厄払い
尊は結ばれていた紐を解いていった。
そして箱を開くと、そこには何やら刀の様な物が姿を現した。
「これは直毘家に先祖代々伝わる刀……名前忘れちゃった。ま、まあいい、この刀は厄払いの力があると言われている。これをお前に授けよう。」
緑はその名も知らぬ刀を手にした。
その瞬間だった。
ドクン!と心臓が激しく鼓動し、カーッと燃えるように熱くなった。
「な、なんだ?」
緑は慌てて刀を捨てようとした。
しかし、手から離れない。
「父さんこれどうにかしてくれよ!」
しかし尊は手を出さなかった。
「大丈夫だ、緑。その刀がお前を持ち主と認めたんだ。父さんも爺ちゃんに持たされたけど何も起きなかった。すごいぞ緑。」
緑は他人事のような尊の態度に少し腹が立った。
しかし嫌な感じでは全くなかった。
まるで自分の中をゴウゴウと滝が流れているようだった。
それは穏やかでありとても力強いものである。
緑は自分が覚醒していくのを自覚していた。
「緑、全てを受け入れろ!」
父の声に緑は刀に身を委ねた。
刀は少しずつ緑の身体へと吸い込まれるように入っていった。
「……緑、大丈夫か?」
緑はゆっくりと目を開けた。
尊は我が子に『緑』と名付けた日のことを思い出した。
生まれた赤ん坊の瞳の奥には微かに綺麗な緑色があったことを。
その美しい瞳を見て名前を『緑』と名付けたのである。
そして今、目の前にいる我が子の、その瞳はこれまで以上に深い緑色へと変貌を遂げていたのである。
「――父さん、俺は今すごく気分がいいよ。」
「そ、そうか。その刀の力はきっとお前に降りかかる災いを払い除けてくれるだろう。」
二人は地下を出て今後のことを話し合った。
そして出した結論は、まず家族を探し出すというものだった。
「お前は家で待ってるんだ。」
「いや、父さんこそ待ってて。俺が二人を探してくる。もしかしたら家に帰ってくるかもしれないし、姉さんとも連絡を取り続けててよ。」
緑の姉の紅は実家を出て都心で一人暮らしをしていた。
緑は最初、異変はこの地域で起こった限定的ものだと勝手に思っていた。
しかし、これが全世界で起こっている出来事ならばとんでもない事態だということを想像した。
仮にそうであるのならば、これは最早人類滅亡の危機といっても過言ではない。
それは最悪の事態だ。
尊はおもむろにテレビをつけてみた。
しかし、どこのチャンネルも砂嵐だ。
パソコンを見てネットの掲示板を見てみると、もの凄い早さでコメントが流れていた。
そしてその直後サーバが落ちた模様で閲覧出来なくなった。
「本当に行くのか?」
「大丈夫だよ。父さんが行くより俺が行ったほうが絶対にいいから。だってあの刀は災いを払い除けてくれるんだろ。」
緑の真剣な眼差しに尊は、それ以上なにも言えなくなった。
「緑、母さんと紫野のこと頼んだぞ。」
「ああ。父さんこそ家の中だからって気を抜かないでよ。」
「分かった。気をつけてな。」
「行ってきます。」