うろな町長の長い一日 その十三 夕時の河川敷 青空姉妹編
Dear 町長シュウ様、ディライト様
お久しぶりです!
うろな町でお世話になっております小藍です
三衣千月様の素敵サプライズ企画に便乗して書かせて頂きました♪
一周年という素敵な日を迎えられた事が嬉しく、なにかお祝いをしたいと思いまして
少しでも、楽しんで頂けたら嬉しいです
一周年、おめでとうございます♪
そしてこれからも宜しくお願い致します!
to 小藍
休日のうろな町のある道を、滑走する者が二人。
「いやっほ〜〜っ♪」
「きゃあああぁぁぁ――っ!?」
夏に海の家ARIKAを開く青空家の長女陸と次女の海。
歓声をあげている方が海で、悲鳴をあげている方が陸だ。
二人が乗っているのは、楕円形の銀の物体。海女であり発明家でもある四女渚の発明品である「スイスイくん・1号」。
車輪はなく下部分の噴射口から空気を放出し、その威力により地上スレスレの所を浮遊している。操作も簡単で、T字のレバーを前後させる事で加速、減速する仕組み。曲がりたい時は、曲がりたい方向に身体を傾ければ曲がれるというシロモノだ。
「さっすが渚♪ 巧っちンとこと子馬ンとこの技術部に通ってるだけあって、精度格段に良くなってんじゃん♪」
「そんなことはいっ、いいから! スピードを落としなさいスピードをっ! 中身がっ。大体、なんで私なのよっ!?」
楽しげな声と非難する声が上がる中、スイスイくん・1号は『海ねぇ、町長と秋原さん河川敷方面に向かってるよ』との隆維からの連絡と渚のナビを受け、河川敷へと向かって進んでいた。
『……そろそろ目標地点に到達。流石にスピードは、落とした方がいいと思う』
耳に付けたイヤリングから渚のそんな声が届くが、海はにんやりとしたまま速度を緩める素振りはなく。
「だ〜いじょぶだってぇ♪ この海ちゃんが、ヘマなんてするかっつーの♪」
などと宣い、そのままの速度で突っ込んでいく。
「いや――あああぁぁぁっ!?」
銀の浮遊物体が通り過ぎたその後に、陸の叫びが一足遅れで響くのだった。
「夕焼け……綺麗ですね」
「そうですねぇ」
のんびりと、夕陽の光によってオレンジの景色に染まる河川敷を並んで歩いているのは、うろな町の町長であるその人と秘書を務める秋原さん。
ゆったりとしたペースで道を歩く二人は、どこからどう見てもお似合いカップル。
傍目から見ても、まるでお揃いであるかのようなその紺の装いが、仲睦まじい様を思わせる。
犬の散歩に来ている人達や、河原で遊んでいる子供達、買い物途中のお喋りに興じている女性陣を眺めながら歩を進め。
ふと、秋原さんのその耳が一つ音を捉える。
「町長。なにか聞こえませんか?」
「なにかってなにが……?」
歩みを止め、耳に手を添え訊ねてくる秋原さんに、町長が首を傾げて返しそちらへと視線を向けた、その時。
「ターゲットはっけ――んっ♪ んじゃあほいっと☆」
「ひ、やっ!? あああ海っ!? かっ、加速してどうするのよ! よ……、避けてくださいぃぃ――っ!」
一端ガクンと減速したかと思えばひとつ叫び声を引き連れて、跳ね飛ぶようにして此方へと突っ込んでくる、銀色の飛来物が見えた。
「きゃあぁ!?」
「秋原さんっ!」
悲鳴をあげる秋原さんを庇うように、その胸元にぐいと抱き込む町長。
空を切る音が、近く大きく聞こえ。
最早回避は難しいだろう、という想像が高速で脳裏を過り。
そんな中先程浜辺で子供達が言っていた言葉が、ふいに呼び起こされる。
「結婚式」
秋原さん、きっと綺麗だろうな。
あぁ、せめて結婚式くらいは挙げたかったなぁ、と思いながら来たる衝撃に備えぎゅうと目を閉じる。
……
…………
………………
しかし、いつまでたっても衝撃は来ない。
『……あれ……?』
それにおそるおそる、二人が目を開けると。
目と鼻の先スレスレで、その物体が停止していた。
「さっすがあたし! ま、この海ちゃんが、ヘマなんかするワケないけどね〜♪」
ぺたりと座り込んだまま、ポカンとした顔を向けてくる二人に、にんやりと笑って言うのは海。
そんな表情の海に。
『そういう問題じゃないでしょうっ!』
夕焼けに染まるオレンジの、穏やかな空気を切り裂く、二つの叱責が飛んだのだった。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
「ほらほらぁ、町長もこー言ってるしぃ。落ち着きなよ〜二人とも♪」
『あなた(海)が言える事じゃないでしょうっ!』
綺麗に声をハモらせる秋原さんと陸に海が笑い。それを町長が取り成す、を経て暫し。
「でも本当に、危ないことはしちゃいけないよ?」
にっこりと町長が海に告げ。それにへいへいと返事しながら、海はぽんっと町長に一つ箱を手渡す。
「えっ?」
「あたしら、町長探してたんだよね〜♪ 今日、就任一周年らしーじゃん。だからお祝い〜♪ おめっとーさんっ」
いきなりの事にぱちくりと目を瞬く町長に、にやりと告げる海の傍らで陸が「もっと他に言い方があるでしょうっ!」と言っているが右から左で。
「調度良〜い時間だし、出来れば今すぐ開けて貰いたいトコなんだけど……」
と呟きながら端末に視線を落とすと、げ、と声を上げ慌てて陸をスイスイくんに押し込む海。
「ちょ……ちょっとまさか……」
自身も乗り込みつつ、顔を青ざめさせながら呟く陸を遮って。
「休憩時間中にじゃないとジジィのヤツがうっさいからさ〜、そろそろ戻んないとなんだ。そんじゃ♪」
そゆ事で〜♪ と笑顔で去っていく海とは、対照的に。
「いやああぁぁぁ〜〜っ!?」
陸は、少女のような悲鳴を河川敷響かせ、連れ去られていくのだった。
「何が入っているんでしょうね?」
「なんだろうね? でも海ちゃん(あの子)、悪戯好きって感じだったからね……」
二人が去っていった方向を見つめて苦笑いし、手渡された箱に目線を落として呟いて。
調度良い時間だって言っていたしと思いながら慎重に、そっとその箱を開ける町長。しかし。
中身は空っぽ。
「あれ?」
それに拍子抜けしつつ、首を傾げた所に。
パパン!
「きゃあ!?」
持っていた箱の側面が開いて、破裂音らしき音と一緒に秋原さんの声が響き。町長が秋原さんの方を見やると、ヒラヒラと舞う紙に、まみれている秋原さんと目が合った。
慌てて箱を放って秋原さんに駆け寄る町長。髪やら服についた紙を払ってあげながら、
「秋原さん、大丈夫ですか?」
「あ、はい。紙きれが飛んできただけなので……」
そう言葉をかわす二人の耳に、箱からコトンと音が聞こえ。
まだ何かあるのかと、そちらに視線を向けた所で。
勢い良く開く蓋部分と共に、十字にパタパタと開いていく側面部分。
開いたそこには、青空家一同からの、お祝いの言葉が添えられており。
その間際でキラリと、夕陽のオレンジの光が跳ね返る。
『……っ……』
その光景に、息を飲む。
箱の中から出てきたのは、夕陽の光を弾いて黄金色に輝く、花束を模した飴細工だった。
光を弾いて輝くそれは、今この瞬間の為に。
そして何より町長の為にと、しつらえられた最高級品。
繊細な、そして柔かな線で作られたそれに、夕陽が、騒ぎを聞き付けて集まり出してきた人達の、笑顔がふわりと映り込む。
柔らかく温かな空気までをも、そこに閉じ込めたかのようで。
「……」
そっと、顔を伏せた町長の耳に、秋原さんの優しい声がふる。
「綺麗ですね、町長」
「あぁ、うん……綺麗ですね」
それになんとか声を返す町長に、微笑んで。
「本当に――、素敵ですね。町長」
「そう、ですね。素敵ですね――」
微笑む秋原さんを見返して呟き。
一周年おめでとうとか、これからもよろしくという声が口々にかけられ、夕焼けが美しい景色の中、はにかんだ笑みを浮かべる町長なのだった。
頃合いをみて、町長への贈り物にこっそりと忍ばせておいたスピーカー兼運搬器機に、渚は一つ声を飛ばす。
『……先程は、姉二人が失礼しました。贈り物は、遠隔操作で町長宅に届けておきます』
それだけ告げると、カメラ内蔵の超小型自動飛行観察機からタブレットに送られてくる映像を確認しつつ、数値を入力し。
スイッチを切り替え呟く。
「……渉先生。町長達は暫く河川敷を歩いた後、商店街に戻るコースだと推測される」
『了解。概ね予定通り、かな。……それで、『彼』の方は?』
訊ねられたその言葉に、タブレットの一部分にさっと視線を走らせてから、渚は静かに呟いた。
「……変わりない。秒遅れで然り気無く、二人の後を追随中」
飴細工、クリア仕様ジュエルケース入りなので外気には触れていないかと
次は出汁殻ニボシ様です!
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