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第1話:夜明けの静寂

真夜中の書斎。

机の上には錬金術の道具が整然と並び、淡いランプの光がガラス瓶の中の液体を揺らしていた。

ミナ・ルミナは指先で小さな杖を握る。唇は閉じられ、言葉はない。だが、彼女の目は真剣そのものだった。


「……今日も、誰かのために――」


心の中で呟く言葉だけが、彼女の唯一の声だった。

指を滑らせると、瓶から光が立ち上り、微かな音が空間に満ちる。これは言葉の代わり。音錬――音で魔術を行う、ミナだけの力だ。


「……お願い、届いて」


小さな音が、書斎の壁を越え、遠く都市の空へと響く。

静寂の中で、唯一確かなものは、この音だけだった。


そのとき、書斎の扉が静かに開いた。

「ミナ?」


影のように現れたのは、城の騎士、ルクス・エルダ。まだ少年の面影が残る彼は、ミナに向かって慎重に歩み寄った。

「こんな夜中に、何をしてるんだ?」


ミナは小さく肩をすくめ、手で文字を書く。

『……研究。夜明けまでには終わらせたいの。』


ルクスは微笑む。

「相変わらずだな……。でも、その力、いつか役に立つ日が来るんだろう?」


ミナは小さく頷き、杖を握り直す。

瓶の中の光が再び輝き、音が書斎に広がる。その音は、希望であり、祈りであり、そして――未来への告白だった。


夜明けの光が窓の縁に触れるころ、ミナはそっと目を閉じる。

声はない。だが、彼女の想いは、確かに届く――と、微かな音が答えてくれるのだった。

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