天の使い~vol.Ⅴ~
突如現れたマチルダの軍勢に、天使たちも最初は動揺を見せていたが、次第にそれも無くなり彼らは冷静に戦いに対処できるようになっていった。
「この戦況、少しまずいわね。」
マチルダは自分の配下の者たちの戦いを見て、そう言った。
「皆、この場は退きなさい。」
突然のマチルダの指示に、一瞬戸惑いを見せたが、彼らは彼女の
言う通りにすぐに姿を消した。
だが、ただ一人だけがその命に背くようにして、その場に佇んでいた――紫野だ。
「紫野、貴方もよ。貴方たちでは彼らに勝てない。無駄に命を落として私を悲しませないでちょうだい。」
「……マチルダ様。俺は、この馬鹿な兄貴を放っていくわけにはいかない。それに貴女がもしも殺られてしまったら、俺たちはどうすればいいんですか。」
紫野の言葉にマチルダはすぐに反論出来なかった。
マチルダとて、この天使たちに勝てるという保証が全くなかったからだ。
「分かったわ、紫野。貴女は緑を命に変えても守りなさい。もちろん貴方自身もよ、判っているわね。」
「はい、マチルダ様の望みのままに。」
緑は、マチルダと紫野の間に大きな信頼関係があるのだと、はっきりと認識した。
「紫野、何で?」
緑は自分でも思いがけない言葉を発したのに気がついたのは、そう口にした後だった。
「聞いただろ、マチルダ様の命令なんだ。」
最初に紫野は自らの意思でマチルダの命令に背き、緑を守るために残ることを決めたのは明らかだ。
だが、緑にはマチルダの命令とだけしか言わない紫野に対し、それ以上何も言わなかった。
ただ一言を除いては。
「――ありがとう。」
そんな二人のやり取りの最中、エリオットとマチルダは天使たちの猛攻を受けていた。
各一名ずつの天使を撃破したとはいえ、まだ天使は六体残っている。
その六体を二人で破るのは困難な状況だ。
その証拠にマチルダは人ならざる動きで天使と戦っていたが、徐々に押され始めていた。
エリオットも彼女と同様に三体の天使に囲まれ防戦一方の状況だ。
「……マチルダ様。」
「紫野、あの人の加勢に行ってくれ。」
「なっ?さっき聞いてだろ、俺は兄貴を守るようにってマチルダ様が言ってただろ。」
「それでも、行きたいんだろ?」
「――当たり前だ。」
「行けよ。俺は大丈夫だからさ。」
緑の言葉に動揺を隠せない紫野は、どうしていいのか自分でも判断できずに動けなかった。
「紫野!――たまには兄貴の言うこと聞いてくれよ。」
その言葉で、紫野は決断した。
「行ってくる。すぐに戻ってくるから死ぬなよ。」
「ああ。」
「――サンキュー。」
紫野はすぐにマチルダの元へと信じられない跳躍力を見せて、加勢に向かったのだった。




