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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

物語の断片集

たった一つの銃声

作者: 風白狼

 とあるマンションの一室に、訪問を告げるチャイムが鳴る。部屋の主が腰を上げて出迎えに行くと、そこには見知った顔があった。旧知の仲である彼は、あらゆる負の感情に追い詰められたような顔をしていた。彼を迎え入れると、座敷に座らせた。重い口を閉ざしたまま開こうとしない彼を見かねて、部屋にいた女性が話し出す。

「いきなりどうしたんだ?進城(しんじょう)。連絡も無しに訪ねてくるなんて…」

訪ねてきた青年、進城は遊びに来たかのようなカジュアルな格好をしていた。しかし、その切羽詰まった表情を見れば、何か深刻な問題が起きているのだろうという事は容易に推測できる。彼は思案するように視線を彷徨わせる。

「すまない、亜久那(あくな)。俺も、どうしたらいいか分からなくて…」

言いにくそうに口ごもりながら、進城はうつむく。亜久那は笑って、水くさいぞと続きを促した。進城はしばらく思案していたが、意を決したのか両手を床について亜久那を見上げた。

「頼む!俺を…殺してくれ!」

予想だにしなかった言葉に、亜久那は固まった。己の死を望むほどまでに追い詰められているとは、思いもよらなかったのだ。両手をついたまま頭を下げる彼の行動が、いっそう悲痛な印象を与える。衝撃を受けたものの、亜久那は徐々に落ち着きを取り戻し、進城をなだめて事情を聞いた。


 聞かされた話は様々だった。しかし共通して言えるのは、世の中に絶望したから死にたい、そういう事だった。つまり、死んで楽になりたいと言うのだ。相談を通り越して死を決意しているというのなら、わざわざ他人に頼まずとも自分で自分を殺せばいいというものだ。そう問うと、進城は力なく笑った。

「ああ、俺もそう思ったんだ。けど、いざ実行しようとすると手が震えて何もできなくなっちゃうんだよ。…情けないよな。」

亜久那はため息をついた。死ねないなら生きろと冷たく言い返したが、これ以上生きながらえるつもりはないと頑なに言い切られる。彼は己の死以外の道を既に閉ざしているのだ。




 勝手な話だ。進城自身は何も思い残す事はないだろうが、彼を殺せば亜久那の人生はどうあがいても狂う事になる。親友の頼みとはいえ、亜久那が自責の念に駆られて苦しむかもしれない。無論、亜久那は心中を望んではいないし、彼ももちろんだ。だがそれは、残される者が多大な迷惑を被る事になる。少し考えれば分かりそうな事だが、彼の念頭には無いようだった。そうでなければ、親友である亜久那に殺してくれなどと頼むはずがない。

 進城は、どちらかと言えば他人へ気配りのできる優しい人間であると亜久那は知っている。しかし今の彼は、それができないほどに追い詰められているのだろう。自分が苦しくて、自分の事に精一杯で、周りが見えていない。だが逆に言えば、その状態の彼をいっそのこと殺してしまった方が彼自身の為ではないかとも思えてくる。

 亜久那はしばし考えた。もちろん進城の方もすぐに答えを出せるとは思っていないから、返事が来るのをただ待っていた。いくら親友といっても、彼の自己中心的な要求に応えるわけにはいかない。なぜなら、自分の人生を棒に振ってしまう事になるのだから。しかしここで、このくだらない世の中で善良に生きる事が、果たして幸せなのかと自問した。つまらない善良な生き方をするくらいなら、悪く生きていた方がいいのではないか、と。根っからの悪人に成り下がるつもりは無いが、善良な生き方にも疲れた。至極普通に生きていれば体験する事のない殺人に関われるのだから、ある意味幸運かもしれない。




 亜久那は嗤った。

「分かった、進城。そこまで言うのなら、おれがお前の命を絶とう。」

「本当か?」

進城の声に、喜びの明るさが込められている。彼の要求も勝手な物だが、亜久那も勝手な理由で承諾した。自己中心的な思いが、同時に利害が一致したのだ。何も恐れる事はない。

「親友のよしみだ、苦しまないように殺してやるよ。」

期待に揺れる進城の傍らで、亜久那は銃を取り出した。実弾を込め、安全レバーを外す。

「どうやるんだ?」

「心臓に銃弾を当てれば、即死できる。ただし、ずれると苦しむ事になるから、下手に動くなよ。」

いつでも発砲できるように準備を済ますと、亜久那は進城の胸に銃を押し当てた。彼は亜久那に笑いかける。

「ありがとう、亜久那…」

「ああ、おやすみ。」

手に掛けた銃の引き金を、強く引いた。





 体も震えそうなほどの轟音が、辺りに響いた。銃弾は彼の体ごと心臓を突き抜けると、窓を割って外に飛び出し、見えなくなった。進城はその衝撃で後ろに倒れた。まだいくらか温かい鮮血が、胸の穴から勢いよく床に広がる。衝撃でしびれた亜久那の手から、命を絶った銃が落ちた。亜久那には、どうこうしようという気は起こらなかった。動かなくなった彼を、ただじっと見つめるだけ。進城は、安らかな顔をしていた。苦しむ間もなく即死したのだと、少し安堵する。そっと、彼の頬に触れてみた。温もりは徐々に失せ、固くなっていくのがよく分かった。自分の意思でしたこととはいえ、何とも複雑な気分になる。ああ、死んだのか。自分が殺したのか。そう理解するだけで精一杯だった。それ以外はもやもやと渦巻いていて、何が何だか分からない。



 背後で戸を荒く叩く音が聞こえる。亜久那が何もしないでいると、外にいた人達は無理矢理押し入ってきた。

「警察だ。先ほどこの部屋で銃声があったと通報があった。調べさせてもらう。」

変わったな。亜久那は静かに独りごちた。たった一つの銃弾だけで、自分の人生が大きく変わってしまった。もとより覚悟の上だから、大して驚く事ではなかった。答える気もなくなっていた亜久那は、どうぞとばかりに肩をすくめた。もちろん、そんな彼女のそばで静かに倒れる青年と、転がった銃はすぐに見つかった。

「亜久那さん!?一体何があったんです?」

警察と一緒に入ってきた、隣の部屋に住む女性が甲高い声を上げた。亜久那は何も答えない。警察の一人が、訝しげに声の主を見る。

「知っているのですか?」

「ええ、彼女はこの部屋に住んでいて、そこに倒れている男性は、確か進城という名の彼女の親友です。」

女性はそう説明すると、亜久那に向き直った。警察は床に座り込む亜久那に近付く。

「この部屋で、何があった?」

亜久那には、彼らのやりとりが滑稽な物に思えた。笑い出しそうになるのをこらえ、警察の男を見上げる。

「見れば分かるだろう?おれがこいつを撃ち殺したんだよ。」

平然と答える亜久那に、女性は小さく悲鳴をあげた。

「う、嘘よ!あなたたち、あんなに仲が良かったじゃない!」

「疑うのなら、指紋でも硝煙反応でも調べればいいだろう?」

今にも泣きじゃくりそうな女性の言葉を、亜久那は冷たく突き放した。警察の男達は、亜久那の腕を引いて無理矢理立たせた。

「とにかく、署で話を聞こうか。」



 何人かの警官がいる部屋に、亜久那は座らされた。指紋も硝煙反応も検出され、疑いなく亜久那が犯人という事になった。もちろん亜久那は、最初からそれを否定する気など無い。そして、警官はある質問をした。

「一つ聞きたい。何故、親友であるはずの進城を殺した?」

この質問には亜久那は眉をひそめた。

「何故?理由なんて必要なのか?」

「何!?」

不機嫌そうに、亜久那は言い放つ。警官の一人が突っかかったが、なおも平然としていた。

「人の心なんて不確かな物、問いただす必要があるのか?おれが銃を使って進城が死んだ、その事実だけで充分だろうが。だいたい、本当の理由なんて自分にすら分からねえよ。」

そう言いきると、亜久那はそれ以上何も答えなかった。

要するに、サスペンスドラマに対する批判が書きたかっただけです

事件が判明した後の、犯人が動機を語るシーンっていらないと思うんだよね


 まあ、この話をどう捉えてもらっても構わない

でも、ちょっと考えて欲しかった

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