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水龍との共闘


 クラーケンは海底神殿を割って、前進を始めた。

奴が動くたびに、激しい白波が立つ。

 波は敵味方問わずに飲み込み、押し流す。

 それまで激戦を繰り広げていたシュタ―ゼン、リヴァイアの両陣営は蟻の子を散らすように逃げ惑うのみだった。

 

 そんなクラ―ケンへシュタ―ゼンの竜騎兵隊が飛来する。


「目標、超巨大モンスター! 攻撃開始!」


 騎乗する兵士の指示に従って飛竜(ワイバーン)は、口から火球を一斉に放った。

前足に爆弾を抱えている個体は急上昇をする。

そして真っ赤に輝く魔石爆弾を巨大な烏賊の怪物へ雨のように降らせた。

 火球と爆弾が炸裂して轟音が響き、水蒸気と黒煙の混じった灰色の爆炎が青い海を席巻する。

次の瞬間、矢よりも鋭い”水流”が一匹の竜騎兵を撃ち落とす。


「KYUOOO!!」


 健在だったクラ―ケンは灰色の爆炎の中で太い触手をわななかせて、先端から吸い上げた海水を勢いよく放つ。

キングクラブのウォーターガンよりも遥かに威力のある水流。

それは飛竜の翼をいとも簡単に打ち抜いて、次々と墜落させる。

 白波の立つ水面へは、死屍累々と竜騎兵が折り重なるばかり。


「ウィンド、行くぜ!」

「がってん!」


 クラ―ケンの下まで駆け付けた白閃光(ホワイトグリント)のミキオへ、機工剣士(ヴァリアブルソーディアン)のウィンドが答え、そして飛ぶ。


 ミキオは”加速(アクセル)”と”増幅(ブースト)”の魔法をかけて、通り名の通り”白い閃光”となって突き進み、クラ―ケンの触手を激しく打ちすえた。

さすがの大海魔も巨体を揺らして怯んだ。


「機工変更(モードチェンジ)! 殲滅! やったれシャドウ!」

『応ッ! 我らにあだ名す敵は、殲滅、殲滅、殲滅ぅッ!!』


 輝く短剣から熱い言葉が発せられ、それと同時に無数の光線が、クラ―ケンへ向けて放たれる。

 光線は巨大な触手を次々と断ち切って行く。


「へへっ! どんなもんだい!」

「ウィンドッ!」


 勝ち誇るウィンドへミキオが叫ぶ。

次の瞬間、ウィンドは物凄い勢いの水鉄砲を浴びて、海へ落ちて行った。


 クラ―ケンは水鉄砲を撃ち終えた触手を下げる。

それと同時に切り裂かれた触手が生えるように再生する。

そしてまた何事も無かったかのように、侵攻を再開し始めた。


「参ったね、こりゃ……」


 海から気絶したウィンドを引き上げたミキオはそう漏らす。

そんな彼の頭上を、雄々しく翼を広げて飛ぶ、グレーターグリフォンが過って行った。



●●●



(竜騎兵隊もダメ。ミキオはウィンドでも歯が立たない。どうした良いんだろ……)


 リザードマン形態の俺は、グレーターグリフォンの上から、目下の大海魔クラ―ケンを見て、強い不安を覚えた。


 同乗しているアイス姉妹の同じ気持なのか、険しい表情を崩さない。

その間にもクラ―ケンはどんどん進んで、陸地へ迫っている。


「トカゲ」


 不意に俺の腰に腕を回している杏奈が呼んできた。

 なんとなしに、杏奈の思っていることが分かった気がした。


「やっぱそれしかないよね」

「うん」

「でもどうやって火を起こそうか……」


 ファイヤードレイクになるには沢山の”炎”が必要になる。

たぶんイフリートやグリフォン達の炎を借りればできるだろう。


 だけどその間にクラ―ケンに攻撃されてしまえば、御終いなのは容易に想像できた。

大体、そんな大火を前に、クラ―ケンが黙っている筈はない。

 シュターゼンのみんなが陽動をしてくれればいいんだろうけど、殆ど壊滅状態で頼れそうもない。


(ホント、どうしよう。でもファイヤードレイクじゃないと勝てそうもないし……)


「あれは何!?」


 その時、シャギが声を上げ、海を指差す。


 丁度クラ―ケンが破壊した海底神殿の残骸があるところに、突然渦潮が発生していた。


 渦潮は青い輝きを放ちながら瓦礫を飲みこむ。

 そして勢いよく水柱が上がった。

 その水柱の上に立つ、影が二つ。


「ニム!!」


 杏奈は嬉しそうに叫んだ。

 水柱の天辺にいたのは正気を取り戻しただろう、シュターゼン国第三皇女:ニム=シュターゼン。

そして彼女の隣には寄り添うように、青い体をした”ユウ団長”の姿があった。 

 

「よろしいのですね、姫様?」


 全身が水のように青く染まるユウ団長は、穏やかに問いかけた。


「うん。私はこれからもずっと、ユウと一緒にいたいもん! だって赤ん坊だった私を助けてくれたのがユウなら、ユウは私のお母さんみたいなものだから!」


 ニムは青い瞳を輝かせて元気に答える。

ユウ団長は優しげな笑みを浮かべる。


「ありがとうございます……参りましょう、姫様!」

「うん!」


 ニムとユウ団長は互いに手を強く握りあった。

瞬間、二人の間から海のように青い輝きが迸る。その輝きは母なる海のように蒼く、そして温かい印象だった。


「「ソウルリンク!!」」


 ニムとユウ団長の声が重なり合って、凛然と響き渡る。

二人は水のように青い輝きに包まれた。

足もとの水柱が二人を飲み込み、まるで生き物のように渦を巻いて行く。


 うねる水柱からまずは、鎌のように鋭い鰭(ひれ)が生み出された。

先端が口のように開き、幾重にも連なる鋭い牙を現す。

 青の中で二つの、まるで宝石のような輝きが宿る。


「GYAOOOO!!」


 海面に現れたのは水の支配者。

時に優しく、時に厳しい水を現す神性――水龍(シーサーペント)


「FJYU!」


 大海魔クラ―ケンは振り返って、背後に現れた水龍を金色の目で睨む。

まるで海の支配者が自分、だと言わんばかりに水龍へ巨大な触手を差し向けた。


「GAAA!」


 対する水龍は口から鋭く水流を吐きだす。


 水流と触手が真正面からぶつかり合う。


「FUJYUU!!」


 水流によって触手の先端を引きちぎられたクラーケンが怯んだ。

 その隙にと言わんばかりに、水龍は巨大な顎を開いて、クラーケンへ飛びかかる。

しかしクラーケンは瞬時に再生させた触手を水龍の鎌首へ巻き付けた。

さすがの水龍も首を締めあげられ、巨大な体をうねらせる。


 すると水龍の槍のようにな鋭い先端を持つ巨大な尾が海中から持ちあがった。


「FUJYU!!」


 槍のような鋭い先端を持つ尾がクラーケンを背後から串刺した。

たまらずクラーケンは触手を解き、再び仰け反る。

今度こそ、と言わんばかりに水龍は食って掛かろうとする。

だがクラーケンは負けじと体勢を立て直し、2本の長い触腕を振り回して海を割る。

 水龍は器用にそれを交わしながら、クラーケンへ迫るが、一進一退。


 水面は巨大な二体の神性によって波立つ。

 そんな中、水龍はまるで”ここは任せろ!”と言わんばかりに黄金の瞳で、強い視線を送ってきた。


 確かにクラ―ケンは水龍に夢中。

きっとこれは水龍となったニムとユウ団長が作ってくれたチャンス!


「杏奈、俺たちも!」

「うん!」

「こおぉぉぉい! グリフォン! イフリィィィ―ト!」


 空で俺がそう叫べば、炎の眷属たちがすぐさま駆けつけて来た。

それぞれが炎の力を吐きだし始める。

やがて、空には真っ赤な太陽のような炎の塊ができあがった。


「行くよ、杏奈!」

「わかった、サラマンダ―!」


 俺と杏奈はしっかりと手を結んで、迷わずグレーターグリフォンから飛び降り、炎の塊へ落下してゆく。


「精霊様、杏奈!」

「受け取って!」

「「メガフレイム!!」」


 アイス姉妹の合体火属性魔法が炎の塊にぶつかって、更に強く燃え上がらせた。


「ミキオ!」

「ああ! さぁ、精霊様俺たちの力も受け取ってくれ!」


 目下でミキオとウィンドが火属性の魔法を、空に出来上がった火球へ向けて放つ。


 しかもミキオ達だけじゃなかった。

下にいるシュターゼンの全ての戦士が、持てる限りの炎の力を空の火球へと放ち、強化してくれている。


 出来上がったのはみんなの想いが詰まったもう一つの”太陽”


「「ソウルリンク!!」」


 俺と杏奈の心と声が重なり、空に響く。

もう一つの太陽は声に呼応して、俺たちをすぐさま飲み込んでゆく。


 そして炎は強靭な爪になり、翼となった。


「GAAAA!!」


 炎の神性:ファイヤードレイクとなった俺と杏奈は大空へ向けて飛び立つ。


 空から狙うはリヴァイア最後の敵、大海魔クラーケン!


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