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贈り物

緑は足早に自宅へと向かっていた。

もちろん道中には異変に見舞われた人々が、まるでゾンビの如く徘徊していた。

それは、さながら地獄絵図の様な光景が街中、至るところで展開されてるということだ。


緑はなるべく襲われている人々の声を聞かないようにしながらも警戒を怠ることもせずに家路へと急いだ。

幸いなことに緑の家の方面には凶暴化した人は少なかったようで危険な目に遇うこともなく、なんとか無事に自宅へと帰りついた。


元々閑静な住宅街ではあるが、この時ばかりは不気味な程に静まり返っていた。


緑は恐る恐る玄関を開けて、「ただいま。」と呟く様に言った。

しかし反応はない。

靴を脱ぎ、湿った靴下のまま家へと上がった。

ゆっくりとリビングの扉を開け中を確認するが、そこに家族の姿はない。

皆、無事なのだろうか。

それだけが緑の頭の中を駆け巡っていった。


その時だった。


「おい!誰かいるか!」


緑が帰ってきた時とは正反対にドンッ!と激しい音を立てて家に上がり込んで来た男の声に緑は心底安堵した。

聞き慣れた声の主がすぐに自分の父、たけるであることが分かったからだ。


「父さん!」


「おお、緑。大丈夫だったか?」


「うん。母さんも紫野しのも居ないんだ。どこに居るか父さん知ってる?」


緑はきっと父も、たった今帰ってきたばかりで母や弟のことは知らないだろうと理解してはいたが聞かずにはいられなかった。


「すまん、分からないんだ。仕事で外回りに出ていたら街中が混乱状態になっててな。心配で家まで走ってきたんだ。」


尊は額に汗を滲ませ、息が荒かった。

普段から、結構な距離をジョギングをしている尊だからこそ、この程度の疲労で済んでいることは容易に想像できた。

きっと同じ年頃の中年男性ならここまで走ってくることさえ困難だったかもしれない。


「一体何が起きているんだ?」


「分からないけど……戒も変になって襲ってきたんだ。」


緑は一瞬躊躇したが戒のことを話してみた。


「鈴野さんのお宅もちょっとだけ寄ってインターホンを鳴らしてみたんだが反応はなかった。皆、無事ならいいが……戒君のことはこれから考えてみよう。とりあえずこれからどうするか考えなくては。」


二人はスマートフォンでアドレス帳にある知人友人に片っ端から電話してみた。

電話に出る者もあればそうでない者も当然いた。

しかし、二人の家族には繋がらなかった。


「父さん、これからどうしよう。」


「緑、ちょっと来なさい。」


緑は父に言われるがまま後をついていった。

リビングを抜け中庭に出ると、物置小屋へと入った。

そして古びた匂いのする小屋の灯りをつけるとおもむろに置いてあったブルーシートを剥がした。

するとそこには錆びた鉄の扉のようなものがあった。

尊はそれについていた南京錠の鍵を懐から取り出し、解錠して扉を開いた。

そこは地下に通じる扉だった。


「父さんここは?」


緑はここの存在を一切知らなかった。

それだけに驚きを隠せないでいた。


「秘密の部屋といったところかな。まあ降りてみよう。」


緑はここがシェルター的ものだと感じていた。

だが梯子を降りると、その粗末さに再び驚いた。

畳一畳程しかないそこには何やら神棚のような物がポツリと置いてあった。

そこには細長い木箱が一つ奉られている。

尊はそれに手を伸ばし埃の被った箱にフーッと息をかけて払った。


「ゴホッゴホッ、ずっとここに置いてたからな、埃まみれだ。」


「それはなに?」


「これはお前への贈り物さ。」



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