間章「とある電話談」
トゥルルルルーー、トゥルルルルーー、
『は〜い、もしもし?』
「私、あの少年は、このまま死ぬべきだと思うの」
『…は?………その声は紫陽花か‼︎お前久しぶりに電話してきたと思ったら何急に物騒なこと言ってんの⁉︎というかなんの話⁉︎んでもって非通知で掛けてくるのやめろ!』
「あなたに依頼されていたあの少年の話」
『ゑ?…少年?俺ショタに興味は無…あ…ああ、的場 庵君のこと?』
「そう。イオちゃん、12歳」
『そうそう、それで庵くんに会えた?なかなか失礼なガキだったろう』
「こちらから行く前に向こうから来た。今、私の隣で寝てる」
『お前…自分がモテナイからってとうとうショタがきを襲うようにーーー』
「本棚の三段目」
『エ?』
「右から4冊目の辞書を押し込んだら出てくる隠し扉のーー」
『わぁあああーーー‼︎悪かった‼︎俺が悪かったからそれだけは母さんたちにはー』
「新型のスマホ。グリフォーンX−013、初回プレミアムバージョン」
『ゑ?』
「イオちゃん、私のスマホよりずっといいもの持ってた」
『あ?いや、ほら。それはしょうがないじゃん。他に親機登録出来る機能ついたやつがもうが無かったし…あれが一番頑丈だったし…持たせとけばいろいろ牽制にもなるし…最近俺の財布寂しいし…』
「"白〇に溺れ乱れる聖女""ド素人〇〇女優の'ピー'"」
『わかぁぁぁっっった‼︎買う‼︎買ってやるから‼︎』
「最初からそう言えばいい」
『クソっ、元はと言えばお前が……』
「あのラインナップは何?母さんたちにはもう飽きたってこと?」
『違います‼︎断じて違います‼︎あのな紫陽花、お前にはわからないかもしれないが男ってのは創作物においては普段無いシチュエーションが萌えるというかーーー』
「ところで話は戻るけど、イオちゃんはこのまま死んだほうがいい」
『いきなりだな、本当に‼︎というかこのまま死んだほうがいいって…お前殺ったのか?』
「虫の息。……あ、死んだ。今死にたてホヤホヤ。そのまま時間を止めてる」
『何してくれてんの⁉︎そいつは一応うちの陣営のーー』
「無理。彼は【王】にはなれない。素質はある、でも王なる前に死ぬ。なれたとしてもすぐに殺される」
『……理由は』
「まず弱い。なのに力は強すぎる。魔力の永久機関なんて冗談かと思っていた。実際にこの目で見たのに今でも冗談かと疑ってしまう。どうしてこうなるまで放っておいたの?」
『あまりに忙しすぎてな…あいつが【大吉】引いたあと、次に来た奴はヒステリック起こしてた上に【中吉】ときた。というか、あの御神籤で当たりでたのいつ以来だ?久しぶりすぎて報告書に手こずっていたんだよ。それで、気づいた時には既に永久機関が完成してやがった』
「そもそもアレは何?ただでさえ永久機関なんて理論上ありえないのにさらに永久的な魔力生産ときた。無から何かを産み出すようなもの。そんなものーー」
『そんなもの、神ですら実現出来ていなかった。出来ていたらあの戦争は起きなかったさ…。だが理論がどうであろうと、ありえないことだろうと、そこに存在していることは事実なんだよ。そもそもあれはギフトではなく、庵本人がギフトを元に創り上げてしまった奇跡の産物だ。そんなコンマのあとにゼロが百万個並んでもまだ大きすぎる可能性のものが出来上がるなんて誰が予想できるか?誰も予想できねーよ」
「……原理は?」
『知るか。むしろ近くで見たお前のほうが、俺より理解してるんじゃないか?あのギフトは本人の魔力の貯蔵量の増加と質の改善にアクセルを掛けるものだが勝手に魔力を生産するものではない。俺が知ってる参考になりそうなことはそれくらいだ。ま、こういう事があるからお偉いさんたちは実験体として転生者にギフトを配るんだろうけどな。解明されたら次からは賢者のギフトに追加されそうだよ』
「そう、くだらない連中ね…ならわかると思うけど、彼はタダでさえ人間から襲われまくってるようだったけど、さらにそのくだらない連中からも襲われることになる。それでいつまでも生きていけると思うの?」
『さあ?連中の方は身体ないから現世行けないし直接的なことは出来ないだろう。それに庵は己の魔力が強すぎる影響でどの神からも"運命"を授けられないからそこも安心だ。他の神は俺が出来る限り抑えている。でも今はまだ何処にもばれてないが情報が漏れたらヤバイかもな…身体無くした神にとって永久機関は信仰無くても永遠に生きていけるための夢の道具だからなぁ。あの生意地汚い連中は、血眼になって襲うだろうなぁ。でもまあしばらくは大丈夫そうだ。問題は人間と他の陣営の干渉の方だろう?そのためにお前に頼んだのだけど?』
「……遅すぎたのよ。これが二つ目の理由。既に本人に生きようとする意志は薄い。身内のためとはいえ簡単に命を投げ捨てる。他人のためなら自分の傷はどうでもいい。オマケに勇者と共依存気味ときた。今までに何があったかは知らないけど、想像はつく。でもこれくらいで逃げるようならとても生きていけるとはーー」
『ーーなんだ、正にうちの陣営にぴったりじゃないか』
「……は?」
『自分よりも他人を大切にし、大切なもののためには命を捨ててでも護ろうとする。それも常識はずれのレベルで護り抜く。護れるのなら自分も周りもどうなろうと構わない。うちの陣営なんて、そんな頭のネジの外れ方をした奴の集まりだろ?』
「………」
『吸血姫は攫われた妹を救うために海を走って渡りきり別大陸の敵国に乗り込んだ。腐食姫は家族の仇で国二つを滅ぼしたし、魔導王はそんな義妹を死ぬ気で止め続けた。竜神は星姫のために世界を変えたし、星姫は最後まで竜神のために抗い抜いて心を壊した。サニアはこの世界のために戦い続けたし、聖王はそんなサニアを魂が壊れかけるまで支え続けた………な、みんな馬鹿みたいだろ?そういう奴らなんだよ、ウチにいるのは…紫陽花、お前だってそうだぞ』
「………」
『それにタダでさえウチは人員不足だってのに魔道王は寿命を迎えるわ、それ以来腐食姫は隠居気味だし、竜神も星姫も領地に引きこもってるし、サニアと聖王は育休とっちゃったし……実質まともに動いてるのって吸血姫とお前だけだぞ。母さんたちも頑張ってくれてはいるがなかなか仕事は減らないしーー』
「あ、母さんから伝言。お土産は神単衣がいいって。あとそろそろもう一人子供が欲しいって」
『……ああ、まじつらたん、死にそう』
「それと、早く帰ってきてだって」
『………おう』
「幸せそうで何より。リア充爆発しろ」
『はぁ……まあ、何よりだ。今は猫の手でも借りたい状態だ。領地をを管理するのに今の王と姫じゃ全然足りない。彼ならちょうど魔導王の後釜に成れるだろうし、その他の王になれる可能性も高い。頼むからもうしばらく面倒を見てやってくれ…』
「…………わかった」
『ああ、そうそう紫陽花。お前もそろそろ現実的ないい人連れてーー』
ツーっ、ツーっ、ツーっ、ツーっーー
「……そんな生き方をしているからこそ、それがどんなに辛いかわかるから、彼にはここで終わらせてあげたいのよーー父さん」




