第五話「森のお宅訪問、もとい不法侵入の結果」
なにげにイオ君も頭のネジがぶっ飛んでるところがあります
今更ですが今回微グロあり、読んでしまって不快な思いをさせてしまった方、申し訳ございませんでした。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……
完全に迷った、オオカミがわんさか出る森で
どのくらい歩いた?目を瞑っていたからわからねぇ
というか、どっちから入ってきたっけ?
「イオりん‼︎おはようなのです‼︎あったですよ、家なのです‼︎」
「え?」
オレがパニック状態に陥っていると、アリスはのんきに何か言ってきた。
最初は焦っていたため、何のことかよくわからなかったが徐々に理解が追いつくと余計にパニック状態になっていった。
「ほら!家なのです‼︎噂は本当だったのですよ‼︎さっそく入るのです‼︎」
「ゑ?……いや、ちょっと待て…待て、待て待て待て‼︎とりあえず下ろせ」
落ち着け、落ち着けオレ、まずは落ち着いて虚数を数えろ!
………あれ?虚数って数えられたっけ?
「それじゃあ、心の準備はいいですか?」
「いや、ダメだから‼︎今はダメだから‼︎もうちょっと落ち着いて…そうだ!まずは外から周りを観察しよう」
「ん〜、しかたないのです」
オレのとっさの時間稼ぎの案にアリスは一応納得してくれたようですぐに入ろうとはしなくなった。
そうだね、とりあえず落ち着こう。そしてまずは観察から始めよう。
あきらかにヤバそうなら電波兵器アリスを先に突入させればいいし、それに噂どうりなら入れば何故か森の入り口まで帰れるんだろ…家があったってことは噂は本当だったはずだ。火のないところに煙は立たないし、オレ達はその火元にきているんだ。
おそらく噂は最後まで真実だったんだろう、そうであってくれ。
そうして、オレ達は家の観察を始めた。
結果から言うと家だ。それ以上わからなかった。
360度、どの角度から見てもただの古い木の家にしか見えない。
強いて言えば少し小さいくらいか、外から見たところ1階建てで煙突があり、床面積は8畳くらいといったところか?
何というか、昔話に出てきそうなこじんまりとした家であって、決して魔女が住んでいそうな怪しさは無い。
三匹の子豚の話で次男子豚が作った木の家って感じだ。
「あっ‼︎煙突があるのです‼︎あそこから入るのです‼︎」
「ダメだから‼︎あそこから入っていいのはクリスマスの時だけだから‼︎今日は絶対入った瞬間オオカミの代わりに茹で殺されるから‼︎」
…電波はもう黙ってて欲しい。
〜閑話休題〜
窓があったので中を覗いたが何の変哲もない生活感あふれる家だった。イメージは赤ずきんのおばあさんの家って感じだろうか。
そこまで確認したら、さあ!いざ突入なのです‼︎ということになった。
でも流石にいきなり怒鳴り込む強盗のようなマネはしたくないので、
コン、コン
「スイマセーン!ボクたちこの森で迷ってしまって困ってるんです。ここで休ませてもらえないでしょうか?」
まずは丁寧に挨拶をーー
「オラァ‼︎ここを開けやがるのです‼︎じぶんはここが誰のシマかわかっとるのですか‼︎出すもん出してもらい……てイオりん痛いのです〜‼︎今からいいところだったのです〜。くせっ毛引っ張らないで欲しいのです〜‼︎」
「黙れ電波。今度はどのチャンネルから受信してきやがった、その挨拶‼︎」
まるでジャパニーズYAKUZAもどきの挨拶を始めたこいつはきっと何か受信されたに違いない。森の奥でもその電波受信環境は良好なようだ。
「反応がないな…誰もいないのか?」
「うー、痛かったのです〜…もういいのです!入るのです‼︎」
「……まあ、気はすすまないがどのみち森の出口もわからないから仕方ないか、見て来いアリス」
「了解なのです‼︎お邪魔しますなのです〜‼︎」
アリスは勢いよくドアを開いて中に突入していった。鍵はかかっていなかったようだ。
ちなみにオレはドアがいきなり閉まるとかいうお馴染みのホラー現象に備えて扉を抑えてじっとしていた。
考えすぎかもしれないが、そもそもこんなところに家があるなんておかしいし、こんな状況に似たような物語は日本にもこの世界にも山のようにあった。童話は教訓だともいうし、先人達の残したものに倣って用心したにこしたことは無い。
……ただの家だ。本当に。
何も起きない。
やっぱり考えすぎだったかな?と思い始めていた。
しかし、異常は何の前触れもなく、突然襲ってきた。
「うっ、アタマが、痛いのです……」
アリスは家の中に入るとしばらく不思議そうに家の中をブンブン見渡していたが突然アタマを抑えてそんなことを言い出した。
あれ?もしかしてヤバイかな?
「アリス‼︎とりあえずこっちまで戻ってこ…うわっ⁉︎」
アリスを呼び戻そうとしたら、その瞬間オレが抑えていた扉が勢いよく閉まり、オレは家の中に吹っ飛ばされた。
慌てて立ち上がり扉まで戻ったが、扉は鍵もないというのにいくら押してもビクともしない。
そうこうしているうちに後ろからドサっ、という音がした。
今度は何事だ⁉︎と思い振り向いてみると、アリスが倒れ込んでいた。
「おい!アリス!無事か!おい!」
「〜〜、気持ち悪いのです…病気になった時みたいに寒くてダルいのです…」
「ヱ⁉︎うそだろ⁉︎お前病気になったことがあったの⁉︎いや、そうじゃなくて無事…じゃなさそうだな。せめて動けるか?」
ヤバイ、アリスがここまで苦しんでいるところなんて初めて見たぞ‼︎
……何も出来ない…実際に勇者が倒れていてオレに出来ることなんてほとんどない。
それでも、とにかく出来ることをしなくてはいけない。
オレは動けないアリスをうつ伏せにしたあと、寒いと言っていたので自分が着ていた修道服の上着をを脱いでアリスに着せる。
そしてせめてソファーでもいいから、楽に横になれるところを探した瞬間気づいてしまった。
外で窓から見た時やドアを開けた時に目に映った、薄暗いが生活感があった小さな部屋の中とは全く違う。
今、『玄関』にいる。
長い廊下がいくつもの方向に伸びていて、大きな階段がいくつかあって、部屋に続くであろう扉が少なくとも見える範囲で四つはある。
広い、あきらかに広すぎる。
外から見たらただの家で小屋くらいの大きさだったのに、中はまるで貴族の屋敷並みの広さがある。
窓一つ見当たらず、ところどころに壁に釣らされているランプが不気味な青色の光を出している。
そして、あちこちに散乱している大量の蜘蛛の巣。
やられた、ここホラーハウスだ。
完全に映画やホラゲーに出てくる状況じゃねーか‼︎
もうどこからブルーベリーみたいな色をした全裸の巨人が襲ってきたり、両足を切り落とされて両目をえぐられた魔女が追いかけてきてもおかしくない雰囲気である。
どうすんだ?ホラゲーなんて死亡フラグ祭りなのに、現実世界ではコンテニューは出来ないぞ!
いや、落ち着け…ここは現実であってホラゲーなんかじゃない。
まずは、やれることをやらなくては‼︎
「アリス‼︎具合はどうだ⁉︎」
「……気持ち悪いのです…体の中が、かき混ぜられているような気分なのです」
いつものバカみたいに元気いっぱいの表情からは想像できないほど、アリスの顔色がものすごく悪い。
血の気が引いて顔は真っ青で、目が虚ろでもしかしたらよく見えていないかもしれない。
マズイ、とにかくまずはアリスを休ませなくてはいけない。
「アリス、少し待ってろ。すぐに休めそうな部屋を探してくる!」
「……ダメなのです…行かないで、欲しいのです」
「そうは言っても…」
「……お願いなのです…なんだか、とっても寒いのです…」
なぜだ?あのアリスだぞ⁉︎なぜここまで弱っている?
というかあのアリスがこんな状況なのに、なぜオレは無事なんだ?
アリスが先に入ってトラップでも発動したのか?だからオレにはトラップは発動済みだったから何もなかったのか?
いや、違う。
そもそもどんなトラップでも勇者を弱らせつづけられるものは無い。例え致死量の毒が塗られていたものとしても、こいつを殺しきることは出来ないのだから。仮に勇者を殺せるようなものまで用意していたとしたら、ここに来る者が二人以上で来ることを想定していないはずがない。
じゃあ、何でだ?
そういえば噂では家に入った瞬間から意識がなくなるというものだったはずだ。
でもアリスはここに入ってしばらくは何もおきなかったし、今も一応意識はある。そしてオレは入ってから今まで何も無かった。
それは何故だ?アリスは勇者だからか?じゃあオレは?
考えられるのは一般人では耐え切れなかったものにアリスは耐えたということ、そしてアリスよりもオレは耐えられるということ。
常人よりほぼ全てにおいて遥か上をいく勇者、しかしその更に上をいくオレの何かが抵抗しているのか?
だとしたら、オレの勇者よりも圧倒的に優れている点は三つしかない。そのうち、この状況で考えられるのは一つだけ……
それなら、アリスのこの状態にも検討がつく。この現象はたぶん…
「アリス、ちょっと口開けろ」
オレはそう言ってアリスに口を開けさせると、ポケットからスマホを取りだした。そして何故かスマホに内蔵されているサバイバルツールの小型のナイフを取り出して自分の左手首を切った。
端から見たら奇行にしか見えないかもしれないがたぶんこれで正解のはずだ。
切られた手首から滴る血をアリスの口に落とす。
すると、徐々にだがアリスの顔色が良くなってきている。
やっぱりこれで正解だったようだ。
「う?何だか甘くて美味しいのです…それに何だか体も楽に……⁉︎イオりん、何してるのですか⁉︎」
「何って治療だが?これが一番手っ取り早かったんだよ」
よかった、とりあえず回復はしたようだ。
まだ本調子じゃなさそうだが、顔色もずいぶん良くなっているし、ちゃんと目の焦点が定まっているようだ。
さて、次は早く自分の手首の止血しなくてはさらに厄介ごとにつながる可能性があるし、今度はオレが死ぬ。
この回復速度なら別に切るのは指先でもよかったかもなぁ。
血管まで切るつもりでやったから出血の量が凄まじく、赤い血がドロドロと流れ続けている。
「イオりん…血が……」
「アリス、魔法使って熱でこれを温められるか?触ればやけどじゃ済まないくらいに」
「え?は、はいなのです」
オレが次に取り出したのは10センチぐらいある長めの針である。
いつも、無いよりマシと念のため護身用に髪の内側に見えないように止めてあるだけの髪留めに仕込んでいる。
どうせならさっきのコンパクトナイフくらいの大きさのやつがいいのだが、あのスマホの付属品じゃ絶対耐熱加工とかもしてあるだろう。
ちょっと価値のある特殊な針なのだが、他にこの針以上に使えそうなものも無いので仕方ない。
「で、出来たのですよ。持ち手の部分は熱くないので触っていいのです。でもこれ何に使うのですか?」
「ん?止血」
そう言ってオレは赤々と赤熱している針を傷口に当てた。
ジュウウぅぅぅーー、と肉の焼ける音がした。
うん、痛い。でもまあ傷口は焼かれて血は止まった。
「これでよし」
「よくないのです‼︎何てことをしているのですか⁉︎」
オレは真っ黒に焦げかけている手首を見て止血が完了したのを確認していたらアリスがそんなことを言ってきた。
何を今更アリスはこれくらいで騒いでいるのだろうか?
こいつのせいで粉砕・複雑骨折した回数なんてもう覚えていないくらい怪我しまくってるから、このくらい軽症のうちなのに?
「とりあえず応急処置は完了したからいいんだよ。それより立てるか?」
「う、何とか立てるのです…でもまだフラフラするのです…」
アリスはどうやらまだうまく動けないようだ。立ったはいいがすぐに座り込んでしまった。
やっぱり魔法は使わせるべきじゃ無かったかな…仕方ない。
「ほら、乗れ」
「え?」
「おんぶだよ、そういえばオレはしたことがなかったかな」
「え?…は、はいなのです…」
そう言ってアリスはオレの背中に恐る恐る乗ってきた。
オレの力ではすぐに限界がくるかもしれないが今のアリスにあまり無理をさせるわけにはいかないし、何かあった時に活躍してもらわなくてはいけないから少しでも休んでもらったほうがいい。
まずはとにかく安全に休める部屋を探さなくてはいけない。
……のであるが、
「う、うう……、…何だか……恥ずかしいのです」
何でこいつは急に緊張して雰囲気変わっているんだ?
「あ、あの……」
え?ただのおんぶだろ⁉︎何で赤面しているんだ?何で異常に鼓動が早くなっているんだ?何でそんなに恥ずかしそうにしているんだ?何で体温上がってんだ?何の電波を受信したんだ?
「イオりん…重くないですか?」
「重い、空気が重い」
「うう、やっぱり……」
え?なに?こいつ本当にアリスか?
なんか脈絡もなく変な空気になりだしたぞ?
あの四六時中五月蝿いアリスが急に借りてきた猫みたいに大人しくなってんだけど⁉︎
オレは次から次へと起こる奇怪な現象よりもアリスのほうが奇怪に感じていた。
というか、緊張がこっちにまで移ってきたんだけど…
「……………………」
「……………………」
え?なに?この状況?
「……………………」
「……………………」
何か喋ってよ⁉︎
「……………………」
「……………………」
気まずい、気まずすぎる‼︎
もう、何でもいいからこの空気ぶち壊してください‼︎お願いします‼︎
バタンッ‼︎………トン…トン…トン…トン……
あ、やっぱ今の無しで……
空気をぶち壊して、上の方から扉の音と何かが階段を下りてくる音が聞こえてくる。
オレが恐る恐るそちらに視線を向けるとーー
「………(ニヤニヤ)」
素色のフードコートに身を包んだ人物が口元に不気味な笑みを浮かべてこちらに向かってきていた。
個人的にホラゲでは『青鬼』と『魔女の家』は傑作だと思います。もう、こっちがお金払いたくなるくらいに。
ちなみに最近では、PSvitaの『夜廻』が好きです。あの少女がトコトコ歩く姿がなんとも!