第7話 宝石店。
「あら?お出かけなの?レイノ。」
「ああ、お姉様、先生がラッセ通りに用事があるらしくて、僕も誘って頂きました。前期の試験を頑張ったので、お昼をご馳走してくださるそうです。」
あと少しで夏休みという休日の昼前、余所行き着の弟は嬉しそうに言った。
ラッセ通り、って言ったら、高級なお店が並ぶ素敵な場所!行ったことないけど。聞いたことはある。
いいなあ。
ん?
家の屋敷の馬車寄せに、アークラ伯爵家の馬車が着く。
弟の後ろに、侍女が一人ついていく。さりげに、馬車に乗り込む。フリル付きのお仕着せの帽子を深々と被っている。
「本日はお誘いありがとうございます。」
「ああ。」
うきうきと馬車から外を眺める弟。楽しそうだわね。良かった。
先生は相変わらず、カバンから書類を取り出して読んでいる。泳ぎ続けないと死んでしまう魚みたいな感じ?休みの日なのに。
「最初に宝石店に行く。いい勉強になるから、よく見ておくように。店員の接客もよく観察しろよ?自分がどう扱われるか、ためになるからな。」
「はい。」
へえ。何でもどこでも、勉強になるのね?
着いたのは宝石店?というより、どこかの小さ目なお屋敷みたいに見えるところ。看板もないのね。どこで見ているのか、中からドアが開く。重厚なドアね。凄いわね。
「ようこそ、アウリス様、レイノ様。お待ち申し上げておりました。どうぞ。」
出迎えて下さった店員さん?に案内されて、奥に進む。
イメージしていたのは、一面に宝飾品が飾られている店内、だったが、豪華な応接室に通される。座るわけにもいかず、座ったレイノの後ろに立つ。
「本日のご希望は赤い石、ということでございましたので、当店でご用意できる最高級の物を、3点ほどご用意いたしました。」
お茶が出されてひと段落した頃、白い手袋をした店員さんが、ビロードを張ったお盆のようなものを恭しく運び込む。
「ああ。」
ほおお。高級店ってこんな感じか。
どうせみんな宝石を見ているので、少しの間、きょろきょろして室内を観察してみる。猫足のクラシカルなテーブルとソファー。掛かっている絵画も年代物。
敷いてある絨毯も高級品よね。ふっかふか。
店員さん?の手袋も、すごくきれい。
毎回、新品を使うのかしら?
ん?
はあああ、なんと、まあ、大きな石ね!ガーネット?ルビー?凄いわね???
・・・これは確かに、体積もそこそこありそうね。勉強になるわ。
「いかがでしょうか?私どもといたしましては、このネックレスがお勧めでございます。」
「そうだな。じゃあ、これを。小切手でいいか?」
「もちろんでございます。」
「後で屋敷に届けておいてくれ。」
「かしこまりました。それでは、小さいお客様の後学のためにこちらのお部屋をご案内しても?」
「そうだな、よろしく頼む。」
「では、レイノ様、ご案内いたします。こちらへどうぞ。」
なに?なになに?
今のルビーのネックレス、お値段は?
案内されていくレイノの後におとなしく続く。
次の間のドアが開く。ひょえーーこれはまた凄いわね??
高いところに明り取りの窓。
私が最初に想像していた宝石店に近いかしら?
「ご自由にご覧下さいませ。」
そう言って、ドアの前に控えたもう一人の店員さん?やはり手袋がとても綺麗。
「凄いですね?」
「そうでございますね。レイノ様。」
レイノと一緒に順番に眺めていく。
「これなんか、おばあさまの形見のネックレスに似てますね。」
「そうですね。アンテークなデザインが見直されているんでしょうかね?」
こそっと話す。とても静かな店内だから、呼吸する音まで聞こえそう。
「これはどうでしょう?お姉様に似合いそうですね?」
「そうですか?あの方がこんな大きな石を付けたら、石に負けますわよ?」
「くすっ。そんなことはないですよ?」
正面にティアラ。
順番にネックレス、イヤリング、ブレスレット、ピンブローチ…最後に指輪か。
「レイノ様はどなたか宝飾品を贈りたい方がいらっしゃいますので?」
少しからかってみた。
「はい。母親代わりに頑張って下さっているお姉様に。ただ、きちんと自分で稼げるようになったら、ですが。それでなければ喜ばないでしょうから。」
え?…ん、もう!撫でまわしたい!!!
気持ちだけでもうれしいよ!
自分の手を握りしめて、感動をかみしめる。いい子に育って良かった!
そんなこんなで、ゆっくり見ていく。
ここの店は趣味がいいよね。さすがだ。
さっきのルビーだって、あの大きさであの発色なら、一歩間違うと派手なだけの下品な装飾になりそうなのに、上手に、上品にあしらってある。
ただ…つける人は選びそうだ。
へえ、先生の恋人って、どでかい真っ赤なルビーが似合いそうな人なんだ!!
情熱的?な人?
あれでいて、恋人といる時は違うのかしら?あ、恋人が情熱的なのか!ふむふむ。