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第1話  日常とその終わり


三作目となります、Re-loseです!


よろしくお願いします!




 

 俺は、俺のことが嫌いだ。

 

 それは、今後も揺らぐことはないだろう。

 

 ありふれた言の葉だろう?

 

 そう、俺もまた人間なのだから───。

 

 

 

 綾羅木(あやらぎ) (かえで)

 

 男性のものとも女性のものとも取れる、いい加減で中性的な俺の名前だ。俺はこの名前が嫌いだが、いい加減という意味では俺にピッタリだろう。

 

 17歳の俺、楓はただの高校二年生として生活を送っている。何の事はない、普通の高校男子だ。いや、語弊があったな。普通ではないかもしれない。なに、この言葉に深い意味は無い。ただ、ものの考え方がいわゆる普通と言うやつと違うだけだ。しかし、普通とは何を基準にそう言っているのだろうか?

 

 俺は、その考えに至った時点で深いため息をついた。

 

 あぁ、こんなことを考えても無駄だ。

 

 それも、所詮は人間の範疇ということだ。それには既に呆れ果てている。人間のやること成すことは、いつも中途半端で滑稽な始末だ。人は誰でも、自分の事しか考えられない生き物だと俺は思う。どれだけ人類が進歩しようとも、どんなに素晴らしい技術が発明されようともそれは変わらない。

 

 西暦は、2074年。時代は刻一刻と変化するのに対して、人の『在り方』はいつまでも変わりはしなかった。どんなに素晴らしい出来事も、それはただ人間の美学のに当てはまっているだけだ。ただの綺麗事で出来上がったこの世界だけは、いつまでも続いて来た。

 

地球滅亡という大予言や、幾多の争い合いを掻い潜り、今日ものうのうとこの世界は循環している。

 

それでも人間は、綺麗事にこだわるのだ。

 

 人間の美学の、その綺麗事の為にこの地球を犠牲にして、人類は繁栄を続けてきたのだ。大気や海を汚染し、生態系というものを崩し、環境を破壊しつくして尚、人類はそれを止めることはない。

 

 人類とは、なんと愚かなものだろうか?

 

 

 ───はぁ。 

 

 どうやら、無駄話が過ぎたみたいだな。今日もクソッタレな学校生活が、始まるようだ。

 

 

 AM7:40

 

 

 いつもの時間。俺の乗った電車は、目的の駅の前まで迫っていた。

 

 季節は冬。この時期の電車の中は、無駄に暖房が効いていて、むしろ暑いくらいだ。そこまで快適にしようとする意味はあるのだろうか?どうせ人で混み合っているのだ、必要などないだろう?

 

 おっと、また道を逸れてしまった。

 

 俺は、右手をポケットへと突っ込んだ。そこから定期券を取り出すと、電車のドアの方へと移動する。

 

 しばらくして、停車した電車のドアが開く。

 

 俺はそこから降りると、駅のホームをへと向かう。少し進めばそこには改札口があり、駅員が立っている。見馴れた風景を通過した俺は、バス乗り場へと脚を進める。

 

「よう、綾羅木。おはよう!」

 

 まぁ、通学となれば当然こういうイベントは発生するものだ。本当に面倒臭い。

 

「あぁ、おはよう」

 

 俺は、愛想笑いでそう返す。

 

 しかし、愛想笑いと言っても、俺の嘘笑いは上手い方だと自負している。これは父と母が不仲だった結果、いつのまにか身に付いたスキルだった。世の中には、息をするように嘘を吐く女もいると言われるが、すっかり癖になったこの笑い方は、俺にとって呼吸なんかよりもずっと簡単なことだった。

 

 

「楓くん、おはよ!」

 

「おはよう」

 

 まぁ、この愛想笑いのおかげで俺にも友達らしきものはできている。あくまで、友達らしきもの、だ。というか、俺自身の人望のほとんどは、この嘘笑いによって得たものだろう。こういうのを、八方美人と言うのだろうか?少し違う気がする。否、違ってあって欲しい。

 

 俺は、重たい足取りのままバスへと乗り込んだ。

 

 乗り込んでまず始めに、俺は近くの椅子に腰掛ける。ここからまた、10分ほど時間がかかる。見つめる窓の外に映ったのは、高層ビルなどの数々。人間は、知能だけは発達するくせに、それ以外はからっきしだ。本当に、空っぽな生き物だ。

 

 また下らない妄想に浸っていると、バスはどうやら目的地へと着いたようだった。

 

 バスから降りた俺は、学校の方へと向かっていく。距離はそこまではない。徒歩で10分くらいか。もうすこし家に近い学校を選ぶべきだったかもしれない。

 

 それに、冬とは厄介なものだ。と、言うのも俺はマフラーや手袋という防寒具を一切身につけていないからだ。

 

 まぁ、この話も要約すると、俺は俺の次に人間が嫌いで、そんな人間に俺自身を認識されるのを、俺という人間は恐れた。人に見られる事すら恐い。他人の目に映った自分のことは、俺には解らない。だから俺は、人に認められたいとう感情が欠如していた。勿論、自分自身もその範疇だ。

 

 故に、俺がそんなものを身につけることはない。付け加えると、俺のタンスの中なんて私服と呼べるものは一切入っていない。一応中学では運動部に所属していたので、その練習用のシャツだったものを普段は着ている。出掛けたりはしないので、これで事は足りていた。

 

 これが俺、綾羅木 楓の実体だ───。

 

 

 かれこれ考えている間に、学校に着いてしまった。

 

 正門を通ると、俺は昇降口へと向かう。

 

 いつもなら、顔見知りの奴に合ったりするものなのだが、今日は見知った顔ぶれは確認できなかった。挨拶やらの手間が省けるだけで、良いことなのだが。

 

 俺は昇降口の階段を昇ると、校舎に入る。手早く靴箱から上靴を取り出すと、履いてきた靴を納め、上靴へと履き替える。後はこのまま階段を昇り、二階の教室に向かうだけだ。俺は階段を昇りきると、左へと曲がり、その先にある自分のクラスへと向かう。廊下で数人の生徒と挨拶を交わすと、俺は教室のドアに手をかけた。

 

 ───ガラガラガラガラ。

 

 教室の中もいつも通りの風景だ。朝礼の前の今は、生徒各々が自由に時間を使っている。俺が自分の席に着くと、いつものように隣の席の友達(仮)から、挨拶を受けた。

 

「おはよう、楓」

 

「あぁ、おはよう」

 

 そうだな、ここらで『友達らしきもの』や『友達(仮)』についても定義しておこう。俺がコイツ達を《らしきもの、(仮)》とするのは、二つの理由がある。一つは、何処からが友達であると言い切れるのかが、俺には解らないからだ。別に友達になろうと言葉にしたわけではないし、なろうと思った事もなく、判断に困るからだ。もう一つは、やはりそれが『人間』であるということ。人の行動は、必ず何かの犠牲を生む。完全など無いこの世界での、完全で絶対の理。俺自身、自分の心を犠牲にして、この人間たちとの関係を手に入れた。誰が言ったのか、『人間は一人では生きて行けない』と。俺はただ生きるために、自分のその心を削って来た。

 

 そんなものが、その『偽物』が友達を語れるのだろうか?

 

 そんなわけで、俺が自信を持って友達と呼べる人物なんて一人もいないのだった。高校という環境下では、強制的に仲良くはさせられてしまうのだが。

 

 その後は何をするわけでもなく、窓の外を眺めていると、担任の先生がやってきた。

  

 朝礼が始まり、その日の日直が仕事を終える。先生からの連絡も終わると、号令がかかり朝礼は終わった。

 

 そこで再び俺を呼ぶ声に、顔の向きを変える。

 

「楓、聞いたかよ。今日の6時限目、テストらしいぜ」

 

「そうか。面倒臭いな」

 

 テストといえば、やはり成績の事を考えてしまう。俺は別に頭がいいという訳ではない。家ではパソコンばかりいじっていて、勉強は一切しないが、成績は丁度平均くらい。いいわけでも、悪いわけでもない。ザ・平均と言うべき平凡な生徒だ。

 

 今日の時間割りを整理し終えたころ、1時限目の予令のチャイムが鳴った。授業開始の5分前を告げる鐘だ。俺が席についてしばらくすると、授業開始の鐘が鳴り、1時限目の数学の時間が始まった。

 

 その後も順調に、一日の日課は流れていく。

 

 6時限目のテストも終わったころには、俺の頭の中は帰宅のことで一杯になっていた。うちの高校では、ほとんどの生徒が部活動に入っているが、俺は帰宅部だった。

 

 それも、『帰宅部のエース・楓』という不名誉なあだ名を付けられた、帰宅部の中の帰宅部だ。

 

 なんでも、普通の帰宅部の生徒は、放課後友達と遊んだり、ゲーセン行ってたりして暇を潰している者がほとんどらしい。その点で俺は、家までの道のりを直行して帰っており、その勤勉ぶりと真性帰宅部とも呼べる行いが何故か認められたようだ。

 

 そんな俺の帰宅を邪魔する者が、今日はいた。

 

 雨堤(あまづつみ) (まい)

 

 同級生の幼馴染みだ。小学生の頃からの付き合いで、今も同じ学校に通っている。彼女は、学校一とも言われる美貌と優秀な成績、運動神経抜群という、所謂パーフェクトヒューマンと呼ばれる超絶美少女だった。その人気ぶりは、男女を問わず凄まじいものであり、ファンクラブが存在するとも聞いた事がある。

 

 長年コイツを見てきた俺は、そうは思わないが。

 

「あのさ、楓。この後、どっか寄っていかない?」

 

「無理」

 

 ────即答。

 

 そんなに簡単に『帰宅部のエース』は、揺らいだりしない。

 

 確固として拒否します。

 

「えぇー、何でよぉ」

 

「うるさい、寄らないって言ったら寄らないんだよ」

 

 そう言うと、彼女の顔は赤くなり始めた。

 

「楓のバーカ。アホ」

 

 いや、成績学年トップで、おまけに水泳の国際大会で優勝経験があるお前からしたら、ほとんどの奴がバカになるから。洒落にならないから。

 

「せっかく今日は、部活が休みなのに!」

 

 そう言って舞は、歩道の縁石の上に飛び乗った。

 

 小さい頃に、危ないと言われたことがないのだろうか?彼女は頭はいいのだが、天然というかどこか抜けている部分がある。まぁ、そこがいいという奴らも大勢いるのだが。



「休みと言えば、次は春休みになるのか」

 

「早いねぇ、私達もう高校3年生になっちゃうんだよ?」

 

「そうだな」

 

「楓からまともな返事が帰ってきた!」


「いちいち言わなくていい!」

 

「もう。何でっ、て───」

 

 

 

 ────ぁ。

 

 

 そう思った時には既に遅い。振り返った舞は、縁石から足を踏み外し、道路へと放り出されていた。

 

 自業自得というやつだ。言わんこっちゃない。これは、完全に舞の方が悪い。注意を怠った罰だ。これで車に轢かれても、それはしょうがないことだ。これが、コイツの選んだ選択なのだから。

 

 ────ォォォオオン

 

 やはり、車が迫っているようだ。このまま放っておけば、彼女は車に轢かれて死んでしまうのだろう。

 

 

 

《見殺しにするのか?》

 

 誰だ?

 

《だから、彼女を見殺しにするのか?》

 

 俺は、お前なんか知らない。

 

《嫌じゃ、ないのか?》

 

 ────うるせぇぇぇぇええ。

 

 俺が、舞に好意を寄せられているのには気付いていた。その気持ちを蔑ろにし続けて来たのは俺だ。それに、本当に俺の事を理解してくれていたのは舞だけだったし、今までだってずっと同じ時間を過ごしてきた。

 

 ここで、舞を失う訳にはいかない───。

 

 

 その瞬間、俺の身体は動き出していた。

 

 しかし、その決断は少し遅すぎた。

  

 倒れていく彼女の身体を、俺はしっかりと抱え込む。まるで、時間が静止しているかのように感じられ、目の前には大型車が迫っていた。

 

 ───衝撃。

 

 身体の右側から、圧倒的なその質量がやってくる。すでに、意識は朦朧としている。次にやって来たのもまた、圧倒的な質量であった。身体が押し潰され、引きずられた身体は完全に挽き肉状態になっていく。

 

 

 あぁ、舞を助けることはできなかったな。

 

 

 そこには、ただの赤い塊に成り果てたものと、赤く染め上げられた地面だけが在った。

 

 

 * * * * * * * * * * *

 

 

 ────あ?

 

 

 目が覚めると、そこは見知らぬ場所だった。

 

 現実というより、どちらかというとゲームや漫画というような、そんな世界に俺はいた。これは、どう見ても異世界というやつだろう。

 

 そこは、緑に包まれた草原だった。

 

 すこし遠くには、街が見えていた。それも、異世界定番の中世くらいの建築物が。それならば、まずはあの街を目指すことになりそうだ。

 

 

 かくして、死んだはずの俺は、異世界へと迷い込んだのだった。

 

 


いかがでしたでしょうか?



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