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年下彼氏との復縁相談した占い師は最低のひどい奴だった

作者: 天野優志

彼との出会いはスポーツクラブでした。


40代半ばになって、少々運動不足かな、と思って入会したのが、テニスコートもあるスポーツクラブ。

ママ友も入っていて、ネットの評判も良く、ちょっと料金は高いけど入会しました。


そこで出会ったのが、テニスコーチをしている彼です。


全くテニスをしたことがない私に丁寧に指導してくれて。

だけど、テニスがうまくなることはありませんでした。


彼と一緒にいると、ドキドキが止まらないんです。


家庭もあるし、もう恋愛すねるような歳でもないし。

だいたい彼は二回りも下。恋愛感情なんて・・・。


だけど、いくら否定してもドキドキは止まりません。

今の主人もそうですし、その前に付き合った彼氏の何人かもそう。

そんなドキドキを経験したことなんてない。


彼は特別なんです。

同じ部屋にいるだけで舞い上がってしまう感じになる。


指導で手を触れられたときなんて・・・その後、数日は大変です。

女がうずく、というんですか。

結婚してもう18年になって、その間、ずっと感じることがなかった恋心。


「私、もしかして、おかしくなってしまったの?」


全く何が起こっているか分からないんです。


そして、運命の日は、彼と出会って1か月後に起きました。

その日は強い雨でした。


雨のときは、室内で練習するメニューがある。だから、休むことなんて考えられません。彼に会える日だったら、台風だって行きます。


「きようは、純子さんと私の、ふたりだけですね」


彼がそう言ったとき、私の心は張り裂けそうでした。

マンツーマンで、文字通り、手とり足取りの指導。

もう、私の心も身体も熱く燃えていました。


「私、コーチの事、好きなんです」


なぜ、そんなことを言ってしまったのか。

今、自分が言ったことなのに、そんなことを自分が言うなんて・・・信じられません。


「僕も純子さんのこと、好きです」


さらに信じられないことに、コーチがそう言ったんです。


その日、コーチはスポーツクラブを早退しました。

私はちょっと離れたコンビニで待っていました。

ふたりで落ち合って、彼の車でインターチェンジの近くのラブホテルに。


熱い三時間を過ごしました。すべてが初めての経験です。


「純子さん、綺麗です」


二回りも若い男に、今の自分の裸体を晒すのは怖くてしかたありませんでした。

先にシャワーを浴びて、バスタオルで隠して布団の中に入ろうとしました。

でも、彼が許してくれません。


「純子さんのすべてが知りたい」


そう言ってバスタオルをはずされて・・・綺麗と言われて。

それからは夢中でした。

初めてエクスタシーというものを経験しました。それも何度も。


その日から、彼のことが頭から離れることはありませんでした。


そんな身体の関係が週一度。

メッセージは毎日何往復も・・・ラブラブな内容で。

ふたりの関係は二か月くらい続きました。


しかし、彼はいきなり消えてしまったのです。


メッセージは既読にすらならず、電話には出ない。

何も告げずにスポーツクラブは辞めていました。


「どうして?」

いきなり変わってしまった理由が知りたくて、ネットで恋愛系の情報を調べまくりました。

そのときにたどりついたのが、ツインソウル、という言葉でした。


ひとつの魂がふたつに分かれて、人として生まれてくる。

ひとつの魂で、身体と心がふたつづつ。

ツインソウルの相手に出会うと、心が反応する。

条件など一切関係なく、身体が反応してしまう。


その外にも、ツインソウルを見分けるポイントが書いてあり、すべてが彼と私に成り立ちます。


「もしかして。。。彼がツインソウル?」

半信半疑で情報を探していると、サイレント期間という言葉を知りました。


ラブラブな期間の後に、男がランナーになり、女がチェイサーになる。音信不通の状態がサイレント期間。

まさに今の私達がそれです。


ツインソウルのことを調べていると、ある男の人のブログに行きつきました。

その人の書いていることが、なぜかしっくりくる。

他のツインソウルのことを書いているブログがふわふわしているのに、彼のブログは地に足がついている。


そう感じました。


彼が書いたブログ記事は大量にあって、そこそこ長い記事がなん百とあります。そのすべてを読みました。


天野祐志さん、って名前です。

彼は毎週火曜日に東京の湯島でカフェをしている。

神託カフェ『エデン』という名前のカフェ。

お客さんとスタッフの人が楽しそうに話している写真がフェイスブックにあがっています。


「天野さんに相談したい・・・でも」


カフェに行って相談しようと思っていると、火曜日に用事ができていけません。

絶対行くと決心しても、そういう日に限って下の息子が熱を出してしまいます。


「天野さんとは縁がないのかな」と半分あきらめていたら、ある火曜日、ぽっかりと時間があいてしまいました。


その日は、つよい雨でした。彼と恋人になった日を思い出すような雨の日。

私は、開店の11時ジャストに二階のカフェ『エデン』の前に行きました。


「いらっしゃいませ」


背の高い男性がドアを開けてくれます。彼が天野さんです。


写真とかは見ていたんですが、なぜか背が高いイメージがなくて、小柄な男性だと思い込んでいました。

きっと、ツインソウルの文章から感じたイメージだと思います。


テーブルに導かれて、コートを預けて。ドリンクの注文をした後。


「占いをしてほしいんですが」

「うちの占いは、2種類あって、お試しの占いが10分1000円。本格的な占いが30分4500円です」

「せっかくですので、本格的な方、お願いします」


本格的な占いの場合、神託スペースというカーテンで区切られた場所でするみたい。

そこに導かれて2つある横並びの椅子に座ると、天野さんはカーテンを閉めて椅子に座ります。


「どんな占いをしましょうか。ツインソウルでしょうか?」

「はい。実はツインソウルと思う男性がいて・・・」


彼との出会いから、今日までのことをひとつひとつ天野さんに話しました。その間、天野さんは分かりづらいところを質問するくらいで私の話を聞いてくれました。


いままで誰にも話したことがない話です。学生からの長い友達に話してもそんなことを私がするなんて信じてくれません。


「彼とのこと、分かりました。それでは占いをしましょう」


そう言って天野さんは、タロットカードを裏返しで置いてかき混ぜました。それをひとつにまとめてから、言います。


「どんなことを占いましょうか?」

「えっと。。。」


天野さんに話を聞いてもらいたいとは思っていたけど、何を占うのかは考えてきませんでした。


「それでは、おふたりの魂の関係を占ってもいいですか?ほかの何を占うにしても、魂の関係かあるかないか、それによって全然違ってしまうので」

「はい。お願いします」


「それでは、このカードを左手で3つに分けてください」


言われるまま、カードの山を3つの山に分けます。


「今度はそれをひとつにまとめます。どれが上でもけっこうです」


一番左の山に、右の山を重ねて、最後に真ん中の山を重ねてみました。


「それでは、おふたりの魂の関係はこの1枚のカードであらわされます」


天野さんは一番上のカードを横に置いて、そのカードを示して言います。

天野さんが、そのカードを表にします。


「カップのエースの正位置。いいカードですが、魂の関係がある、というカードではないですね」

「えっ、そうなんですか?」

「このカードの示す意味は、心のつながりです。それもエースという強いカードですので強い関係を意味します。同時に始まりのカードでもあります」


天野さんの言葉を聞いていて、なぜか言葉が頭の中を素通りする感覚がありました。

言葉の意味はわかるけど、なぜか頭の中に入ってこない感覚。


「ツインソウルではありません」


そう言われても、ショックを感じていませんでした。

なぜか、感情が動かないって感じです。


「他に何か知りたいこと、ありますか?」

「ええと。。。。」


何も思い浮かばない。何を話したらいいか分からない。

さっきまで彼のことを伝えようと頭がフル回転していたのとまったく違っていました。


「それでは、彼の今の気持ち、知りたいですか?」

「あ、はい。知りたいです」


山の一番上のカードを一枚、隣に移します。


「このカードが彼の今の気持ちです」


ソードの3の正位置。


「トラブルを示唆するカードです。彼は今、心が混乱している状態です」



その後もいくつか質問をして、カードを引いてもらいました。そのたびに良くないカードばかり。


「どうしたら、いいんですか?」

「本気で彼とのことを、うまくいかせたいと思いますか?」

「もちろんです」

「それでは、あなたの運命を前に進める覚悟はありますか?」

「あります」


しばらく天野さんは考えたうえで、別の質問をします。


「すべてを捨てて、彼のことだけ選ぶ覚悟できますか?」

「すべてというは家庭も、ということですか?」


できる訳がない。まだ息子は上が高校生で下が中学生。

旦那とはドキドキする関係ではないけど、特に問題なく毎日を暮らしている。

家庭を捨てるなんて・・・できる訳ない。


「無理です」

「ですよね。彼ではなく、家庭を選ぶ、ということですね」

「そうじゃなくて、彼とは」


分かってしまった。私は両方選ぼうとしていた。

良き母親で、その一方、女であること。


「両方をなんとかするって無理です。どちらか一方なら可能性があります」


そう。音信不通の彼を忘れて出会う前に戻る。それが一番いい方法だ。

分かっている・・・だけど、それを選べない。


「いいんですよ。選ばなくても」

「えっ?」

「選ばなければ、選ばない運命の流れになる」

「どういうことでしょう?」

「停滞した運命になります」

「彼とは、このまま、ということですか?」

「今のカードを見る限り、その通りです」


・・・なんか。試されている気がする。天野さんに。


実は私、ずいぶん前にタロットを学んだことがある。だから、カードの意味はだいたい分かる。

なによりも、当時タロットを学んたとき、印象に残った先生の言葉。


「悪いカードでも、ちゃんと可能性を語るのが、良い占い師の条件です」


天野さん。良い可能性を一切言ってくれない。悪い占い師・・・なの?


「彼とうまくいく可能性はないんですか?」


良い可能性を聞きたくて、質問してみた。


「あります」

「えっ、どうすれば?」

「覚悟することです」

「覚悟・・・家庭を捨てるってことですか?」


「違います。すべてを捨てて、彼だけを選ぶってことです」

「それをすれば、彼は戻ってくれるんですか?」

「わかりません」


何?何を言っているの?


「すべてを捨てる覚悟を持って彼を選べば、運命の輪が周りはじめます。それを望みますか?」


私は、その質問に答えることができなかった。


ちりんちりん♪と鈴の音がする。


「時間になりました。何かもっと聞きたいということはありますか?」

「どうしたら、彼とうまくいくんでしょう?」

「覚悟です」


結局、それで終わってしまった。天野さんから良い可能性を聞くことはできなかった。



その後、他の占い師にも占ってもらった。


「3か月くらい先に連絡が来るとカードに出ています」

「あなたの運勢は今が悪い時です。来年になれば・・・」


何人かの占い師が示してくれた、良い可能性。

だけど、その可能性はない、と自分で分かってしまう。

なぜわかるのか・・・それは分からない。


だけど、覚悟なくして彼とのことが元に戻ることはない。なぜか、そう思い込まされてしまっている。

占い師の天野さんに。

天野さんの言葉を思い出す度に頭がかーっと熱くなる。


あれから、3か月がたつ。

もう、私はツインソウルという言葉も信じなくなっている。

彼と元に戻ることも、ないと分かってしまった。


ふつうの母親としての毎日を普通に過ごしている。

前との違いと言えば、スポーツクラブをやめたこと。

もしかしたら・・・という気持ちがあって行かないけど月額料金だけは払っていた。

それがなんだか無駄に思えてやめた。


その代わり。

火曜日に天野さんの占いにいこうと思っている。

しかし、なぜか火曜日はいろんなことが起きていく気にならない。

その度に天野さんの言葉がよみがえる。


「エデンは呼ばれた人しか来れない不思議なカフェなんです」


どうも、私は呼ばれていない、らしい。

次に呼ばれるとき。何が起きるのか。


「運命の輪がいつか動き出しますよ」


そんな言葉しかくれなかった占い師の天野さん。

私が出会った最低のひどい占い師だと、今でも思っている。



このお話はフィクションです。

登場するお店や占い師をネットで検索して出てきたとしても、ただの偶然です。笑

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして?と思って検索してみたら…。きっと偶然ですよね!サクサク読めて面白かったです。
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