天の使い~vol.Ⅳ~
緑とエリオットは、白に気をとられていた天使たちの隙を突き、一気に攻撃できる範囲まで侵入することに成功した。
「こっちは私が引き受ける、緑君はそっちの奴を頼む。」
「えっ、でもどう動いていいか――。」
緑は自分の足下を見ながら戸惑った。
「心配しなくていい。君は自由に動いてくれて構わない。君の動きに合わせて私が足下を確保するから安心してくれ。」
緑は恐怖を感じていたが、エリオットの言葉を信じて天使へと斬りかかった。
「なっ!?いつの間にこんな上空まで!」
天使の一人がエリオットに気づいた。
だが、時は既に遅しである。
エリオットは具現化させた鋭い槍で天使の一人を突き刺した。
「お、おのれ、人間が!」
その声で他の天使たちも二人の存在に気がついた。
その時、緑は既に他の天使の背後を完璧に捉えていた。
「いける!」
緑は躊躇わず、その背に一太刀浴びせた。
手応えはあった――だが、何故か天使にはダメージが入らない。
「お、脅かしやがって、このガキ!」
天使は緑を弾き飛ばした。
その間、エリオットには三人の天使が襲いかっていた。
一瞬の隙を突かれ、落下する緑を救う余裕がエリオットにはない。
緑はエリオットのガラスの階段から突き落とされる形で地面へと落下していった。
「翼もない人間にはどうすることもできんだろ。叩きつけられてあの世へ行くがいい。」
緑もどうすることも出来ずにいた。
だが、緑が地面へと叩きつけられる寸前に何者かが彼の体を包むように受け止めた。
緑は瞑っていた瞳をゆっくりと開けて、その顔を確認した。
「し、紫野!」
彼を受け止め、救ったのは弟の紫野だった。
「なに、やってんだよ兄貴。」
「なんだあいつは、もう少しで挽き肉になるはずだったのに邪魔しやがって!」
緑を突き落とした天使が悔しそうにしていると、真後ろから囁くような甘い声が聞こえた。
「あら、邪魔してごめんなさいね。というより貴方が挽き肉になったらよいではありませんか。」
天使は慌てて振り返った。
そこにいたのは美しい女神のような一人の女だった。
「な、なんだお前は――!」
そう言った天使は、すぐに自分の体の異変に気づいた。
――心臓をえぐられている。
「な、いつの、間に――。」
マチルダはその細い手で天使の心臓を貫いていた。
「なんだ、あの女は。普通の人間ではないな。」
他の天使たちもマチルダへと注意を払っていた。
その隙に、エリオットは一旦地上へと降り緑と共に態勢を整え直した。
「マチルダさん、恩にきます。」
「これは貸しですわよ、エリオット様。」
辺りには、マチルダの配下の者も数名待機していた。
形勢はこれでイーブンと、いったところだろう。
しかし、緑には気がかりなことがあった。
それは自分の直毘刀が天使には通じないということだ。
これでは、ただの足手まといにしかならない。
そんな不安が緑の脳を支配していったのであった。




