万事休す
緑とバーンは店の裏口からひっそりと抜け出した。
外は真っ赤に染まっている。もうしばらくすると夜がくる。
夜になったら異変者たちはどうなるのか想像もつかない。
動くなら明るいうちの方がいいだろう。
凛香をエリオットの元に残し、二人はまず緑の自宅へと向かった。
「ここからは気を引き締めていくぜ。」
「――はい。」
街の中は未だ異変者たちで溢れていた。
正常な人々の姿が殆ど見当たらない。
おそらくは殺られてしまったか身を隠しているのだろう。
街のあちらこちらに遺体が転がっている。
目を背けたくなるような光景にバーンは顔をしかめていた。
しかし、緑はそれには目もくれずただ真っ直ぐに前を見ていた。
「なあ、緑。お前ってさ、なんか変わってるよな。」
「えっ?そうですか?」
「変わってるよ。こんな状況なのにどこか楽しそうに見えるぜ。」
「そ、そんなことないですよ!バーンさんってなんというか――。」
「なんだよ?」
「無神経ですよね。きっとモテないですよね。」
「お前、なにその自分がモテます的な発言。確かに俺はモテない。だがお前はどうだ。モテるのか?いや、モテないだろ?きっとそうだ。そんな奴に――。」
「バーンさん、着きました。」
二人の目の前には緑の自宅があった。
緑は勢いよく家へと入り声を上げた。
「父さん!」
しかし、返事はない。
一つ一つ部屋を見回っていく。
すると、上からガタンという物音がした。
「二階?」
上には緑と弟の紫野の部屋がある。
もしかしたら弟が帰ってきているのかもしれない。
そう思った緑は階段を駆け上がった。
そして紫野の部屋のドアを勢いよく開けて、緑は驚愕した。
そこにいたのは父や弟ではなく、異変者だった。
どこから入ってきたのか分からないが、そいつは緑を見るやいなやすぐに襲いかかってきた。
「緑、危ねえ。」
間一髪バーンが緑の襟を引っ張り攻撃を避けることができた。
「ちっ!仕方ねえ。殺るしかなさそうだ。」
バーンは懐から銀色のリボルバー式拳銃を取り出した。
「ま、待って。」
「なんだよ、殺らなきゃこっちが殺られちまうぜ。」
「と、父さんなんだ、この人。」
「なに!?だってお前の親父は異変者になっていなかったんだろ?」
緑は最初、見間違いだと思っていた。
いや、そう思いたかった。
だがそこにいる異変者は紛れもなく自分の父親、尊だった。
「と、とにかく下へ逃げましょう。」
緑は一階に降り、一番近くにあった浴室への扉を開き中から鍵を掛けた。
もちろん尊も追いかけてくる。
ドアを破ろうと何度も拳で扉を殴っているようだ。
「緑どうする?このままじゃあここに入ってくるのもすぐだぜ。そうだ、窓から逃げるか。」
「うちのお風呂窓がないんです。」
「まじか。それじゃあ万事休すじゃないか。やっぱり倒すしかないぜ、緑。」
「どうして父さんが……。」
緑は責任を感じていた。
尊を一人残して自分だけ外に出たのは間違いだったのだと。
せめて一緒にここに残っていれば何か違っていたのかもしれない。
そう考えると胸が締め付けられる思いだった。
「ま、まずい。ドアが破られる。緑、決断しろ。」
「だ、駄目だ!父さんを殺さないで!」




