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全五話程度の短い連載になる予定です。よろしければ数日間お付き合いくださいませー。

下ネタ(主におっぱい)にご注意を!

 

 

 

 

 

 キラキラと光り輝くシャンデリア、それに照らされキラキラと輝く人々。

 そこに響き渡るグラスの割れる音。


 その音で、ある二人の物語の歯車が動き出す。




 ある日の事、王都の片隅にあるビスコット男爵邸で言い争う姉妹が居た。


「お姉様、二日後にパーネ伯爵家で夜会が開かれるの」


 そう切り出したのは妹のミエーレ・パステーテ。

 彼女は約一年前にパステーテ公爵家へと嫁いでいった。

 しかし姉より先に嫁いだ事に対する少しの罪悪感と、いつまで経っても結婚しない姉に対する不安と心配があって、こうして頻繁に実家に戻って来ては姉を社交界へ引っ張り出そうとしている。


「行かないわよ」


 淡々と答えたのは姉のメル・ビスコット。

 妹の思いなど関係ないと言わんばかりの即答を口にする。

 メルの言葉を聞いたミエーレはやっぱりね、とがっくりと肩を落とした。


「お姉様だって結婚相手を見付けないと……」


「妹のアンタの結婚相手が見付かったから、次は弟の結婚相手よね。でもまだ13歳だし、今から探さなくても平気だと思うわ」


 と、メルはにっこりと微笑みながらあからさまにはぐらかす。


「そうじゃなくてお姉様の結婚相手に決まっているでしょう!」


 そう声を荒らげるミエーレだが、メルは顔色一つ変えなかった。


 メルが夜会に行きたがらないのには理由がある。

 社交界が苦手、なんてそんな単純な理由ではない。


「……アンタだって知ってるでしょう? 私が夜会や舞踏会やその他諸々……貴族の集まる場に行くと起きる面倒な事柄の数々を」


 メルは社交界随一の、誰もが認める美貌を持っている。

 ぽわんとした美少女顔で、19歳になるとは思えない程の童顔。

 それとは裏腹に大きく柔らかそうな胸、細くくびれた腰、張りのあるお尻と、男の理想を具現化したような姿をしているのだ。

 そのせいか、言い寄ってくる男は数多居る。

 最初こそ嬉しくも思っていたが、いざお付き合いとなるとすぐに振られてしまう。

 何故なら、彼女は可愛らしい見た目とは真逆の性格をしているから。

 言いたいことは我慢せず、思った事がするりと口を衝いて出てしまう性質なので、見た目と中身の印象がまるで違う。

 ふわりと夢見る乙女のように見えて、どこか淡々とした現実的な女性。

 さらには説教臭くて女性というよりお母さんに近い言動が目立つ。

 メルに近付いて初めてそれに気付き驚いた男達は皆メルの側から去ってしまうのだ。


「大体、自分から言い寄ってきたくせに振るってどういうこと?」


 と憤慨するメル。


「お姉様、黙っていればお淑やかで大人しそうだもの」


「そんなの相手が勝手に押し付けてきた印象じゃない。それをさも私が悪い事をしたかのように。何で私だけが傷付かなければならないのよ」


「うーん、そのままのお姉様が好きだと言ってくれる殿方がいらっしゃれば、」


「良いの。そんなの要らないから。アンタだって覚えてるでしょう? 私が男共のせいでどんな目に遭ったか……」


 言い寄ってくる男は跡を絶たなかったが、振られ続ける日々があまりに続いたため、メルは男性との付き合いを完全にやめてしまった。

 そうすると、相手にされなかった男達は妙な行動を起こし始めた。

 他人には解らないようにさり気なく胸や尻を触ってくる男、邸の周りをうろうろと徘徊する男、事ある毎に付き纏ってくる男……そんなものは当たり前。

 迂闊に夜道を歩けば襲われかけ、つい最近では夜這いにやってきた男まで居た。


「美しいって……罪ね」


 そう言いながら溜め息を吐くミエーレも充分美女なのだが、彼女の場合はメルとは真逆のスレンダーで気の強そうな美女。

 それなのに中身はぽわぽわした乙女なのでそのギャップがウケるというお得な美女なのである。

 周囲の者には昔から、神様が姉妹の魂と肉体を入れ違えたのではないかと言われていた。

 ちなみに二人が似ていないのはメルが完全に母親似、ミエーレが完全に父親似だから。


「そんな事言ってる場合でも心境でもないわよ。もう結婚なんて考えてないから貞操云々は置いておいたとしても、さすがに最近は命の危機を感じているのよね……」


「いや、結婚も考えよう? 貞操云々も置いておかないでもうちょっと考えよう? ね、お姉様」


 間髪入れずに口を挟むミエーレをメルはじとりと睨む。


「私は体の弱いお母様の代わりに弟の面倒を見て過すの。それで良いのよ」


 はあ、と大きな溜め息を隠す事無く零す姉に観念したミエーレは言う。


「……解った。今度の夜会に出てくれたら今後は出なくて良いわ。今度の夜会は義母様のご実家が主催する夜会なの。是非お姉様を連れてきて欲しいと言われたから、」


 ミエーレの言葉に、メルはハッと目を瞠る。

 自分のわがままで妹の親戚関係にひびを入れるわけにはいかないのだ。


「……そう。じゃあ今後一切社交界に連れ出さないと約束してくれるなら出るわ」



 そんな事があった二日後。

 メルはミエーレに引き摺られるようにして会場に連れてこられた。

 人目を引かないように首元までボタンをびっちりと留めるようなドレスを選んだメルに、ミエーレは何か文句を言いたげだったが、露出度が上がれば上がるほどよろしくない男が寄り付きやすくなる事を知っているので何も言わずに我慢する。

 そして本来なら逃げ出さないよう側に付いていたいところだが、立場上そうはいかないミエーレは会場へ着いてすぐに夫の元へ向かった。


 一人残されたメルは、当然のように即帰宅したいと考えたが、ミエーレの顔を立てるためには暫く居なければならない。

 しかし帰りたい気持ちは揺るがないので出口近くの隅っこにあるテーブルの前へと移動した。立食形式なので椅子はない。

 壁の花と化すことも考えたが、背後を壁にしてしまうともしもの時の逃げ道が減ってしまうのだ。

 とにかく妹の夫である公爵やその他諸々の関係者との挨拶をするまではそのテーブルの前で耐えるしかない。


 メルがそんなことを考えていた矢先、ふと左隣に人の気配がした。

 目の前のテーブルには酒の入ったグラスや料理が置いてあるので、その人もそれを目当てに来たんだろうと思っていた。

 しかし、左隣の人物を見上げると、妙ににやついた男がこちらを見下ろしているではないか。

 その男の瞳にいつもの面倒な男の臭いを察知したメルは、じりじりと人の居ない右側へと動き出した。


 一度目が合ってしまえば、男は調子に乗ってメルに話しかけてくる。

 挨拶や当たり障りの無い話を一人で喋っているのだが、メルは全てを聞き流し、適当な返事を零すように呟くだけ。

 もう少し距離を取ろうと思っていたら、今度は右隣にも人の気配がした。

 それも男ではあったが、メルのほうには気付いていない様子だ。

 不覚にも悪気のない相手に退路を絶たれることとなってしまった。

 メルは苛立ちから奥歯をぎりりと噛み締めながら、必死で逃げ出す方法を考えていた。


「結婚のご予定は?」


 自分の自慢話を続けていたはずの男の口からそんな言葉が飛び出してきた。


「父が決めた方が居ます」


 もちろん嘘だが、バカ正直に本当のことを言うわけにはいかない。


「おやおやそうですか。……あぁそうだ、このお酒はわたしの領地で取れる果実から作られているのですよ。甘くて飲みやすく、お嬢様方にも人気の品なのです」


 そう言って、男はメルに酒を勧めてきた。

 それはそれは綺麗な黄金色のお酒だった。

 見た目こそ美味しそうな色合いなのだが、それを持って来た男の態度がいただけない。

 さっきからしつこく飲め飲めと勧めてくるのだ。

 そこでメルの防衛本能が働いた。

 これは、明らかに危ないものを飲まされそうになっている、と。

 自意識過剰だと思われる可能性もあるが、つい最近夜這い被害に遭いそうになった身であるし、油断は禁物だ。


「ほら、早く飲んでください。そしてレディの感想を聞かせてください」


 男は、今までテーブルに乗せながら勧めていたグラスを手に取った。

 無理矢理飲まされたらたまったもんじゃない、とメルは急いでそれを受け取る。


「わたくし、突然お酒を頂くと具合が悪くなってしまいますので、後程飲ませていただきます」


 そう言ってもう一度テーブルの上に戻す。

 そしてそのまま男の手が届かないように自分の右手側へと押しやった。

 その時、あまりに急速に右側へと動いてしまったからか、右隣に居た男とぶつかった。


「申し訳ありません」


 と、咄嗟に謝ったのだが、右隣に居た男はメルを見下ろして思いっ切り睨みつけてきた。

 ちょっとぶつかっただけでそんな顔しなくても良いじゃない、そう思ったメルだったのだが、右隣の男の向こう側から女の鼻にかかった猫なで声が聞こえてきたことにより状況を把握する。

 おそらく右隣の男も自分と同じように言い寄られているのだろう、と。


 それから暫くは延々と続く左隣の男の自慢話を聞き流していた。

 メルがそろそろ妹の夫あたりに挨拶に行こうかと考えていた時、ふと右側に寄せていた例のグラスが動く気配を感じた。

 あれ? と思って体ごと右側を見た瞬間、ガシャンという盛大な音が会場内に響き渡った。

 そして、メルはそれと同時に自分の体に重い何かが圧し掛かってきている事に気付く。


「だ、大丈夫ですか!?」


 重い何かの正体は右隣に居た男だった。

 右隣に居た男がメルの方に倒れてきているではないか。

 メルはそれを必死になって支えながら、割れたグラスを確認する。

 それは案の定左隣の男が持って来たグラスであり、中身が殆どなくなってしまっていることから、どう考えても右隣の男が誤ってそれを飲んで苦しんでいる状態だった。


 右隣の男は、ぐ……だの、うぅ……だのと呻くばかりでメルの問いに答えられないようだ。

 しかし力は失われていないようで、メルの二の腕と、ドレスの胸元をしっかりと握り締めている。

 メルは急いで、でも冷静に左隣の男に問い掛ける。


「何を盛った?」


 と。

 しかし、左隣の男は混乱するばかりで、


「は……は、」


 と口からだらしなく空気を漏らしているだけ。


「何を盛ったのかと聞いているの! 言いなさい!」


 メルが声を張り上げて言うと、男は肩をびくりと震わせて口を開く。


「す、すい……ちょっと強めの睡眠薬……を、」


「解毒剤」


 やはり盛られていたか、と頭を掻き毟りたくなるが、今そんな事をしたら自分にもたれかかってきている男と共にこの場で倒れこんでしまう。

 そんな事しなくとも、男の重さで今にも倒れそうだというのに。


「は?」


「解毒剤か何かはないのかって聞いてるの! さっさと答えなさい!」


「ひっ、げ、解毒、身体に害はありません、ただ眠るだけで……わたしは少しあなたを眠らせて連れて帰ろうと、」


「そんな話は聞いていない! どうでもいい! 誰か手を貸して!」


 グラスの割れる音と、メルの叫ぶような声で周囲は全員気付いているというのに、遠巻きに見ているだけで誰も手を貸そうとはしてくれなかったのだ。

 しかしメルの手を貸してという声で、近くに居た男達が、恐る恐るだがメルに覆い被さるようにして眠っている男を引っ張ろうと動いてくれた。

 その時、ぶちぶちと不穏な音がする。

 そう、眠っている男はメルのドレスの胸元をしっかりと握り締めているのだ。

 それを引っ張ろうとしているのだから、このままでは公衆の面前で……


「ちょ、ちょっと待って、こんなところでポロリとか勘弁していただきたいわ、このまま別室へ運搬する方向でお願いします」


「お姉様!」


 引っ張るのを止めにして、とりあえず別室へという動きになりかけていた時、騒ぎを聞きつけたミエーレとその夫がメルの元へと駆けつけてくれていた。


「来てくれたのね妹よ。事情は色々あるのだけど、とりあえずこの人を別室に運搬させていただくわ。あと事の発端はその男だから」


 メルは左隣に居た男を指差して言った。


 ミエーレが手配してくれたことで、滞りなく邸の一室を借りることが出来た。


 メルは数名の力を借り、とりあえず男にしがみ付かれたままソファに腰掛ける。

 部屋の中にはメルと男の様子を見張るように立っている侍従の姿がある。

 おそらく、この男に付いている者なのだろう、とメルは思った。

 男は起きる気配もなければ手を離す気配すらない。

 メルが、迷惑な話だわ、と呆れた様子でそれを見下ろしていると、ミエーレが部屋に入ってくるのが見えた。


「ところでお姉様、この方って、」


「私に薬盛ろうとしてる奴が居てね。それをうっかりこの人が飲んじゃったのよ」


 ついさっき起きた出来事を簡単にまとめる。


「いや、そうじゃなくてこの方、って! え!? 薬!?」


 あまりのことに理解が追いつかなかったらしいミエーレは一瞬間を空けてから目を丸くした。


「付き纏いやら夜道での奇襲やら夜這いやら……挙句の果てには薬と来たわよ。そろそろ本気で命の心配しなきゃ」


 はぁ、と溜め息を零すメルを見て、ミエーレも同じように溜め息を零す。


「そうねぇ……。というかお姉様、この方……侯爵様じゃないかしら?」


 ミエーレはメルにしがみ付く男の顔を覗き込んだ。

 メルが、そうなの? と部屋の中に居た侍従に視線だけで問うと、侍従はこくこくと頷く。

 どうやら彼は侯爵らしい。


「へぇ……。しかし人のおっぱいを枕にしてよく寝てるわねー」


 メルはしみじみとそう言いながら侯爵の頭をぽんぽんと軽く叩く。

 それを見た侍従が軽く悲鳴を上げた。

 軽くとは言え侯爵の頭を叩くなど、失礼極まりない行為だからだろう。

 しかしメルとしてはさっさと起きて欲しいので今後とも多少の衝撃を与えるつもりでいる。


「お姉様のおっぱい枕、気持ち良さそうですものね……」


 ミエーレもしみじみとそう言う。

 二人がチラリと侍従のほうを見遣ると、侍従はほんのりと頬を染めていた。

 確実にメルの胸元を見て柔らかさを想像したのだろう。

 メルもミエーレもそれを見て、悪戯が成功した時の子供のようにほくそ笑んだ。

 暫くそのままでいると、侯爵がもぞもぞと身じろぎを始める。


「お、離れるか?」


 メルが期待を込めてそう呟く。

 そして期待通り、掴まれていた二の腕やドレスの胸元はやっと解放された。

 しかし解放されたのも束の間、侯爵の腕はするりとメルの背中へと回ってしまった。

 それを見たミエーレが、ふと言葉を零す。


「……あらぁ……最高のおっぱい抱き枕の完成だわ」


 と。


「感心してる場合じゃないから」


 メルがすかさず釘を刺す。

 暢気な事を言ってる場合ではないのだ。





 

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