お迎え
マチルダは緑に包み隠さずに全てを話した。
「そ、そんな馬鹿な。なんで紫野がそんなことに……。」
緑は衝撃のあまり言葉を失った。
紫野がもはや人間ではないという真実、それに自分の弟がまさか自殺を考えていたなんて思ってもみなかった。
それだけに緑はマチルダの言葉を鵜呑みにすることはできなかった。
「紫野が人間ではなくなった、なんて嘘だ!」
「残念だけど事実よ。それに貴方だって人間じゃないでしょ、どう考えたって。」
緑は最近そのことを考え始めていた。
自分はいったい何なのだ、と。
もしかしたら、もはや自分は人ではなくなってしまったのではないかと。
マチルダの言葉に反論できなくなった自分がいるのを自覚していた。
「どうかしら、この際貴方も私の生き血を飲んでみるっていうのは。そうすれば兄弟ともにこの先私たちと楽しく生きていけるわよ。」
マチルダの提案を即座に否定できない緑は頭が混乱していた。
その時だった。
突然、マチルダの手下の男が部屋へとなだれ込んで来たのだ。
「マ、マチルダ様!紫野が変な男を連れて戻ってきました。」
「変な男?面白そうね。ここに紫野と一緒に連れて来て。」
マチルダの手下が直ぐに部屋を飛び出すと、すぐに紫野の姿が緑の前に現れた。
そして、その隣にはよく知った顔があった、エリオットだ。
「やあ、緑君。元気そうで良かった。」
「エリオットさん、どうしてここに?」
「いやぁ、レミが君と君の弟を間違えて連れて来たみたいだから、迎えに来たんだよ。ねえ紫野君。」
エリオットの隣でうつ向いている紫野は何も答えなかった。
「紫野……お前なんで……。」
「兄貴には分からないさ。俺のことはほっておいてくれ。マチルダ様、兄貴を解放してあげてもらえませんか。」
マチルダは少し考えてから、笑みを浮かべた。
「それは構わないけど、その前に二人で暫くお話ししなさい。もう二度と会えないかもしれないのだから。それで私はそちらの紳士と少しお話しがしたいわ。」
そう言ってマチルダはエリオットの腕に手を回した。
「悪くないお誘いだ。緑君、しばらく紫野君と話していてくれ。私も彼女に色々と聞きたいことがあるのでね。」
エリオットとマチルダはまるで恋人同士のように腕を組んだまま部屋を出て行ってしまった。
残されたのは紫野と鎖に繋がれたままの緑の二人だけだ。
「……紫野、お前どうしちゃったんだよ。何であんな連中と一緒に――。」
「――仲間だ。あいつらは皆俺の大事な仲間だ。悪く言うなら兄貴でも許せない。」
その真剣な紫野の眼差しに緑は言葉を詰まらせたのであった。




