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元はかなりの長編です。それを4~5話程度に端折りました。設定で可笑しなところも多々あるかもしれませんが、全部書ききれなかったので、サラリと流してくださると嬉しいです。


「お母様、いつもの物語のお話を聞かせて下さい」


 子供はそろそろ寝る用意に入る時間に、娘が部屋着で居間に飛び込んできました。それを体で受け止め、椅子に座るように導いてあげます。


「あなた本当にあの物語が好きなのね」

「はい、大好きです!」

「その割にいつも途中で寝てしまうのに?」


 そう、娘はあの話を聞くのが好きなのに、途中でいつも寝てしまい、最後まで話したことはありません。


「ううっ・・・はい、それでもどんなお話よりも一番大好きなのです。それに今日は絶対に寝ません。お父様が帰ってくるまで起きてお迎えすると、お父様と約束しましたから・・・それに今日は旅をしているおじい様達も帰ってくるんですもの・・・・・・ダメ?」

「ふふふ、良いわよ。それに寝ても良いから。お父様が帰ってきたら起こしてあげる」

「今日は本当に大丈夫です!」


 どうやら今日は本気のようなので、ホットミルクを作ってあげてゆっくりと語りましょうか。


「はいはい、じゃ、話すわよ。昔々あるところに―――」




一人の少女が居ました。

少女の父親は賢者で母親は3属性を操る魔法使いで、一代限りの爵位を頂いており、位は伯爵です。ですが、頂いている領地は民が住んでいないただの森一つだけ。

 領地経営をしていないので収入は入ってこないはずなのですが、少女の両親はちょっと・・・いえ、かなり変わっていて、父親は物語を書き、母親は便利魔法の開発で収入を得ていました。

 どこにでもある平凡な毎日を送っていましたが、少女が10歳になると両親が、


「もう貴方は善悪を把握し、分別の年頃となったので私たちは旅に出ます。・・・ああ、そうそう、貴方には小さかったので覚えていないかもしれませんが10歳以上離れた兄が居ます。特徴は灰色の髪に右目が赤で左目が茶色ですよ。フラリと帰ってくることはないと思いますが、もし帰ってきたらよろしくね。じゃ、行ってきます」


 と母親から突然の爆弾宣言を言い放つやいなや、二人で旅に出てしまったのです。


 少女は母親の言葉に詳しく聞くことも出来ずに呆気にとられ、馬車が見えなくなっても玄関でポカンとしていました。どれぐらい時間がたったことでしょう、我に返ったとき


「何に突っ込んだら良いのか分からない爆弾を落としていくな~~!というか突っ込みすらさせてよ!!馬鹿ぁ~~~!!!」


 と叫んでも両親の乗る馬車は既に見えず、すごすごと頭を抱え自分の部屋に戻るのでした。


 それから5年がたち、時折両親からの手紙が来るものの、二人は世界中のあちこちに回っているみたいで父親は順調よく現地の取材をして執筆活動をし、母親は旅行を満喫しているようで、一度も帰ってきません。

 そんな行動派の両親とは打って変わって、少女はずっと家に引きこもり、外に出ることもなく、メイドが買ってきた本を読む毎日を続けていました。

 

 少女が外に出ない理由はこの世界の摂理にあり、この世界は精霊と密接な関係があって、生まれてくる赤ちゃんは必ずと言って良いほど、精霊の加護を持った石を握って世に落とされるのです。

 ですが、少女の持つ石はきれいな球を描いているものの、無色透明だったのです。

 

 精霊の加護を付いた石は、精霊の色があり、水属性なら青色、土属性なら黄色と色が付いているのが当たり前なのです。

 風なら緑、火は赤、雷はオレンジ、光は虹色に輝く白、闇はその名の通り黒、無属性は紫、氷は水色と、九つの色が付いています。

 移住民族のような民の間ではたまに石を持たずに生まれてくるそうですが、その子供達でさえ、各地の神殿に赴けば、それぞれにあった石を精霊から頂けるそうなのですが、その方々も必ず色の付いた石を頂けるので、無色透明という石は未だかつて見たことも聞いたこともないそうで、そこから劣等感を感じ、少女は家の外に出ることが出来なくなったのです。


このまま屋敷に閉じこもって一生を終えるのかな?と諦めかけていたときです、王様からの直々の召喚状が届きました。


「お父様宛だったら分かるけれど、どうして私なの?」


 賢者である父親と王様は、学生時代での大親友だったのです。だから両親が在中のときは、少女・・・・・・私が小さい頃はよく王様から父様宛に手紙が届いたり、城へと赴いてのですが、両親が旅に出てからは音沙汰が無くなっていました。


それなのにどうして5年もたった今頃に?

 王様と父様は今でも手紙のやりとりをしているはずなのに、相談事だったらそのやりとりですむはず。


 怪訝の思いながらも、直接の召喚状が届いたのだからと、執事にせかされつつ私はお付きの侍女とともに登城しました。


 王様はとても優しい人なのですが、さすがは王様をやっているだけあり威厳が半端なく、召還された内容がとんでもない内容なのに、断ることが出来ませんでした。

一応依頼という形ですが、矯正力が半端なく命令と同じです。有無を言わせない迫力に、嫌々ながらもお受けすることになりました。


 依頼された内容を要約すると


『ここ最近、世界各地で異変が起きているそうで、水の大神殿と隣の国である雷の都に行き、水の大神殿に異変がないかどうか、そして雷の都の異変はどの程度なのかを調べてきて欲しい』

 

 というものでした。


 一般の加護も持たない、言い換えれば普通よりも劣る能力しか無い私に何という無茶ぶりを仰ることか。理不尽さに少々頭に血が上りかけましたが、相手は王様、依頼とはいえ命令です。逆らうことなど出来ないですが、でも、そんな大きな任務を何故自分が選ばれたのか?大いに疑問なので、それだけでもお聞きしました。

 他国に行って様子を探るという王様の命令は、下手をすれば間諜扱いです。もしかすると極秘事項かもしれません。それなのに、王様は簡単に教えて下さいました。


『おまえの父親からの推薦だ。賢者が言うのだから何か考えがあるのだろう』


 ということです。


その答えに私は全否定をしたい気持ちです。


 王様は父様を過大評価して仰いましたが、多分違うような気がする。私が引きこもりだから、外に出したかっただけなのかも・・・そうとしか考えられない。

 だって、世界中に旅をしている父親からの手紙ではいつも、世界は良いぞ。外に出て見聞を深めなさい。と書いてあるのだもの。


その時は父親に王様まで巻き込んで娘の引きこもりを直そうなんて、大がかりすぎよ!と心の中で叫びましたが、父様は父様であっても、賢者様だったのね。と、旅の最後には父様の偉大さが分かることになりました。


 しかし、この時は父親に対して怒りを抱きながら、渋々と旅に出ることになったのです。


 誰も簡単には体験できない危険と謎に包まれた旅・・・そして世界を覆すことになる運命の旅の始まりです。



 この依頼は急を要するみたいで、翌日には旅に出ることになったのですが、流石に一般の人よりも能力がない私のために王様が護衛を付けて下さいました。

 元々こういう依頼は神殿の神官か、間諜の仕事です。いくら父親からの推薦であっても、成人未満の女子に頼むようなことではないはずです。

 ・・・ととと、またもや愚痴になりそうなので、ここでストップして、付けて下さった護衛は二人。双方とも私の幼なじみで、神官と剣士でした。

 世間のことは何も知らない当時の遊び相手であった幼なじみです。

10歳まではよく遊び、気心が知れた男の子だったのですが、5年もたてばすっかりと大人の仲間入りをしていました。


 なんだか私だけ置いてけぼりを食らったかのように感じるわ。


 流石に男子二人と女子一人の旅は危険だと言うことで、私の仲の良い侍女一人を入れて、合計4人の旅が出発しました。



 まずはこの水の都の王都から5日ほど馬車で行くとあるという山間の湖に向かいます。その途中で旅に必要な物を買いそろえるために、普通の神殿がある町に立ち寄りました。


「貴方はまだ加護がないことを気にしているのでしたら、この神殿でもう一度加護を頂きに行ってみませんか?」

「そうだ、そうだ。あん時は3歳で小さかったんやろ?あの時に顕現しなかったもんも成長して顕現しているかもしれへんしな」


 神官の彼の言葉に賛成をする剣士。どうやら私は彼らに気を遣われているらしいです。


 年は離れているとはいえ、彼らとは10歳までよく一緒に遊んだものです。それが突然、家から出なくなった私を心配して訪れてくれて、おずおずと理由を話したことがあったのを思い出しました。そして『気にするな』と嬉しい言葉を貰っていたのに、それでも引きこもっていた私です。


 ようやく外に出たのですから、チャンスは逃がしたらダメだよという彼らの説得で私たちは神殿に行くことになりました。


 剣士は火の加護しか頂いていないと言うことで、水の加護も頂けるのなら欲しいと一緒に、そして神官は王様の指示でこの辺りに異変がないかを聞くために神殿へと行くそうです。

 そういうことで大変だけど侍女に旅の準備を任せることになりました。


 さて、神殿での結果なんですが、剣士は水の加護を貰えなかったようです。そして私は―――

 変なおまけが・・・というのでしょうか?変な者が取り憑いた・・・?よく分からない状況になりました。


一人で精霊の間で慣例的な祈りを捧げていると、精霊の鏡から精霊が現れたまでは良かったのです。

ですが、その後。


「おまえには水の加護も守護も必要が無い」


 と言われ愕然としました。だって精霊から全否定されたのですよ?これが絶望なのか・・・とまで思いましたとも。

 何度聞き直しても「必要ない」しか答えてくれず、すごすごと帰ろうとしていたら、水の精霊から、


「いつでも見守ってやる。必要ならば名を呼べ」


 とお情けを頂き、精霊の名を右手に刻まれました。


「・・・・・・」


 全否定されたことにショックで、この意味を問う前に精霊は鏡から帰ってしまって、私はポカンと立ち尽くすのみです。


『いつでも見守ってやる』と言われたけれど、それってどういう意味なの?


結局は加護を与えられなかったので、私は普通以下に変わりありません。


 加護はそれぞれ特色があり、水の加護を与えられると、その人が泳げなくても近くの精霊が助けてくれて岸に導いてくれます。そして多少なりとも水の中でも息が出来るらしいのです。

 そして火の加護は、持っていない人と比べると熱に耐性があり、雷の加護はその名の通り、雷に打たれても命に別状はなく火傷ですむそうです。

 もちろん加護の段階があるようで、精霊のどれだけ好かれているかにもよります。

 ちなみに剣士は火の加護を持っているのですが、かなり好かれているようで、火に飛び込んでも火傷一つ負わないそうです。


 加護の上には守護というのもがあり、これを与えられるとそれぞれの魔法が使えるようになるのです。


 神官がそれにあたり、彼は水の守護を与えられていて、結構上位の魔法まで使えます。もちろんこちらも段階があり、精霊にどれほど愛されているかで魔法の威力と使える魔法が変わります。

 

 守護が欲しい、魔法が使えるようになりたい等と思わないです。ただ無色透明な石を見るたびにこの世界から否定されているようで悲しい気持ちになるのです。

 一番軽くても良いのに加護すらもらえず、やけに美形な『監視者』が付いたことに複雑な気持ちで神殿を後にしました。

 その暗く沈んだ表情で彼らは加護がもらえなかったのを察して、美味しい物を食べに連れってくれました。


「気にすんな。まだ他の神殿はあたっていないんやろ?」

「そうですよ。後、八つ残っていますから希望はあります」


 そうなのです、神殿は一つの属性のみを扱います。この地は水の国なので、水の神殿のみ。隣の国である雷の国は、雷の神殿といった具合です。

 他の加護が欲しければ他国に行くしかないのです。


 王様からの依頼をしぶしぶながらもお受けしたのは、他国に行くことが出来、もしかすると違う加護が頂けるかもしれないという希望がわき上がったから、旅に出ることを選んだのです。


「さて、明日は出発できそうですね。明後日には大神殿に着けそうです」



 翌日、出発と言うときに、大事な物を買い忘れていることに気づき慌てて探したのですが、どの店も品切れ中途のことでした。


「なぜ、こうもリールの葉だけがないのでしょう?」


 リールの葉とは薬草で、傷薬や鎮痛剤、解熱に効くのです。


「もしかしてこれは異変の始まりとか言いませんよね?」


 どこにでも売っている物なのにどの店にも品切れで、つい禁句を呟いてしまい


「それは口に出してはいけません。民は知らないことなのですから」


 と神官に注意を受けました。

 それはそうですよね。無闇矢鱈と民の不安を煽ることをして騒動を起こしてしまっては大変なことになります。だかこそ、誰も気にも留めないように私のような者が選ばれて、こっそりと調べに行くのですから。(これももちろん王様からお聞きしたことです)


「ごめんなさい。迂闊でした」

「はい、これからは気をつけて下さいね。幸い声が小さかったので誰にも聞かれていません。そして先ほどの答えなのですが、これは異変でも何でもありませんよ。毎年この時期になるとある老人がまとめて買っていくそうなのです。だから品切れとなっているのですよ」


 なんだ、そうだったのね。早合点してしまったわ。


「旅をする上でリールの葉がないのは痛いなぁ」

「大丈夫、とはいえませんが、大量購入された方の住んでいる場所を聞きましたので、すこし分けて頂きましょう。幸いこれから向かう先、湖の近くに家があるそうで目的地から大幅に外れることはないですし」


 大神殿に行く前に、その老人から薬草を分けて頂くことになりました。ですが、たどり着いた先でトラブルに見舞われます。


 老人が住むという家が、湖の近くとは聞いていたのですが、まさか湖に沈んでしまうなんて思いもよらなかったのです。



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