僕の生活
決して僕っ娘ではありません。
僕は男です。
大事なことだから二回言います。
僕は男です。
それはあった。
いつからあるのかは知らない。
生まれる前なのか。
生まれた時なのか。
生まれた後なのか。
気づいたときにはもうすでにそれはあった。
大きい力、それが危険であることは幼い子供であるにもかかわらず、僕には理解できた。
理由はわからないが、僕はこう考えている。
生きるための知恵
と。
その力に気づいたときには隠す方法を覚えていたし、そのころからは記憶もはっきりしていて誰にも言った記憶はない。
だが、いつの日からだろうか?
僕は同じ夢を見るようになった。
それは
僕の住む町が戦いによって滅びていく
そんな夢だった。
ジリジリジリッ!
僕から少し離れたところで6:30に設定したアラームが鳴っている。
季節は冬も終わり、春が始まるようなそんな暖かい時期。
正直、ベッドから出たくはないがノソノソとはいでて、二階建てベッドのはしごを降りる。
そして、寝ぼけて消してしまわないように手の届かない場所に置いた、鳴り止まないアラームを止めにいく。
僕は親とは離れて暮らしている。
別に親が仕事でいないとかではなく、僕が寮生活をしているからだ。
端末を操作して、アラームを止める。
端末とはPMD(Personal Multipurpose Device)のことであり、語訳すると個人用多目的型携帯端末のことである。
その名の通り、音楽を聴いたり、ニュースを見たり、インターネットにつないだり、時間が見れたり、メールができたり、電話ができたり、魔術の発動体となったり、教科書を見れたりと多岐にわたる。
それらは、インターネットや学校や施設で入手可能であり、それらを称してDB(Data Bank)と呼ぶ。
さて、寝起きの悪いルームメイトでも起こしますか。
「テトラ、朝だぞ」
「うぅぅ、後五分」
「五分したら、また、五分っていうでしょ。そんなこという子には、今週末にケーキ作ってあげませんよ」
バッ!
突然、布団が飛ぶ。
「あっ!そんな勢いよく行ったら……」
ガンッ!
「うぐっ!痛い」
茶色のストレートロングヘアーの女の子が少し低めの天井に頭をぶつけている。
「そんな勢い良く起き上がらなくてもよかったのに」
「だって、ノナンが意地悪言うからでしょ」
そう、僕の同室者、テトラ・アーマンドは僕ことノナン・クーリッドのお菓子やご飯が好物である。
そのために、僕と同室になったとかそうではないとか。
大体、異性を同室にする寮は少ないというより、この学年では僕の部屋ぐらいだろう。
正直、理由は良くわからない。
なぜか、僕だけが部屋割りの男で余って、なぜか、僕の幼馴染のテトラが女の子側で余って、なぜか、一人部屋もたくさんあるのに、なぜかそれを告げに来たであろう先生の耳元でテトラが二言三言つぶやいただけで、ないと言われてしまったのである。
手段はわかっている。
まず、テトラは天災(←ここポイントです)級のハッカーだ。
国から依頼があることもある、全部断っているらしいけど。
なんでも、理由は自由な時間がなくなるのは嫌らしいからだそうだ。
少し話はそれたけど、簡単に言うとこの学校の先生、生徒、国に至るまで弱みを握られているのです。
僕は脅された経験はまったくないのだけどね。
さて、着替えなきゃね。
えっ?女の子いるから恥ずかしくないかって?
幼馴染だし、なにせ、恥ずかしいもなにも着替えるのもPMD使えば一瞬だからね。
画面を操作して、お気に入りのコーディネイトを開いて実行のボタンを押す。
お気に入りっていうのに、僕は使うものしか入れていない。
僕が押したのは制服。
今着ていた服が、粒子まで分解され再構築されていく。
このコーディネイトツールを使えば髪形や髪色まで何でもできる優れものだ。
ただ、髪の長さとか身長とか身体的にいじれないものは無理だけどね。
ちなみに僕の髪の毛は長い、単純に切るのが面倒だったんだが、前に切ろうとした時、テトラにとめられてから、髪の長さを揃える程度にしか切っていない。
ちなみに基準はテトラの強い要望で肩になっている。
と、上から順に確認して行くと帽子、カッターシャツ、スカート……えっ?
「なんで、どうして?」なんて、もう、あわてることはない。
「テトラ、今日の夕ご飯は自分で・・・」
「ごめんなさい、今すぐやめるからそれだけは勘弁を」
と、テトラが自分のPMDを操作すると僕の服装が男物の制服になる。
「まったく、自分でやればいいのに」
テトラは、幼馴染の僕が贔屓目に見ても可愛いと思う。
なぜ、自分で着せ替え人形をやらないのか理解に苦しむところなのだけど。
さて、朝ごはんは、寮のみんなで食べる。
これが規則だ。
少々遅刻しても、お小言で済むが僕たちは違う。
なにせテトラの寝坊のせいでもうすでに今月入ってから、一週間しかたっていないはずなのにすでに三回遅刻している。
これ以上の遅刻はさすがにまずい。
時計を見ると6:45ちょっと過ぎたところ、朝食は7:00だからちゃんと余裕があると言える。
ちなみに食堂は一階で収容数は300人くらいで、寮にいる人も同じくらいの人数で、さらに後5つ寮があるので、学校全体で先生を含めると2000人弱くらいである。
「テトラ行くよ」
玄関で靴を出した僕はそういった。
「・・・・・・」
「テ~ト~ラ~」
「・・・・・・」
「返事がないぞ。また、二度寝したのかな?」
と、部屋に戻ってドアを開けるとなぜかテトラは下着姿だった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「ごめん」
沈黙に耐え切れなくて、部屋を出る。
テトラの眩しい下着姿が鮮明に浮かぶ。
はっと、一生懸命、その映像を振り払う。
「せっかく、ノナンの前で下着姿になったんだから、なんか言って欲しかったなぁ」
と、すぐに部屋から出てきた制服をまとったテトラが言う。
「女の子がそんなこと言ったら駄目じゃないのか?」
「鈍い・・・」
テトラが何かつぶやく。
「何か言った?」
「何にも。早く行きましょ」
時計を見ると6:50。
やばい。
5分前似つかないと寮母さんにお小言をもらってしまう。
つまり、後5分でつかなければならない。
テトラをお姫様抱っこで抱えた。
そして、そのまま僕は手すりから飛んだ。
この寮は、マンションを基に作っており、一部屋で、十分生活で切るようになっている。
そして、この寮は20階建て、2階が警備員や寮の職員さんが生活したりしていて、安全への配慮から女子生徒が3~10階、男子生徒が12~19階、11階と20階に先生がいる。
そして、どうせなら高いところがいいとテトラがおど・・・説得して、20階に住んでいる。
その上この時間は駆け込みのためにエレベーターは各階で停止する。
つまり、20階だと間に合わないから飛ぶ。
合理的ではあるが現実的ではない、この飛び降りるという考え方。
しかし、その常識は百年程前に変わってしまった。
まぁ、僕の場合は違うんだけどね。
自由落下して行く中で僕は形だけの発動体を出し、呟く。
- わが背に 天をかける翼を -
落下速度が落ちる。
そして、そのままゆっくりと地面に降りたつ。
これが僕の魔法、数字ではなく言葉で事象を改変する。
より確実で、より強力なもの。
「こんなところで、上級魔術『天使の翼』を使うなんてね」
テトラが少し驚いたように言う。
そう、魔法は誰も知らない僕の秘密。テトラにさえも…。
「さて、行きますか」
と、テトラを下ろそうとするがしがみついて下りてくれない。
常時、強化魔術がかかっているから、重くはないのだが。
あっ!
あくまでも魔術が使えないわけではない、ただ魔法が使える、それだけ。
「テトラ、このまま行くとものすごい恥ずかしいと思わない?」
「いいの。ノナンも一緒だから」
「僕は恥ずかしいんだけど」
「嫌ッ」
見上げてくる目はどこか必死である、まるで何かを手放すまいとするかのように。
「今回だけだからね。次回からは、お菓子がなくなるからね?」
こんな恥ずかしいことは一度で十分だ。
と、自分のテトラに対する甘さを自覚しながら言う。
「うん」
なんか可愛い。
ちょっと抱きしめたくなるかも、抱っこしてるけど。
テトラと僕の身長差は、20cm。
テトラは女子の平均より少し低く、僕は男子の平均よりも少し高いくらいである。
さてと。
覚悟を決めて、食堂のドアを開く。
うん、当然のことだが、僕に視線が集まる。
やっぱり、つらい。
「おーい。ノナン。今日は間に合ったみたいだな。ここ席あいてるぞ」
呼んでいるのは俺の友達の一人のゼプト・シュタインである。
結構空気の読めて、気配りもできる。
すごいなぁと思ってそれを言ったら。
「それをお前が言うか」
と、言われた。
何のことかわからないと言ったら、
「お前はそのままでいい」
と、なぜか納得したような顔で言われた。
ゼプトの向かいの席にテトラをおろし、その横に座る。
「ノナン、テトラ。おはよう」
「おぉ、おはよ。ヨタ」
本を読みながら僕たちに挨拶をしてくるのは、ヨタ・マグナス、ゼプトのルームメイトである。
PMDによって少しずつ廃れつつある紙媒体をこよなく愛する、今時珍しい者である。
その本の知識をすべて余すことなく、記憶に納めている。
「今、何の本読んでるの?」
「ん。あぁ、『Η σοφία και γνώση για να επιβιώσει στα σαγόνια του θανάτου』だよ」
「???」
外国語ということしかわからなかった。
「あ…えっと。訳すと『死地における生き残る知恵と知識』っていう本なんだけどね」
「僕は理解できないんだけど、テトラはわかる?」
「今から約200年前に書かれた兵法書って出てる」
「どうやって調べたの?やっぱり、あれ?」
ヨタが食いついている。
時々見る、ヨタの本に対する執念。何か危ない感じがする。
「そうよ。国立図書館の一覧で調べたらでてきたわよ」
「ねぇ、この人と同じ作者の禁書になってる魔術書って調べられる?」
「もちろん。私を誰だと思ってるの?」
え…そうなるの?
やっぱり、目の前で話している内容って犯罪だよね?
ゼプトのほうを見ると口パクで「いつものことだから、あきらめろ」と答えてくれた。
これはよく見かける風景だ。
そして、この後ヨタが…
「へぇー。電子媒体は微妙なんだけどさ。これ、落とせる?」
「余裕よ」
「どれくらいでできる?」
「二分あれば上等」
「お願い。報酬はこれで」
ヨタが制服のポケットから出したのは、チップである。
「この中には最新のウイルスワクチンとツールが入ってるから」
「作成者は?」
「もちろん、僕だよ」
そう見慣れた風景、それはヨタの自作ツールやプログラムと引き換えに情報を提供しているテトラ、というもの。
ちなみにヨタの自作ツールはネットで売れば、かなりの額になるらしい。
もっともヨタもテトラも流す気はないらしい。
「交渉成立。PMD、携帯モードから画面(スクリーン)モードに移行、パネル3枚展開」
PMDの画面が目の前に三枚表示される。
「キーボード展開」
これらの機能もヨタがつくったものだ。
僕のPMDにもいろいろと入っているが僕の能力が足りないため、ほとんど使えていない。
ここからはテトラの独壇場だ。
指が霞んで見えないほどの速度で操作していく。
3つの画面を文字の羅列が流れていく。
真ん中の画面の隅には、パーセンテージが表示されている。
「この程度のプロテクトで私が止められとでも」
と、楽しそうにつぶやきながら操作していく。
旗から見ていると危ない子だと思う。
はかったかのように完璧なタイミングで7:00に、ダウンロードが終わる。
「紙媒体にはしないでね。証拠になっちゃうから」
「わかってる。それ以外の証拠は?」
「ない」
「「……ふふふふふふふっ」」
二人は笑ってから、運ばれてきたご飯を食べる。
この二人の将来がかなり心配だ。
食べ終わるとすぐに教室に向かう。
ちなみに成績は、僕≧テトラ≒ヨタ≒ゼプトとなっている。
ちなみに校内順位もこんな感じだ。
試験には二種類あって、中間テストと学期末テストがある。
中間テストの成績は、筆記500点と実技500点、計1000点満点で出るのだが僕はテトラとヨタに筆記で勝ったことはないし、ゼプトには実技では勝ったことがないが、僕が一番成績がいい理由は筆記も実技も高得点だからだ。テトラとヨタは大体筆記が満点だが、実技が少し低く、ゼプトは実技が満点で、筆記が少し低いのだ。だが、低いといってもほかの人よりはダントツで高い。
成績は校内で張り出されるのだが、こんな感じだ。
実技 筆記 合計
1位ノナン・クーリッド 489点 487点 976点
2位テトラ・アーマンド 472点 500点 972点
3位 ヨタ・マグナス 470点 500点 970点
3位ゼプト・シュタイン 500点 470点 970点
5位 934点
・
・
・
先生が言うには5位の人は頭が悪いわけじゃなくて、僕たちがおかしいのだそうです。
僕としては実技で満点を取れるゼプトの方が一番すごいと思うんだけどね。
ちなみに実技の内容は、魔術の精度と速度、威力、範囲、最後に総合戦闘力の計5つに分かれており、筆記の内容は、地歴、数学、語学、理科、情報の計5つに分かれている。
学期末テストは、実技には仕事、サバイバル、PMD無しの武術、交渉力、PMD操作の5項目が、筆記には
道徳、魔術学、法律、設計図作成、戦略の5項目が加わる。
地歴はこの国や諸外国の位置関係、歴史を学ぶ。
この世界には7つの大国があり、争ったり、共同したりと様々な関係を結んでいる。
もちろん、小国もないわけではないが、基本的には大国に付随するという形をとっている。
また、僕たちが暮らしているのはその大国の中で最も知識に特化した国、ラスガダス。
戦争も戦略や策謀を張り巡らせて、生き延びてきた国である。
ほかにも様々な得意分野を持った国がある。
数学は基本的に個人の演算能力向上と日常生活のために教えられる。
理科と連動して、科学の向上を目指すという考えもあるらしい。
語学は公用語であるラスト語を学ぶ、どこの国でも通じる言葉である。
また、古代語などは文献が禁書となっているため、テトラがやるような不正を働かない限りは入手は困難であり、学ぶことはできない。
情報は文字通り、昨今のDBなどの統計を見たりして様々な情報の処理の仕方を学ぶ。
これに関連して、法律も同時に学び、力の乱用を抑止する道徳の授業も設けられている。
今でこそ、平和だが、魔術が開発された当時は大変な騒ぎとなったそうだ。
まだ、その当時は生まれてはいなかったのだが、初めて魔術が使えるようになった人間はその力に溺れ、脅しや殺人などの犯罪を行い、それを力の持たないものたちは止めることができなかったということがあったらしい。
その過去を繰り返さないために、魔術の使用に免許と学校による教育が必要となったのである。
これが現在の学校の存在意義だ。
ちなみにその犯罪者はPMDから手を離したところを狙撃されて死んだらしい。
魔術学は、魔術の理論を学び理解を深めるものである。
設計図の作成はPMDのプログラムや外装を考え、それが実現可能であるかどうかや色合いなどを点数にするものである。
魔術の実技に関してはそのままである。
次に、仕事とは、まず国にはそれぞれギルドというものが存在し、様々な依頼を請け負っている、それらを受け以下に国に国民に貢献したかが点数となっている。薬草や鉱石の採集から、魔物討伐まで様々な仕事があり、どれを受けるかによって点数が変わってくる。
ランクはSSS>SS>S>>AAA>AA>A>>BBB>BB>B>>CCC>CC>C>D>E>F>Gまであり、仕事はそのランク以下のものしか受けることができない。つまり、ランクがBの人がAAランクの仕事を受けることはできないという話である。
ちなみに討伐系においてS級は伝説級、近年は見られることがない大型の魔獣であり、その被害は、国が滅ぶほどといわれている。
A級は災害級、その名の通り、災害のようにまれに現れて災害のように被害を出していく。
B級・C級はそういった分類はなされていない。
D級以下は、採集系統なので討伐することはほとんどない。
ちなみに、僕たちのランクはCCCランクだ。
これ以上は学校であげることができないというより、上げるための試験の許可が下りない。
ヨタが言うには、これ以上になると死ぬ確率が跳ね上がり、学校側が責任が取れないからだということらしい。
結構、ギルドで生計を立てている人は多い。
聞いたところによるとこの国のギルド加盟者は約50000人。
そして、S級の人はこの国には12人、A級の人は23人らしい。
次にサバイバルは森や山に連れて行かれ、そこから時間内に戻ってくる試験だ。
焚き火の処理や寝床の確保などが主な試験内容となる。
ざっと、これくらいのものが試験の対象や授業となっている。
着いた教室のドアの横の認証システムにゼプトが手をかざす。
ウィーン
独特の機会音とともにドアが開く。
ゼプトはクラス委員だ。そして、生徒会会長も兼任している。学年は6学年あり、それぞれ寮で分かれている。僕たちは6学年の中の3年生だ。ちなみに、僕はクラス委員補佐と生徒会副会長というものになっている。僕が副会長になったのは、ゼプトの指名によるものだ。しかし、僕だけ巻き込まれるのは面白くないと、そのとき僕を笑っていたテトラを書記にして、そのテトラは補佐にヨタがほしいと言ったため、現在の生徒会はいつものメンバーの僕たち4人で運営している。
ゼプトが立候補したとき、僕は他の学年やクラスも立候補するから無理だろうと思っていたのだが、その他の学年は生徒会に立候補したものがいなかったので、僕たちがやることになってしまった。
僕たちは、席に着く。
ゼプとトヨタと知り合ったのは、一年生の時で、それから3年間は同じクラスとなっている。
力の偏りを分けるためにクラスがバラバラになるはずだったのだが、なぜか同じクラスのままである。
考えるまでもないんだけどね。
チャイムが鳴る、ここからは暇な時間がやって来る。
僕たち4人は、すべての教科において予習が終わっているというより、卒業までの勉強は終わっている。
ではなぜ、満点ではないのかというとみんなで相談した結果、僕たちが満点取ったら人のやる気をそいだりにらまれたりしそうだということで、満点は取らないことにしている。
ちなみにたぶん実技も満点取れると思う。
そこで決めたのが順位、誰が常に一番であるかをじゃんけんで決めた結果、僕が一番となったのだ。
何で勝っちゃったんだろう?
ウィーン
あっ!
先生が入ってきた。