第一話「スケットの惨状、オレ退場」
一章ですので一章の一話です
食事の準備は早いくせに片付けようとしない奴らが多い。
トモシオを筆頭とした体育会系アウトドアグループは食事中の、もう肉がない発言により目を血走らせながら一目散に肉狩に出て行った。いっそカラスでもいいからとってきてくれないかな、と思うくらい彼らの狩には期待できないけどな。
様々な種族が混ざった彼らは結構ハイスペックな身体能力をしているのだが、如何せん子供だ。まだまだ未熟でまともに収穫出来る日は遠い。
「……にぃにぃ、お皿」
井戸の近くで一人お皿を洗っていると末っ子のリーアが食べ終わった自分の皿を持って来る。
末っ子が一番しっかりしている気がしてきた。
「ありがとな、リーア。やっぱりお前はしっかりしてるなぁ」
「……えっへん」
片手を手頃な布で拭いて水気を取ったあと、リーアの頭をなでてやる。
こいつがこんな風に威張る時は『なでて褒めろ』の合図である。
毛先に行くにつれて白から薄い緑色に変わる長い髪をワシャワシャと撫でてやると、リーアは気持ちよさそうに左右で違う色の眼を細めてうれしそうにする。
「……ね、にぃにぃ、髪、なんで、切らないの?」
「ああ、願い掛けなんだよ。おまじないみたいなものだ。もうすぐ叶いそうだから近いうちに切るかもね」
どうやらリーアは食事の時からオレの髪のことがまだ気になっていたらしい。
オレの髪は伸ばし始めて1年くらい経つから(というか1年くらいしか立っていないのに)腰まで届くくらいになっている。
「別にオレの髪が長いのは今に始まったことじゃないだろう。急にどうしたんだ?」
「……ん、この前、お友だちが、できたの。それで、その子が、にぃにぃのこと、きれいなお姉さんだね、っていうから、にぃにぃ男だって、いった。そしたら、オトコはカミを伸ばさない、っていって信じてくれなかった。……ねぇ、にぃにぃって本当にオトコノコ?」
「残念ながらオレは男だって伝えてくれ。信じてくれないなら連れてきてもいいぞ。リーアの友達なら大歓迎だ。是非連れてきてくれ」
そうか、人見知りの強かったリーアにもやっと友達ができたか、嬉しいことだね。
「……わかった。こんど、つれてくる」
その後はリーアも洗い物を手伝ってくれるようで、二人でたわいない話をしながら食器をかたずけていった。
リーアが最後まで手伝ってくれたおかげで予定より早く洗い終えることが出来た。
本当によくできた妹である。
~~~~~~
「?、リーアもう遊びに行ってもいいぞ。手伝ってくれてありがとな」
場所が変わってオレは昨日尽きてしまった薪を作るために教会の裏に来ていた。
今日はオレが薪割り当番であったため、リーアはここにいなくていいのだが?
「……にぃにぃ、今日、いっぱい割らなきゃいけない。にぃにぃひとりじゃ、終わらない、ぜったい。リーア、にぃにぃよりも力もち。手伝う」
なるほどね。
今日は前日サボりやがった誰かの分もやらなきゃいけないので実質2回分の薪を用意しなきゃいけなのだよチクショー。
そして、はなはだ遺憾だがオレは見た目に違わずものすごく力が弱い。どれくらいかというと言うとオレの次に力の弱い、くせっ毛赤毛のアンが同じ薪割り作業をしたら一回分が一時間で終わるのに対してオレは少なくとも二時間かかるくらいだ。
ちなみに馬鹿力のキキがやれば20分もかからない。毎日キキがやればいいのに。適材適所じゃん。
そんなオレに比べてリーアはというと、見た目に反して実はかなり力もちだったりする。末っ子なのに。
多分この子は魔族の血が混じってるからその影響だろう。
確かにリーアが手伝ってくれればものすごく早く終わることができるだろうが、冗談抜きで仕事量が1:9でリーアに偏りすぎる自信がある。ちょっとそれはお兄ちゃんとしていただけない。
「ありがとな、リーア。でも大丈夫、多分今日はもうすぐ応援が来るから早く終わる」
オレの言葉にリーアは頭にハテナマークを浮かべ首をかしげていた。
オレはすぐにわかる、とリーアに伝えると、薪を割るための切り株に斧だけを置いて近くの木陰で木にもたれかかって座って休んでいた。
リーアはしばらくあちこちを興味津々にウロウロしたり薪を積み木代わりに遊んだりドミノ倒しをしていが、やがて飽きてきたのかこちらに寄ってくるとオレの足の上に座ってきた。
末っ子のリーアは背の低い俺がひざの上に乗せてもオレの胸もとぐらいにしかとどかないちょうどいい大きさをしている。今日は少し寒かったので天然湯たんぽのリーアがポカポカしていてあったかくて気持ちいい。
オレはその状態でリーアのサラサラな髪の感触を楽しんでいるとリーアが何かお話を聞かせて欲しいといってきたから前世での日本昔話やグリム童話なんかを聞かせていた。
教会に置いてある本は聖書や神話ばかりで童話とかは少ないので前世での童話とかは兄弟達にウケがよかったため重宝している。兄達がいた頃に始めて話を語ったときはシスターもいっしょに楽しそうに聴いていたっけな。
「ーーこうして無事におばあさんと赤ずきんはオオカミから助けられました。めでたし、めでたし」
「……ねえ、にぃにぃ、オオカミさんはなんで、おばあさんと赤ずきんを、ちゃんと、もぐもぐして食べなかったの?」
………この子の感性は少しずれているような気がしてならない。
「え〜とねぇ………オオカミさんはね、おっちょこちょいだったんだよ。久しぶりのごちそうに嬉しかったんだろうね」
「……じゃあ、オオカミさん、やっぱりお腹すいていたんだね。……じゃあなんで猟師さんはオオカミのおなかに石なんて詰めたの。そのまま殺してあげればきっとオオカミさん苦しくなかったと思う」
「さあ、たぶん、猟師さんがそうしたかったんじゃないかな?」
正直、そんなこと考えたこともなかったからとっさにいい理由が思いつかない。
なんでだっけな?オオカミのおなかを偽装するためだったっけな?
「……オオカミさん、起きたときにお腹の傷に気づかなかったの?」
「ああ、きれいに縫ってあったから気づかなかったんだろうね」
「……じゃあ、赤ずきんは、にぃにぃみたいに、お裁縫の達人だったんだね」
オレはそれを聞くとリーアの頭をなでた。自分の数少ない特技を妹に褒められた気がしてなんとなく嬉しかった。
~~~~~~
「そろそろかな」
「……ん?」
なんとなくあいつはそろそろ来るかなと思った。
理由は、なんとなく外が騒がしいからだ。まるで何か獰猛な生き物が全力で走っているような音がしていた。
こんな走音を出せるのは、あいつぐらいだ。
ほら、噂をすれば、
ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"ト"っっっ
という感じの効果音をつけながらこちらに向かってくるものがいる。
リーアが危険な気がするので立たせた後、オレは少し離れる。
それは恐ろしいスピードでこちらに爆走してくると、オレに向かってまるでウサギのように飛びかかってきた。
やっぱりリーアを離しておいて正解だったなぁ。
それは避けることのできないくらい一瞬の出来事だった。
「オッッッハヨーーなのです‼︎イオりーーんっ‼︎」
残像すらともない飛びかかってきたそれはオレにしがみつくようにとびついた後、その勢いのままオレごと吹っ飛ばしてくれた。
オレはそのまま2〜3メートルぐらい吹っ飛ばされたあと、木の一本にその勢いのまま打ち付けられ、
「グギャァッ」
と、カエルが潰れたような断末魔を上げながらやっと止まることができた。
ダメだ、目の前が真っ白になっていく………
「イオりん、おはようなのです‼︎いい朝なのです‼︎いつまでも寝てないで今日も探検に行くのです‼︎」
「………………………」
「ん?イオりん!早く起きるのです‼︎朝ですよ‼︎さっきまで起きてたじゃないですか‼︎」
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!パキ!ーー(めざましビンタ)
「………………………」
「あれれ?……返事がない、ただの屍のようなのです」
「………………………」
「え〜と、確かこんなときは……あ、昨日おとうさまが心臓マッサージってのをすればいいって言ってた気がしなくもないのです‼︎」
メキっ、メキっ、メキっ、メキっ、メキっ、メキっ、メキっ、ペキっ、バキっーー(あばらの沈む音)
「あ、イオりんがなんかビクンビクンしだしたのです‼︎きっとこれでよかったのですね、たぶんあと少しなのです」
「……ダメ、にぃにぃ、それ以上やったら、ダメになっちゃう」
「あ‼︎リーアたん‼︎おはようなのです‼︎ご無沙汰なのです‼︎お元気してたですか?」
「……うん、リーア、元気。それより、早くにぃにぃから、はなれて」
「ダメなのです‼︎いっつもイオりんはアリスが来ると寝てしまうのです‼︎今日もアリスが起こしてあげないと‼︎」
「……ちがう、そうじゃない。早くしないと、にぃにぃ、おきれなくなる」
「え〜と、たしか心臓マッサージとやらの次は人口呼吸だったはずです‼︎」
「……しなくて、いいから、はやく、どいて」
「そうですか?じゃあ次は〜、あっ、そうだ!たぶん、えーいーでぃーだったのです‼︎たしか電気だったので雷を落とせばいいはずなのです‼︎『親愛なる神の怒りたる雷よ、金色の代理者の力で示すとこ、その裁きの矛で持ってーーーーーーーー……』」
「……『プロテクト・インパクト』『ライト・エクスプロージョン』」
「ぎゃあ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ーーーな"の"て"す」
「……これで大丈夫。にぃにぃ、生きてる?」
「…………………………………」
「……『アビス・ヒール』『サモン・スピリット・オブ・オーナー』」
「………………………………………ハッ!ここは⁉︎さっきまでファミレスに居たはずーー」
「……にぃにぃ、大丈夫?」
「えっ?あれ、リーア?じゃあここは…なあ、ひょっとしてオレ死んでた?」
「……1分、死んでた」
あれ⁉︎いつもはこのパターンで死にかけてたけど今日はとうとう死んじゃったのか⁉︎
ふつうはギリギリ目を覚ますけど今日はどうしてだ⁉︎
というか、
「リーア、お前とうとう蘇生魔法まで使えるようになったのか?」
「……にぃにぃが、いつ死んでもいいように、がんばった」
そういうとリーアは、ん、といって頭を突き出してくる。
そうかそうか。この年ですでに蘇生術まで使えるようになったか。やっぱ天才だな。
オレが仰向けのままその頭をなでてやると、リーアはうれしそうに目を細めた……おかしいな、肋骨のあたりがやけに痛い。
「ところでリーア。蘇生魔法なんてどこで習ったんだ?」
「……おうちの、隠し部屋の、本棚に、あった。深淵魔法、入門」
……………え、隠し部屋?それにあれって禁書の類じゃ、いや、なんでうちにあるの⁉︎というかそんなもの使われたオレは本当に大丈夫なの⁉︎
「いたたたた〜、ひどいのです、リーアたん…、あ!イオりん‼︎やっと起きましたか‼︎もう!起こすの大変だったのです‼︎」
「おいアリス、お前オレになんかしたか」
「褒めて欲しいのです‼︎イオりんがなかなか起きないから昨日おとうさまに教えてもらった応急処置とやらをしたのです‼︎きっと心臓マッサージとやらが効いたのですね‼︎さあ、リーアたんばっかりじゃなくてちゃんとアリスも褒めるのです‼︎」
そうか、やっぱりこいつのせいか。
オレは肋骨がめちゃくちゃ痛いのを我慢しながら立ち上がりこのバカの前に立つと、その頬を思いっきり引っ張った。
「何度も言わせんな、クソガキ。出会い頭に飛びつくのはやめろ。そしてオレが気絶したら何もすんじゃねぇ」
「いたいのれす〜、ほっへはやめへくらさいなのれす〜」
「うるせぇ‼︎言っとくがお前が抵抗してつかんでいるオレの手首のほうが痛いんだからな‼︎」
さっきから抵抗されて掴まれている手首がものすごくいた『パキッ』、あ、あかん。
「う〜、理不尽なのですぅ。謝罪を要求するのです」
「オレのほうがが理不尽だ。こっちは慰謝料を請求する。謝罪の気持ちを込めて薪割りと洗濯物を要求する」
「いやなのです‼︎」
「やってくれたら代わりに今日は探検でも冒険でもつきやってやる」
「よろこんでやるのです‼︎」
そういうとこいつは人間離れした速さで瞬く間に薪を作り始めた。
うん、この調子なら10分で終わりそうだな〜。
「……にぃにぃ、手、大丈夫?」
「ダメだな、両手とも薬指以外動かない。いったいどういう折れ方をしたんだ?リーア、悪いけど治してもらえるか?」
「……わかった」
そういうとリーアは魔法を使ってオレの手首の治療を始めた。
この世界に魔法があってよかったよ、なかったら全治何ヶ月かわかったもんじゃない。
オレはリーアに治療してもらいながらアリスの相変わらずの人間離れした作業を眺めていた。
突如現れた金髪の少女アリス、今代の『勇者』である。
感想の方、ありがとうございました
文字どうり飛んで喜んだあと、内容見て真っ青になりました。
単純な設定ミスで何故かこの話が恋愛ものに…
いや、設定の仕方とか変わったあとはしっかり読むべきですね、私の悪い癖です。