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不思議な空気

緑とバーンが閉じこもっている浴室の扉は、今にも破られそうだった。


「どうするんだよ、緑。俺はこんなとこで死にたくねえ。」


「……大丈夫。父さんはきっと分かってくれる。」


「なに言ってんだ、お前気は確かか?もういい、入ってきたら殺るからな。」


そしてついに、浴室の扉は壊され緑の父、尊が中へ侵入してきた。

完全に理性は飛んでしまっている様子だった。

尊もまた他の異変者たちと同じ状況だ。


「くそっ!どうするんだ緑。」


ここで緑は自分でも驚くべき行動をとった。

目の前にいる尊に対し恐怖感はなかった。

それは戒の時には持てなかった感情だ。

きっと父を救えると緑はそう確信していた。

なぜそんな風に思えたのかは本人にさえ分からない。


「お前!?」


バーンが驚くのも無理はない。

緑は両手を広げ尊を迎え入れようとしていた。


「緑!下がれ俺が――!?」


バーンは銃を尊に向けた。

しかし、その時だった。

尊の動きが止まり、緑をじーっと凝視し始めた。

よく見ると、先ほどの本能剥き出しの表情が少し穏やかになっているようだった。


「…み…ど……り。」


そして尊は声を出した。

これまでの異変者は皆、唸り声を上げるだけだった。

それだけにバーンも驚きを隠せないでいた。


「い、今喋ったよな。お前の親父さん。嘘だろ。そんなことがあんのか、奇跡だぜこれは。」


緑は両手を広げたまま、「父さん」と呼び掛けた。

尊は頭を抑え苦しんでいるように見えた。

そして突然、尊は浴室を飛び出し、そのまま家の外へと走って行った。

その後を緑とバーンも追ったが、外に出た時には既に尊の姿はなかった。


「父さん……。」


「とりあえずは難を逃れたな。まあ、そのなんだ、お前の親父さんは他の異変者たちとは少し違ったな。もしかすると元に戻るかもしれないな。」


バーンなりの気遣いだったのだろう。

それに緑も気付き、思わず笑ってしまった。


「な、なんだよ。お前頭でも打っちまったか?親父さんがあんな風になったのに何で笑ってんだよ。」


「ごめんなさい。なんかバーンさんでもそんな風に人を慰める言葉を口にするんだなって思ったら、なんかおかしくて。」


バーンは少し照れるように頬をポリポリとかいた。


「それに父さんはきっと大丈夫――そんな気がするんです。」


最初、バーンは緑と父親の間にある絆が、尊に少し理性を取り戻させたのかと思っていたが、今は全く違った考えが頭の中にあった。

あれは明らかに緑の何らかの力がそうさせたのだという結論に至っていたのだ。

あの時感じた不思議な空気は間違いなく、緑が放ったオーラのようなものだった。

確かなことは分からないが、緑は少し特別な存在なのではないかという思いをバーンは静かに胸にしまったのであった。




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