それを君たちに簡単に話すことはできない。」
エリオットはソファーから立ち上がり、何かを考えながら喋っているようだった。
「お願いします。教えてください。」
緑は深々と頭を下げた。
その緑の態度をエリオットはどこか楽しげに見つめていた。
「――教えてもいいが、条件がある。」




