プロローグ
「......現在、シブヤ行政区ーエリア53の首都高環状9号線は事故の為、一時封鎖されています。エリア53へお越しの方は8号線をご利用下さい。繰り返します、現在、......」
* * *
雪の降る寒空の下、高い高架の上にある小さなパーキングスペースに一台の車が猛スピードでやって来る。
後部座席のドアが開き一人の青年が降りてきた。
車から降りた湊は肌を刺すような寒さに身を震わせ、慌ててコートの襟元を閉めた。
空を見上げると、厚い雲が渦巻き、そびえたつ摩天楼が煌々と光を放っている。
耳に付けた無線機には、先ほどからひっきりなしに報告が入り事態のひっ迫さを伝えていた。
車の窓が開き、もう一人青年が顔をのぞかせる。
「それじゃあ湊。わかってるとは思うが現場はちょうどこの真下の9号線だ。下に行っても指示があるが、よろしく頼むよ」
湊が目で了解の意を伝えると、青年は小さく頷いてアクセルをいっぱいに踏み、車を急発進させる。
車はあっという間に見えなくなった。
湊は高い高架に支えられた道路の淵に立つ。眼下を見下ろすと、300メートルはあろうかというその先にランプを赤赤と照らした警察車両がひしめいているのがわかった。
*
ここは2282年、東京。
第3次世界大戦を経て国家が転覆した日本では、極度の人口集中に見舞われ、東京は今や人口10億人を抱える世界屈指の巨大都市になっている。
1000メートルを遥かに超えるビルがひしめき合い、複雑な交通網が縦横無尽に張り巡らされるその場所では、日夜、新しい文化や最先端の科学技術が発信され続けているのだ。
ーー眠らない街ーー、様々な思惑と欲望が渦巻くこの街では退屈する暇もないだろう.だから湊は今こうして、ここに立っている.
遠くに点滅するネオンから目をそらして、湊はふたたび眼下を見やった.
まばゆい光、ふっと息を吐きだして、一歩踏み出すーーー
ーーーメトロポリタン・インシデントーーー