二話目「早起きは三文の徳、少なくとも朝日は美しい」
主人公の容姿が出ます
わかりづらいですかね?
あとやたらと多い家族については話の主要人物になるたびに詳しく出てきますので今は何となく流してもらって結構です。
私ことオレであるイオの1日はまだ日も昇っていないような早い時間からはじまる。
寝る前につけておいたランプの灯りも消えていて、真っ暗で静かな大部屋一面に布団が敷き詰められている。
孤児院では部屋がないためちびっこは皆基本同じ部屋で寝る。男女関係なくだ。羨ましいと思ったやつ、オレはお前みたいに一人で寝れるスペースを持ってるやつのほうが羨ましい。
まず、目覚まし代わりのクソ寝相が悪い弟妹達の攻撃で目がさめる。
今日は双子の姉妹ベルとベロの顔面とボディへのダブルパンチからだった。
いつものように綺麗に決まったパンチを受け、目覚めと共にKOされかけながらも朝の支度をするためと一刻も早く次の被害が出る前にこの魔窟から脱出するために必死に立ち上がるとヤンチャ小僧のトモシオの寝返りキックがスネに炸裂。
声にならない悲鳴ををあげながら、下手に倒れないように涙目状態で力を入れ態勢を立て直して一歩踏み出そうとした瞬間、食欲少女ニーナの足払い、もとい足カックンが綺麗に決まり結局倒れこむ。寝ているやつにぶつからないように身体をひねって必死に避ける。
その結果、背中から思いっきりぶつかるはめになったが、なんとか妹への直撃の回避に成功する。布団は薄いためなかなかのダメージを受け、痛みを逃がそうともがきながら横向けになったところで末っ子リーアが正面から抱きついてくる。いや、カワイイよ。カワイイけどねその力がハンパない。
オレのわき下から背中に回された腕がオレを潰さんとばかりに締め付けていて実際に骨が軋みだしている。コアラが木に掴まってるときくらい強いんじゃないかな⁉︎
スクラップにされる前に逃げるためジタバタしていると手が何か硬いものに触れ、
「ッキャッ⁉︎」
「絶壁暴力少女メラのありもしない胸に触れる」
なるほど今日のオチはこれか…
「なんですってぇ‼︎」
「あ、声と心の声が逆だった」
しまったなぁ、ついつい心の声と実際にしゃべることを逆にしてしまった。
「イオ‼︎あんたどこ触ってんのよ‼︎」
「おはようメラ、そして落ち着け、お前の胸に興味ある特殊趣味は少なくともオレにはないからあんし「リーアに何してんだこの変態‼︎」
メラの渾身の右ストレートが顔面に正面から入る。その衝撃でリーアがオレから落ちて、殴り飛ばされたオレは部屋の入り口からドアをぶち開けながら吹っ飛ばされることで、ようやく部屋からの脱出を完了した。
「フンっ!自業自得よ!」
メラはそう言い残すと勢いよくドアを閉める。
理不尽と思うことなかれ、これでも今日はまだいいほうなんだ。
本日は6コンボで済んだ、まだ《12コンボ!フルボッコだドン♪》や《ノルマクリア成功!もう一回遊ばれるドン♪》ではなかったんだから…ポジティブだ、ポジティブになれ、オレ!
~~~~~
さて、無事寝床を脱出できたところで早速仕事に取り掛かる。
まずは身支度だ。たかが身支度と思うことなかれ、一般人は気楽で良くてもオレたち孤児には死活問題に直結することがある。
というのも、他の街は知らないがこの町の孤児院は教会がになっている。
他にも簡単な医療機関や平民の学校の代わりとかもやっていたりする。
そしてオレたち孤児は教会で一応神の子として育てられる。神の子と言っても神に預けられたことかの意味だが。
そのため、全員の服は必ず修道服である。男物女物や夏物冬物などに別れていたりするがどれも修道服には変わりない。
つまりオレたちの言動や身形のひとつひとつが教会のイメージに直結するのだ。
教会のイメージが落ちると、ちょっと生活が困るんだよね。
起きたばかりなのにボロボロの身体をフラフラと揺らしながら物置部屋までたどり着くと、魔導ランプに明かりをつけた後タンスの中にあった自分の修道服を持ち出す。
無邪気なガキどものせいで蜘蛛の巣状にヒビの入った姿見の前に立ち、己の姿を確認しながら着替える。
修道服は特に目立たない地味な服でカッターシャツのような簡素な服の上に藍色に近い暗い色をしたコートのような服を着る。基本的に日本人の修道服のイメージより少しラフな格好である。胸元に黄色い糸で刺繍してある神の花とされている向日葵にほつれがないことや、ズボンにも変わりがないことを最後に服装について確認し終える。
そして今一度自分の姿を確かめる。
寝癖もなければ顔の洗い残しも無し。
それから、今世の体もやっと見慣れてきたなぁ、と思いふけっていた。
今世の体はある程度成長してから自分の姿が変わっていくにつれてどうも違和感しかなかった。
というのも、どうも男っぽくない、というかどっちかって言ったら女の子じゃねーのという見た目だ。
サラサラな絹のようで手触りのよく寝癖ひとつつかない腰まで長く伸ばした黒髪。
深い深い深海のような藍色で見つめられたら人を惹きつけそのまま引き込んでしまいそうなアーモンド状の綺麗な目。
高すぎもせず低すぎもせずちょうどいい高さを誇る小ぶりな鼻。
手入れもしていないのに細く形のいい眉。
線の細くまるで意図して作った作品かのような輪郭。
血色のいい唇で少しでも笑顔を作ると美しく咲き誇り、万人を魅了する。
そのほっそりとした体はまるで触れれば折れてしまいそうな華やかでいて儚い一輪の花を想像させる。
まだ子供なのに美人という言葉が似合うような容姿だ。
というかやっぱどっちかといったらとか中性的とかそういったレベルじゃない。
うん、女だ。
こんな子が前世通ってた学校にいたら絶対告ってた、と、本人が言うくらいアレである。
ここまできたらいっそTSしたほうがと思ったくらいだ。
声も声で美しい音色を奏でやがるため、まだまだ先の声変わりが待ちどうしくなる。
男物の修道服に違和感しか感じないくらいに。
そう、これで男なのである。
ちなみに、これがチートの一つの影響らしいです。
今もまだ流行りかな?わかんないけど男の娘ってやつだっけ?逆だっけ?
羨ましい人とっかえようぜ、是非是非是非‼︎
この容姿になって約12年。
未だ背もあまり伸びずこの前ようやく140センチに当たる値に到達したまだまだ子供である。
人さらいにさらわれかけること22回
貴族に目をつけられること4回
変態にケツを掘られかけること2回
男に告られること3桁
女に告られること0…………
……さあ、そこのお前、変われ、変わりやがれ‼︎
いっそうみずぼらしい山賊姿でもいいからさあ!
~~閑話休題~~
身支度が済んだら次は朝ごはんの準備だ。長々しくて鬱陶しい髪を後ろで一つに束ね準備に取り掛かる。晩御飯が少しでも余れば朝食作りも少しは楽なんだけど元気なガキ共は米粒ひとつ残さない。あ、米なんてこの国になかった…久しぶりに食べたいなぁ。
この世界の文明レベルはどうも表現しづらい。理由はいくつかあるがその一つは魔法があるからである。
法律とか社会制度とか国際関係とか考え方とかは何世紀だよと突っ込みたくなるくらいあれなのに道具とかの実用性に長ける部分は発達していたりする。
その一つがこの魔導コンロである。
『第二世代魔導コンロ』使用者の魔力が必要だった第一世代と違って魔石で動くため魔力持ちじゃなくとも火をつけることが出来る画期的な一品という売り文句とともに売られていた道具だ。使い心地は日本にあったガスコンロと変わらない。
売り出された当時、いろいろあってオレが第一世代を壊し、兄貴たちと一緒に必死にカネをためて買ったのは今となってはいい思い出である。
………4年前の話で今の最新型は第6世代だとしてもだ。
一階の祭壇の裏にある調理場に教会の表の井戸から引いた水を持って入る。
底の深いでかい鍋に大量の水を注ぎダシの煮干しをぶち込み強火で熱する。
街の人達から分けてもらっていた野菜や肉を手頃な大きさに切り分けているうちに沸騰し始めるので火を調節してから手際よく今切ったものを放り込む。
蓋をしておけば完成だ。あとでアクでも抜いて、とかした卵を入れておけばいい。
他の料理?知らん!
万年金欠でもう食材どころか調味料すらないんだよ‼︎
~~~~~
魔導時計を見るとちょうどいい時間になっていたので次の仕事に取り掛かるとしよう。
次は街に朝を告げる鐘を鳴らす仕事である。鐘は朝と昼、そして夕方に一回ずつ合計3回鳴らすことになっている。
魔導具の技術が発達しているとはいえ、時計はその生産技術が難しく量産できないため未だに庶民の元には普及していない。お貴族様でさえ持っていない家があるくらいだ。そのため、教会には街の時間を調節するために必ず配られる。…泥棒の格好な餌なんで非常に迷惑なのだが。
教会の古びた階段を登り地球でもよく見られた教会とかに置いてあるまんま釣鐘のある場所までくると街全体が見下ろせる。
そこから見渡せる壮大な風景は格別だ。
すべての種族満場ことごとく受け入れる自然豊かなこの国《ルブレージア皇国》
その声価に違わず、この世界にいるすべての種族は太陽の子であるという国教〈サニア教〉のもと、この世界にいる人間をはじめとした、獣人、ドワーフ、エルフなどの地球でもメジャーだった種族のほか鬼人や虫人、といったあまり知られていない者達などとにかく果てしない数の種族がいるこの世界で全てを受け入れる国
その国境の一つであり国を守る重要な要の一つ《ハーティアス辺境爵領》
その街の一つ「パルテア」にオレたちは住んでいる。
意味は鏡だそうだ。
町外れの小高い丘の上に立っているこのオンボロ教会からはこの自然豊かな街を一望出来る。
この国で海から最も遠いこの領地は山々が散乱し、ところどころに湖や川が流れていたりする。
その一つであり、この街の名前の由来の巨大な湖が眩しい朝日を水面に反射してまるで鏡のように輝いている。
そして湖を中心に引かれた、たくさんの水路、もともとあった川が迷路のように張り巡らされ、たくさんの石造りの家々が湖を取り囲み、さらにその周辺に麦畑や野菜農業、畜産など幅広く行われており昼間は活気づき街を賑わせる。
今は早朝。オレはこの時間帯のここからの景色が一番気に入っていた。
早く起きてしまった街の人々が散歩しているのがチラチラと見えるだけな、この街では珍しい閑静な一面を見ることが出来る。
昼の活気強さと違って、静かな街にまばゆい朝日の鮮やかで力強いオレンジ色の光がさんさんと降り注ぎ、街のいたるところに流れている水路を白く輝かせ、対照的に建物には影を作らせ雰囲気を明るくしすぎぬように黒く落ち着かせる。
まるで、高名な芸術家が蜘蛛の巣をモチーフに造ったかのような美しい世界に迷い込んでしまった気分である。
いつまで観ていても見飽きることのない景色だ。
そして不意に聞こえた鳥の急かすような声に、ふと、現実に引き戻された。
今日は鐘を鳴らすのが少しばかり遅れたなと反省しながら鐘の元に近づき、つらしてあるロープを思いっきり振り切る。
ゴオォーーーン、、、ゴオォーーーン、、、ゴオォーーーン、、ーーーーーーーーー
澄んでいて、それでいて力強い鐘の音が街に朝を告げる。
鳥の声はいつの間にか歌に変わり、多種多様な鳥どりのハーモニーが鐘の音色を演奏に響き渡る。
ありきたりな言葉だが、美しい。
初めてこの光景を見たときも言葉にできない感動を味わい、思わず涙したものだったなぁ。
こうして、オレの1日は始まる。
次は月曜の19時頃までに出します
次回くらいまで説明会です




