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『ふたりだけの世界』  作者: mugomui
1章 君らの生活している社会に似ているだろ?
3/3

#2 選択

「きみはどうしたい?」


傍観者(ぼうかんしゃ)」が少し微笑みかけながらこちらを向いた。

もう何を選ぶかを知っているかのような視線(しせん)で。


親友(しんゆう)を助けたいです。」


私はかすれた声で応えた。

この気持ちが何から来ているのかはわからない。

さっき見た映像はあくまで世の中にある不幸(ふこう)一部抜粋(いちぶばっすい)でしかない。

だからこんなに感情が揺れていることに違和感はある。

けれどこの気持ちが間違っているとも思えない。


「じゃあ決まりだね。あとは君が思い(えが)くだけだ。」


ーーーーーーーーーー

少し時間を空け、気持ちを落ち着けて事故のあった場面を想像する。

映像を見ている中でどのような場所で事故があったのかは、必要な情報(じょうほう)として頭に流れ込んできている。

すると目の前の壁が少しずつ歪んでいき風景が浮かび上がってくる。

その不思議(ふしぎ)な歪みは前面の壁だけにとどまらず、部屋全体まで広がっていきベッドを消し、最後には座っていたソファまでもなくなった。

その場にいると錯覚(さっかく)するような映像である。


「いてっ」


ソファまで消えると思っていなかったので思わずしりもちをついた。

傍観者(ぼうかんしゃ)」はすでに立ち上がっていたようで涼しい顔で私を見下ろしている。


「こうなるってわかっていたなら教えてくださいよ。」

「ソファが消えることは確定してなかったからわかっていた訳じゃないよ?確定していないことを真実(しんじつ)のように語りたくはないじゃん?…ねぇ?」


と少しにやつきながら応える。割といい性格をしている。

雨が降っているのに一切濡れないという違和感(いわかん)から周囲の情報に目を向ける。

周りを見てみると大通りの歩道だ。

遠くから歩いてくる傘を差した少年が見える。

その少年は学校の場面で先ほど見た少年:斎藤勇気(さいとうゆうき)の幼馴染であり親友の長野裕也(ながのひろや)だ。


「ところで「人間(にんげん)」君。どうやって助ける?」


…どうやって助けよう。

見ることはできたものの、自分に何ができるのか私は知らない。

早くしないと看板(かんばん)が落ちてくる。


「これって何ができますか?」

「え?」


傍観者(ぼうかんしゃ)」は目を丸くしてこちらを見ている。

何を言っているのだろうという雰囲気(ふんいき)露骨(ろこつ)に出ている。

初めてなのにそんな目線で見られても不安なのは変わらないのだけれど…。


「君がしたいことが…できると思うけど…?」


それならばと思い (看板が今すぐに落ちろ) と念じる。

ガシャンッという音とともに看板が落ちてきた。

裕也は何事(なにごと)だと前を見る。

現場で作業をしていた作業員は次々に道路の看板の様子を確認した。


「こりゃ報告案件だな…」


一番近くにいた作業員はボヤキなら看板の撤去(てっきょ)の人員を集めに現場内に戻っていった。


「これでおしまい?」


傍観者(ぼうかんしゃ)」が聞いてきた。

帰ろうという意味だろうか?

私が意識(いしき)しなければ部屋は戻らないのか、と思い当たり部屋に戻るイメージをし始める。


「一回干渉(かんしょう)したらもう一回は無理だからねー。戻る前にやり残したことがないか確認(かくにん)してから戻ろっか」


初耳(はつみみ)である。しかもかなり重要な内容を。

目の前に広がっていた映像が小さくなっていき部屋はもとに戻った。


「なんでそんな重要なことを!最初に言っておいてくれないんですか!?」


思わず声を張り上げた。 …はぁ。


あははー……ははっありゃー…おこってるー


完全に目を合わせる気が0である。


「まぁ結果良ければなんとやら!確認しよっ!ね?」


傍観者(ぼうかんしゃ)」はソファに腰かけ、手をふるう。

壁の前面に映像が流れだす。

5歳ほどの男の子がパズルをしているところが一瞬見えたが、「傍観者(ぼうかんしゃ)」は何もなかったかのように映像を進めていく。


・・・・・

受験終了後、両者は合格の報告をしあい、勇気(ゆうき)は4月から高校生活を送っていた。

6月 下校途中、梅雨(つゆ)の影響によって傘が手放せない日々を迎えていた。


裕也(ひろや)と連絡とってなかったな…夏どこ行くか決めてないし)


そう思ったのもつかの間、勇気の携帯電話に通知が来る。

通知の文面はHiro.N「おひさー 聞いてく・・・」という内容だった。

メッセージアプリを開くと

「おひさー 聞いてくれよ。今日さまじで危なかったんよ。ガチで事故りかけた」

という内容だった。

「おひさ 何があったん?」

という返信をしながら帰り道を歩いていく。

それは親友との3か月ぶりの連絡だった。


・・・

その後、勇気は無事に大学を過ごし税理士(ぜいりし)として就職し、仕事に明け暮れていた。

どうやら裕也は高専(こうせん)卒業後就職し、現場勤めらしい。


「斉藤さんお疲れ様です。」

「あぁ浩也(ひろや)。おつかれ」


前から仲良くしている後輩だ。名前は坂本浩也(さかもとひろや)


「6/6って空いてますか?部署(ぶしょ)でゴルフ行くんですけど先輩も来ますよね?」


「もちろんいくよ」

「了解です。あと今日、飲み行きます?」

「今日はごめん。地元の友達とだいぶ前から約束しててな」


就職してからというもの職場の人間に(めぐ)まれていると感じる。

仕事は忙しいが、それ以上に楽しいと思える日々が続いている。


・・・・・

「セーフだったね!」


傍観者(ぼうかんしゃ)」がニコニコしながら話しかけてくる。 …結果論である。


「セーフってことはアウトの時もあるんですよね…?」


少し圧を込めながら問い詰める。


「いやー今回は原因が明確だったからね!あれ以上は必要ないと思って説明してなかったんだよ!うん!」


「はぁ…」

「で、どうだった?僕の“遊び”は。」

「…正直ほかにも物語があるなら、またやりたいと思いました。」


自分の中の価値観(かちかん)が、感情が、考え方が、何者(なにもの)でもない自分が満たされていくようなそんな感じが今回の“遊び”を終えてあった。


「おっけー。じゃあまた近いうちに“遊び”に来るから!」


改めて聞いて感じた。正直“遊び”という呼称(こしょう)には違和感がある。


「最後にいいですか?」

「ん?」

「“遊び”の新しい呼び方考えたいです。ちょっと今、違和感あって」

「えー?まぁいいけど…それって今すぐ?」

「次回、来るときに決めましょう!」

「りょーかい!!」


と言って彼女は部屋から出ていった。扉を開けずに少し触れただけで。


…どういう仕組みなんだろう。と思いドアノブに触れてみるが何も起こらない。

今度聞いてみよう。


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