表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は、狂わしいほど騒がしく、そしてーー  作者: やかやか
一章「ワンダーランドな勇者様」
13/23

第九話「二度目の逃亡の末に」

お待たせしました。

 勝った‼︎第一部完‼︎


 針を刺したあと、紫陰は椅子から倒れて全身を激しく痙攣させたあと、床で死んだ魚のようになった。

 そのあと、アリスも動けるようになったから、多分死んだはずだ。いや、絶対死んだはずだ‼︎


 ここで間違っても『やったか?』などとは思ってもいけない。

 それは俗に言うやってないフラグであり、それを言った瞬間どんなに瀕死の相手でも次のシーンでピンピンしているからだ。

 故にオレは何があってもその言葉だけはーー


「やったか⁉︎なので「何言ってくれてんだてめえ‼︎‼︎」す?」


 ナンテコッタ‼︎

 オレは言わなくてもこのアホが言ってくれやがった‼︎


「この電波‼︎何故いまその言葉を言った⁉︎それは言っちゃいけない呪いの言葉だと親に習わなかったのか⁉︎」

「こんな時にこそ言わなきゃいけない伝統芸能だとお母様が言っていたのです!」

「クッソ!子供に何教えてんだお前ん家は‼︎」


 チクショー‼︎せっかく倒したと思ったのにいまに蘇ってくるぞ‼︎絶対くるぞ‼︎

 そうだよ、そういえば相手は魔王だ。きっと倒しても第二、第三形態くらいあるはずだ!魔王は最低でも三段階形態変化機能持ちだろ‼︎

 ほら見てみろ、今に……


 ………


 ……今に………?


「……ホントに死んだ?」

 あれ?本当に動かないぞ…


 オレとアリスは紫陰の息を確かめるため、倒れて動かなくなってしまった紫陰の体に恐る恐る近づく。


 うん、死んでるね。

 脈が無い、息もしていない。仮死状態とか怖いからもう二、三回針刺しとこ。某吸血鬼のごとく第三部で復活されても困るし…


 なんか、意外とあっさり死んだな。あまりにあっけなさすぎないか?


 不思議と冷静になってきたところで罪悪感が出てきたな…人間?相手にこの針使うの初めてだったし……この人、オレが殺したんだよな………

 完全に変人だったが、本当はもっと話をしてみたかった。日本について語れる相手なんてなかなか巡り会えないし、それになんかオレの知らないことや、おっさん神が言ってくれないこととか色々知ってそうだったのにな…


「…紫陰、恨むなとは言わない。だから、謝りもしない。ただ、もしお前が魔王じゃなかったなら、オレはもう少しだk「勇者キック‼︎魔王を遠くの彼方へシュート!なのです‼︎」」


 オレの後悔を交えた言葉を遮り唐突にアリスが紫陰の頭を蹴り飛ばした。


「ちょ……おま…」

「ちょー!えきさいてぃんぐ‼︎なのです」


 紫陰の頭は体を離れ、綺麗な放射線を描きながら飛んでいった。


「いや、おい、お前、何やってんの?」

「死体蹴りは基本ってお父様が言っていたのです」

「お前は鬼か⁉︎」

「勇者なのです。魔王に与える慈悲など無いのです」

「お前のその底知れないアンチ魔王精神はどこから来るの⁉︎」


 オレは勇者に選ばれたものは、その時点で問答無用の精神汚染か何かを受けているのではと、本気で考え始めています。


 両手を腰に当て胸を張り何故かドヤ顔のアリス。

 首と胴がさようならしちゃってる紫陰。

 開いた口が塞がらないオレ。


 カオスだな…


「とりあえず墓でも作って埋めるか…」

「とりあえずこんがり焼くのです」


 死ねばみな、仏。たとえ魔王でも………ちょっと待て。


「おい、アリス。お前のその言い方、絶対火葬じゃないだろ‼︎」

「大丈夫、ちゃんと美味しく焼くのです‼︎ミディアムレアぐらいがちょうどいいのです」

「灰になるまで焼くんだよ‼︎誰も食わないのに美味しくしてどうするんだ⁉︎」

「外にでも放っておけばたちまち狼の餌なのです」

「お前マジで慈悲のかけらもないな‼︎」


 アリスがアンチ魔王すぎて怖いからもう帰りたいです、切望。


「…アリス、とりあえず火葬するから土ででかい箱作ってくれ」

「調理場に運ば「ない。一旦そこから離れろ」」


 アリスを軌道修正しつつ火葬の準備を始める。

 ちなみに孤児院は教会でもあるので、たまに葬儀をしなくてはいけないから勝手はわかる。


 ちなみにこの世界の埋葬は宗教によって多少の違いはあるが基本は灰になるまで焼いた後、残った骨も粉になるまで砕いくところまでは共通している。そこまでしなければゾンビやマミー、スケルトンや下手をすればリッチーなんかが生まれたりするためだ。アンデット系の魔物はもともと死んでいるためなかなか倒れなかったり、常にリミットが外れた馬鹿力状態だったり、何度も復活したり、感染したりととにかく面倒なので、戦争時でさえ互いに死体処理の時間を決め協定を結ぶほどである。



「とにかくまずは胴体を………ん?」


 …あれ?おかしいな…この死体…なんというか…違和感がーー


「イオりん、どうして魔王の死体は首から血が出ていないのですか」


 言われてみれば、体から頭がぶっ飛んだというのに血の一滴も出ていない。

 ちなみに頭の方は………あ、これ、あかんやつだ。


「アリス」

「ハイなのです‼︎」

「やれ」

「『ライト・エクスプロージョン』‼︎」


 手榴弾並みの爆発が紫陰の残った胴体を木っ端微塵に吹き飛ばす。


 正気を疑われると思うが、血と肉片や骨が飛び散るというグロ注意状態になって欲しいと願ってしまった。


 怪しいと思って紫陰の飛んでいった首を見たとき、明らかにおかしいものを見た。

 まず、もちろん体からも首からも血が出ていないこと。

 次に、無表情で死んでいる。今までにこの針での殺しは何回か生き物で試したことがあるが、それは毎回毎回安らかなものとは遠い死に方をした。そもそも殺された奴が苦行の顔どころか無表情ってあるのか?

 最後に何より、アリスに蹴られたためかはげてしまった顔の皮膚の部分からは砕けた木と綿のようなものという、人間どころか生き物としてありえないものが見えた。


 そして案の定、紫陰の飛び散ったのは生き物の証である紅でなく、大量の木と綿だった。


「しまった‼︎こいつ人間じゃねぇ‼︎ゴーレムだ‼︎」

「『ライトニングワークス』イオりん、逃げるのです」


 この紫陰がゴーレムとなれば状況が一気に変わる。

 まず、最近のゴーレムはそのほとんどが『自己修復可能』なのである。つまり、放っておくとまた戦闘になりかねない。オレの魔力を直接流し込んだのだから魔力回路までズタボロになっているだろうが、再生の元となる核までは破壊できてる可能性は低い。核さえあればそのうち魔力回路も再生されてしまう。


 正直、もう一度戦って勝てる見込みはないに等しい。

 つまり、修復される前に粉々にして少しでも時間を稼いでその間に逃げるのが得策である。


 オレは魔法を発動させたアリスの背中に躊躇なく飛び乗りアリスにおぶってもらう状態になる。超高圧の電流が身体中をはしり、痛いというレベルじゃないが今は気絶している暇はないため、気合いと慣れでなんとかしなくては、命が危ない。


「あばばばばばばばっばばっばばばっばっばっっばば」

「イオりん、もうちょっとなのです!頑張るのです‼︎」


 アリスはオレを担いだまま全力で屋敷の中を駆け抜ける。オレが火事場の馬鹿力を出して10分くらいかかった道を1分もかからずに走り抜ける。速い!サラマンダーよりずっと速い‼︎本当だから笑えない。


 しかし、そんなスピードで走り回っているというのになかなか出口が見つからない。

 開ける扉は、全てハズレ。階段もいくつもあって、明らかに屋敷としてもおかしな構造だ。そしてとうとう今何階にいるかもわからなくなってしまった。


 そもそも無限ループや馬鹿みたいにでかい食堂なんてものがある屋敷だ。どこに何があるかなんて今日来たやつにわかるわけがないのだ。


「イオりん、一旦休みましょうか?」

「ごめん…そうしてもらえると…助かる」


 だいたい10分ぐらい走り回ったところでアリスの魔法の効果が切れた。

 その間10分間アリスから流れてくる電流に打たれ続けたオレは完全に死んだカエル状態だった。

 全身に力が入らず、アリスの支えなければ背中から簡単にずれ落ちてしまう。時折強い電流が流れるたびに全身の痙攣がひどくなる。というか、漏らしていないことが奇跡という状態だった。

 瀕死すれすれである。これ以上はもう危ない。


「…死にそう、アリス、悪いが回復頼む」

「うう、回復魔法は苦手なのです」


 そう言いながらもアリスは渋々とオレの治療を始めてくれた。

 アリスの手が優しくて淡い治癒の光を放つ。それを当てられて体の痛みや疲れが少しづつだが消えていく。

 アリスは苦手と言っていたが、そもそも回復や治癒の魔法を使えるだけでも珍しいのだ。それに、これでも中級並みの回復力である。


「さて、どうしようか…出口が見つからない」

「イオりん、もしこのままここから出られなかったらずっと二人きりですね」

「……たぶん、お前が考えてるようなことになる前に飢えて死ぬと思うぞ」

「も〜!夢がないのです‼︎」

「お前はいつでも夢いっぱいだな…」


 頬を膨らませて抗議するアリスを横目にオレは状況を整理する。


 まず大問題は出口が見つからない。入り口のあたりの風景はなんとなく覚えているが、どこに行ってもそれが見つからないのだ。ちなみに壁を壊すなどとうの昔に試したがどれだけ壊しても新しい部屋や廊下が出てきて、終いには最初に壁を壊した場所の反対側の壁から出てくるという無限ループを始めたところで強引な突破は諦めた。

 次に、紫陰がもう追ってこないのか?という疑問なんだが、しばらく走ってもどこにもいないしどこからも出てこないから未だに体の修復に時間がかかっているのだろうか?もし、今出てこられたら勝機は薄い。アリスもそれがわかっているから逃げ出したのだろうし。


 ただ、本当の問題は……


「イオりん、まだ立っちゃダメなのです‼︎」

「いや、いい。それよりアリス、急ごう」


 オレは多少動けるまで回復したら無理して立ち上がり、もう一度アリスの背に乗った。

 情けないがこれが一番速い。勇者特急など普段は乗りたくないが、命がかかってるなら別だ。最悪死んでも孤児院まで帰れればシスターとリーアになんとかしてもらえる。


「アリス、悪いがもうひとっ走り頼む‼︎」

「了解なので……うぅ…」

「アリス⁉︎」


 オレを背負って再び走り出そうとしたところでアリスが倒れこんでしまった。

 おそらくまた魔力吸収の結界的なものが発動したのだろう。


「アリス、動けるか⁉︎」

「……ぁ………ぁぁ」


 拙いな、魔力切れの末期状態の症状だ。さっきから何度も魔法を使わせてしまったのが余計に響いてしまったのだろう。


「とにかく応急処置を…」


 オレはポケットから何時の間にか戻ってきていたスマホから付属品のナイフを取り出し手首にに当てる。出てきた血をアリスの口に運ぶが今度はなかなか回復しない。

 拙い、早く、早くしないと…



 ……トン、トン、トン、トン


 薄暗い屋敷の中に、不気味な靴の音が響き渡る。それは一定のリズムを刻みながら、終わりを告げるかのように着実にこちらに近づいてきている。

 アリスは起きない、たとえ起きたとしてもすぐには立てないだろう。オレがアリスを背負って逃げたとしても、いつまでも続くはずがない。


 万事休す。

 オレたちが抱えていた最大の問題はこの魔力吸収結界であった。

 発動した途端、こちらはなすすべなく詰んでしまうという最悪な状況が訪れる。なぜ発動までに10分程かかったのかは知らないが、この10分の間に屋敷から逃げ出さなくてはいけなかったのだ。オレの回復などしている場合じゃなかったんだ。



「クスクス…鬼ごっこは終わり。なかなか楽しかった」


 …あ、終わった。

 唐突にかけられた言葉は、死神よりも厄介な魔王からの終焉の知らせ。


「えっと、楽しんでもらえて何よりです。そろそろもういい時間なのでオレたちおいとまさせていただきますね。あの…お出口はどちらに…?」

「(クスクス)」

「あのぉ〜…」

「タダで帰れるとでも」


 デスヨネー


「神のラッパ‼︎」


 オレは前触れもなく、スマホを投げつける。一瞬でもいいから隙を作るためだったが…


「無駄」


 紫陰は隙を作るどころかスマホに対して今度は全くリアクションを見せなかった。

 無視されたスマホはそのまま重力に従い床に落ちる。そして床に落ちて高い音を立てた後、アラームはなることなく静止する。


「アラームを使うのに宣言はいらない。それは私に対するフェイク。鳴りもしないラッパに二回も引っかからない」


 チクショーばれてやがら。

 そりゃアラームは設定しなきゃなるはずが無い。神のラッパを音楽として鳴らせばすぐに鳴りはするが、手元で鳴るためオレが死ぬ。だから、時限爆弾のようにアラームを設定する必要があるが、今は設定する時間などあるはずがない。


「それじゃ、しばらくおとなしくしていて」


 そう言うとオレは一切の身動きが取れなくなった。おそらく見えない糸で絡め取られているのだろう。

 一撃必殺の針も動けなければ使えるはずがない。

 アリスはもう動けない。完全に打つ手なしか…


「あなたたちは負けたわけだけれど」


 紫陰はそう言いながら静かに近づいてくる。


「もし、どちらかだけが助かるとしたらどうする?(クスクス)」


 そういうと、長い棘のようなものをオレに突きつける。形状からしてアイスピックに似ている。

 絶体絶命ですね、はい。


「できればアリスだけでも助けてもらえないかな〜なんて」

「そうね、じゃあアリスちゃんを助けるためならあなたは何をする?」

「何でもする」

「ん?今何でもするって「言った」……」


 紫陰はつまらなさそうな顔でこちらを見てくる。


「どうした?オレは何でもするって言ったぞ。アリスが助かるなら靴の裏だって舐めてやるし黒魔術の実験だろうと喜んで使われてやるよ」


「………これは、予想してたよりずっと危ない」


「は?どうしたんだ?」

「あなた、自分の命が惜しく無いの?」


 ……は?


「もし魔王に捕まれば、少なくとも地獄を見るのは明らか。でも、あなたは何のためらいもなくアリスちゃんのために自らを犠牲にしようとしている。この屋敷に入ってからだってそう。自分の手首を当たり前かのように切り裂く。魔王相手に逃げずに正面から突っ込んでくる。明らかに異常。どうして?アリスちゃんがそんなに大切?」


 なんか、話の流れが急に変わったな…

 アリスが大切かって?紫陰は何が聞きたいんだ?


「アリスちゃんはあなたの恋人?」

「いや、違うけど」

「家族?」

「違う」

「じゃあ何?」

「…友人」


 何となく、それも違う気がするが。


「……は……けど………ない」

「なんだって?」

「いや、なんでもない。それよりもアリスちゃんは助けてあげることにした」

「ああ、感謝するよ」

「感謝はしないで。代わりに、あなたは死んでもらう」

「……わかった」


 オレがそう返答すると、紫陰は溜息を吐きながら残念そうな顔をしていた。

 そのまま何も言わずにピックを振り下ろし、それはオレの心臓めがけて突き進み、


「させないのです」



 オレと紫陰の間に入り込んできたアリスの胸を貫いた。

試験は終わりました。ええ、いろんな意味でorz

ああ、ああ、ぁぁ、ァァ……

もう疲れたよ、パトラッシュ…お腹すいたよ、パトラッシュ……美味しそうだなパトr

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ