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亡国の侵略


 青い輝きが石室へ雨のように降り注いだ。

それは波濤を浮かべ、湧き上がり、伸びて形を成してゆく。


 辛うじて人の形をした何か。

しかし到底人とは思えない異形。


 以前アイス姉妹の店でガロンドが召喚した液体人間――ゲルコマンド。


「ゲェールッ!」


 ウンディーネとなったニムに呼び出された数えきれないほどのゲルコマンドが、不気味な声を上げて一斉に動き出す。


「ちっ! やるわよ、オウバ!」

「はい! 姉さま!」


 シャギは黒い爪を、オウバは鉄球を召喚し迫るゲルコマンドへ突っ込んだ。


「トカゲ、わたしたちも!」

「ああ!」


 氷の壁でアイス姉妹と分断されている俺と杏奈もゲルコマンドへ向かっていった。


 シャギの黒い爪ゲルコマンドを引き裂き、黒い稲妻が敵をまとめて穿つ。

オウバの鉄球が液体人間を粉砕し、得意の地属性魔法”アースソード”がゲルコマンドを一気に串刺す。


 確かにゲルコマンドは脆弱だった。ひょっとすると戦闘力としてはゴブリン以下なのかもしれない。


 杏奈は杖を呼び出して、杖でゲルコマンドを殴打する。

俺のバフスキル”火属性強化”の影響を受けた腕力は杏奈の細腕でも、ゲルコマンドを倒せていた。


「GAA!」


 俺も反属性への恐怖を、迫る大群への闘争心で塗りつぶし、鋭く伸ばした爪で切り倒してゆく。


 確かにゲルコマンドは弱い。だけど――


「ああもうウザイ! キリがないじゃない!!」

「姉さま、集中してください! やられます!!」


 氷の向こうからアイス姉妹の叫びが上がる。

 俺も全く同感だった。


 どんなに弱くても、簡単にやっつけられても、ゲルコマンドは何もない石の床から、新しい無傷な個体が次々と姿を現す。

対するこっちは、ゲルコマンドを倒すたびに体力を消耗し、動きのキレが失われ始める。


 執拗な波状攻撃と、終わりの見えない敵の無限ループは、次第に俺達の体力と精神力を削ぎ落してゆく。

そんな中、凛とした雰囲気が石室を席巻した。


 刹那、氷の壁が”バンッ!”と破裂するように砕け散る。

 多数のゲルコマンドが鋭く、巨大な斬撃によって引き裂かれた。

激しい風圧が俺達を紙切れのように吹き飛ばす。


 そして雪のように降り注ぐ氷の破片の中に、水着のような鎧を装着した女戦士アマゾネスが、凍てつく闘気を発しながら、凛然と三又槍を構えていた。


「改めて名乗らせていただきます。我が名は【テフ=シャーク】! リヴァイア将軍家系の末裔であり、ウンディーネ様、ガロンド様の刃! どうぞご覧ください、ウンディーネ様ガロンド様! 一千年の長きに渡り、守り続けてきた秘奥義を! 我がリヴァイア流槍術を!」


 テフの構える三又槍の先へ、青い輝きが迸る。

 前に見たことがある輝きと、感じた雰囲気。

 これは冗談抜きでまずいパターン。


「愚かな炎の国へ我が正義槍を! メイルストロム!」


 アクアゴーレムのものとは比べ物にならない激しく鋭い水流が、まるで龍のように渦を巻きながら突き進む。

水流が俺達を飲み込もうとした瞬間、タイミングよく天井が砕けた。駆けつけてくれた”俺の眷属”が炎を壁張って、メイルストロムを辛うじて防いでくれる。


「グオォォ!」

「グオォォン!」


 密かに発した”属性使役”に応じて現れてくれた炎の眷属は、勇ましい雄たけび上げる。


 炎の国シュターゼンが持つ、俺の眷属であり守り神――八体のイフリート

そして幻想の森に生息する火属性の強者――グレーターグリフォン


「みんなグレーターグリフォンに乗るんだ!」


 アイス姉妹はすぐさま応じてグリフォンの背中へ飛び乗る。

しかし杏奈だけは、祭壇を見上げたまま動き出そうとしない。


「杏奈、何やってるの!?」

「だ、だってニムが!」

「今はダメだ!」

「で、でも!」

「ちょっとごめん!」


 言っても聞きそうもない杏奈を俺はひょいと肩に抱き上げて、グリフォンへ飛び乗る。


「待て! 逃げる気か!?」


 八体のイフリートが、テフを翻弄してる間にグレーターグリフォンは鷲のような大きな翼を羽ばたかせ飛び立つ。


「ニム! 必ず助けるから! だから待ってて!」


 杏奈の悲痛な声が石室に響き渡る。

しかしウンディーネとなってしまったニムは、ちらりと杏奈を見上げるだけ。その氷のように冷たい視線に、杏奈は背筋を凍らせているように見えた。


 

「な、なによ、これ……?」


 海底遺跡を飛び出し、目下の砂浜を見てシャギがそう漏らす。


 白くて綺麗な砂浜を、巨大な蟹のようなモンスターが席巻し、海から次々とゲルコマンドやサハギンが湧いて出ている。


 砂浜の先にある防風林には爪でひっかいたような道が幾つも作られ、そこを蟹のモンスターが隊列を組んで侵攻している。

その先にある町からは”バリバリ”と破砕音が響き、黒煙が立ち昇っていた。


「グリフォン、あの街へ向かうんだ!」


 俺の指示を受け、グリフォンは矢のように加速する。あっという間に街の上空にまで達し、目下に見えた凄惨な光景に俺たちは息を飲んだ。


 蟹のモンスターがその巨体を生かしてブルドーザーのように家屋を突き崩す。

逃げ惑う人たちはゲルコマンドや、サハギンに次々と襲われていた。


 その時”炎を纏った蜥蜴”の紋章が浮かぶ旗が靡き、街へ完全武装の兵士達がなだれ込む。

 炎の国シュターゼンの勇敢な兵士達は、街を襲うモンスターと勇敢にたたかい始めた。

 そんな兵団の中で一際輝く金色の電光。

 俺は迷わず、その電光へ向けて、グレーターグリフォンを着陸させた。


「ユウ団長!」


 俺は燃え盛る街の中で、サハギンを切り伏せたばかりのユウ団長の背中へ声をぶつけた。


「精霊様、皆様! 良くぞご無事で!」

「ユウさん、ニムはなんで!? ニムはどうして!?」

「ちょ、ちょっと杏奈!!」


 俺は勢い位余ってユウ団長に体当たりをしそうになった杏奈の肩を掴んで止めた。しかし杏奈は今にも泣き出しそうな顔でユウ団長を睨んでいる。


「申し訳ございません。私が居ながらこんなことになってしまい……」

「これなんなの!? ニムがウンディーネってどういうことなの!?」

「アンちゃん、皆さん!! 今はそんなことしてる場合じゃないよ!」


 オウバはが声を上げ、俺たちは一斉に身構え、それぞれの武器を構えた。


 俺たちは既に無数のゲルコマンドとサハギンに取り囲まれてしまっていた。


「わ、私はなんてことを……」

「姉さま、今は後悔している場合ではありませんっ!」


 弱気なシャギへ、オウバは激を飛ばして、気持ちの切り替えを叫ぶ。


「オウバの言う通りだ。ニムのことは後でゆっくり聞こうね」

「……分かった。ありがとう、トカゲ!


 杏奈も気持ちを切り替えられたようで、杖を強く握りしめ構える。


 俺たちはユウ団長も加わって五人。

対するリヴァイアのモンスターは、さっきも戦った通り無尽蔵に近い。

おまけにユウ団長以外はみんな、海底神殿の戦いで消耗している。


(だけどここで倒れるわけにも、街を見捨てるわけにもいかない。だって、俺はこの国の精霊! 炎の精霊サラマンダ―なのだから!」


「いくぞぉー!」


 俺の掛け声と共にみんなが動き出す。


「ゲェールゥー……!」


 まだ一撃も加えていないのに、目の前のゲルコマンドの集団が吹っ飛んだ。


 ゲルコマンドとサハギンの間を”白い閃光”のようなものが素早く滑る。

その度にモンスターは吹っ飛び隊列を乱す。


 唖然としている俺たちの横で家屋が崩れ、その向こうから巨大な爪を持った、カニのモンスターが姿を現し、黒々とした影を落とす。


「シャドウ! 機工変更モードチェンジ! ”破壊”」


 どこからともなく少年の様な声が響き、


『承知! 機工モード 破壊、破壊、破壊!』


 少し曇った男の声が聞こえた。

刹那、脇にいた巨大カニモンスターのてっぺんが吹っ飛び、巨体が”ドスン!”と瓦礫の上に倒れる。


 そして倒れた巨大カニの上へ”白い閃光”と”緑の風”が舞い降りた。


「やっ! シャギ元気?」


 閃光の中から現れた銀色のローブをまとった銀髪の青年は軽い調子でそう云い、


「ミキオ!」


 シャギは尻尾をピンと立てて、喜びを現していた。


「ウィンドくん! ありがとうー! カッコいいよ!! ウィンドくーん!!」


 オウバは身振り手振りで喜びを表現している。

それを受けて、短剣を持つ、まるで探検家のような恰好をした少年は恥ずかしそうに鼻の舌を掻く。


 知らない二人だけど、不快な感じはしないし、むしろ頼もしさを覚える。


(この二人、もしかして例の!?)


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