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神の名は

緑と紫野はしばらく無言でいたが、さすがにそれではまずいと思った緑は自分が兄なのを思い出したように口を開いた。


「紫野……お前どうしちゃったんだよ。何で自殺なんて考えるようになったんだ。」


できるだけ感情的にならないように気を遣いながら緑は語りかけた。


「……兄貴には分からないさ。俺のことなんて。」


「確かにお前とは最近口もきいてなかったけど、それくらい話してくれてもいいだろ。」


「――生きていくことがつまらないって思っただけだ。」


「お前、その年で何言ってるんだ。確かにそんな時期もあるかもしれないけど、そんなの一時のことだ。お前は昔からせっかちだったからな。少しは大人になれよ。」


これまでは冷静に話していた緑だったが、紫野の呆れた理由に緑はつい興奮してしまった。


「そんな説教やめてくれ。兄貴のそういうところが嫌いだったんだよ昔から。」


二人はヒートアップしていく。

ふと緑はこんな口喧嘩いつ以来だろうと考え、少し冷静さを取り戻した。

そんな二人のやり取りに少しの間が空いた、その時だった。

部屋の扉が静かに開き、エリオットとマチルダが戻ってきた。


「二人とも兄弟喧嘩は、ほどほどになさいね。」


マチルダは子を諭す親の様な口振りだった。


「エリオットさん、早くこれを外してもらいたんですけど。」


「そうだね、すまない。」


エリオットが指を鳴らすと驚くことに鎖はあっさりと外れた。

これにはマチルダも驚きを隠せなかった。


「お見事ですわ。さすが黄金の世代の生き残りですわね。」


「いやいや、それほどでも。貴女こそ銀の世代の突然変異、特殊な力をお持ちで羨ましいですよ。」


二人のお世辞の応酬に緑と紫野は呆然と見ていることしかできなかった。


「そうだ、緑君。私とマチルダさんと話し合った結果、私たちは協定を結ぶことにしたんだ。」


「――協定ですか?」


「そうだ。彼女には我々と敵対する意思はないそうだ。」


「それを素直に信じていいんでしょうか?」


緑はエリオットを心から信用していた。

だが、やはりマチルダに関しては紫野の件もあって簡単には信じきれない。

そんな葛藤が緑の中にはあった。


「信じなさい。正直いうとこんな世界になろうと私には関係のないことだけど、私の可愛い仲間たちにとっては残酷な世界よ。人間を捨てても彼らの家族はまだここにいるのだから。それにこんなふざけた世界にした、神とやらにも一度会ってみたくなったのよ。」


緑はそれ以上なにも言わなかった。

紫野に関してはこれから手を組むのであれば、ゆっくりと話す機会も訪れるはずだ。

何よりエリオットが決めたことなら信用してもいいはずだと、判断したのだ。


「よし、決まりだ。それでは皆に聞いてもらおうか。我々の共通の敵のことを。」


エリオットは、ゆっくりと息を吐いてからそれを口にした。


「我々人間を造りった、その神の名は『ネメシス』だ。」

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