#1 傍観
同族を見つけたといわんばかりにソファに近づき、腰を掛けて私に近づいてきた。
「それじゃあ僕の"遊び"を一緒にやってみようか!「人間」君。」
「…遊び?」
「傍観者」が正面の壁に向けて軽く手を上げるとそこに風景が映し出される。
そこには室内でパズルをする5歳ほどの小さな男の子が映っていた。
「これは…?」
「僕ができることで、誰かの人生という名の物語を俯瞰して見ることができるんだ。」
だから「傍観者」なのかと考え、目の前の風景に目を向ける。
「この子は誰ですか?」
「さぁ?誰だろうね。なんとなく選んだだけだし。」
案の定いい加減だなと思ってしまった。
だがこの映像を映して何をするつもりなのだろうか。
「これから何をするんですか?」
「何もしないよー。基本的にはね。」
基本的には…。少し引っかかったがもう一度映像に目を向ける。
・・・・・
幼稚園の一室でパズルをする男の子がいた。
「ゆうき君!ボール遊びしようよ!」
「もうちょっと待って。あと少しだから!」
「ねぇーはーやーく!」
パズルをしている少年:斉藤勇気。
この“物語”の主人公である。
「じゃあ、ひろや君も手伝ってよ!」
「むりー。パズル苦手だし!」
勇気は友人の長野裕也とよく遊んでいる。
勇気は室内遊具が好みで裕也は外で体を動かす遊びが好きであった。
好みはそれぞれ違かったが二人は一緒に遊ぶことが多かった。
・・・・・
「うーん、ちょっと飛ばすねー」
そういうと「傍観者」は手を軽く払い映像が途切れ、次には学校内の様子が映し出されていた。
映像を見ていて気付いたことがあった。
不思議と登場している人物や必要な情報が頭に流れ込んでくる。
まるでその人物たちの知り合いであったかのような感覚さえ持ってしまう。
そして映像に視線が吸い込まれていく。
・・・・・
市立A中3-C教室前、放課後
「なぁ…裕也、高校どこ行く?」
「あーね。俺はC高専行こうかなって」
「やっぱり?裕也、小学校から家を造りたいって言ってたしな。」
「勇気はどうするんだ?」
「D大付属高校の予定だよ」
「いいじゃん。行きたい学部とかあるのか?確かD大って法とか経済とかだったよな」
「経済学部行きたくて。だから来年から早めに簿記の勉強しようかなって思ってる。」
「早いなー。まぁお互い頑張ろうぜ。じゃあまた来年夏にでも遊び行くか。」
高校から裕也とは別れるけれど、予定合わせて定期的に遊びに行ったりするか。
・・・
受験終了後、両者は合格の報告をしあい、勇気は4月から高校生活を送っていた。
6月 下校途中、梅雨の影響によって傘が手放せない日々を迎えていた。
(裕也と連絡とってなかったな…夏どこ行くか決めてないし)
そう思ったのもつかの間、勇気の携帯電話がなる。
母からの通話だった。
「何?急に電話かけてこないでよ。」
「今どこいるの!」
普通じゃない母の声の調子に緊張感が走る。
「何かあったの?」
「裕也君が…亡くなったって…」
耳を疑った。頭が真っ白になった。
ありえない。そんなはずがない。
「事故だったみたいで。工事現場から看板が落ちてきてその下に…」
「…そう」
「帰ったらまた話すわね。気を付けて帰っておいで…」
…事故…そんな。
その日はやけに雨が強く降っていた。
・・・
その後、勇気は無事に大学を過ごし税理士として就職し、仕事に明け暮れていた。
「斉藤さんお疲れ様です。」
「あぁ坂本。おつかれ」
前から仲良くしている後輩だ。名前は坂本浩也。
「6/6って空いてます?ゴルフでもどうです?」
「悪いけどその日は外せない用事があって…」
「了解です。また時間あったらお誘いしますね。」
心の中で深くため息をつく。もう10年ほど経っている。
それなのにいまだ親しい人間を作ることにおびえている自分がいる。
もし失ったら…そう考えると何もかもが億劫になる。
「6/6ね…」
思わず口に出ていた。
意識するたびに不幸を思い出す。
6が不吉だなんて誰が言ったのだろうか。
ぼんやりと過去を思い出しながら今日も仕事を片付ける…。
・・・・・
「どうだった?この内容を見て。」
そういって「傍観者」は映像を消す。
「……」
悲しくて、苦しくて、どうしようもない。
ただ事実を受け入れるしかなくて自分の内側がぐちゃぐちゃになっていくような、そんな感情があふれ出す。
まるですべてを失ったかのような。
自分があの物語の主人公になったような。
「どうしたの「人間」君?「人間」君の生活に近そうなもの選んだつもりだったけど…そんなに悲しかった?」
気付いたら目には水が溜まって、流れ出していた。
「これって…もうどうしようもない事…ですか?」
「…僕は言ったよ?これは人生という名の“物語”だって。」
「どういうこと…ですか?」
「気に入らなければ書き換えてしまえばいいってね!……きみはどうしたい?」
「傍観者」が少し微笑みかけながらこちらを向いた。
もう何を選ぶかを知っているかのような視線で。
「…親友を助けたいです。」