第6話 ご褒美。
「きゃああ!見て見て!数学の答案用紙が帰ってきたのよお!!!」
もう夏休みは目前。さすがに外でのご飯は暑くなってきたので、リーサの控室にお邪魔している。さすが大公家。侍女まで待機している。
「どれどれ。」
リーサとライラが私の答案用紙を覗き込む。
「あら、中々じゃないの。」
「ティーナの数学の点数とは思えないな。」
「でしょう?うふふっ。」
数学の追試は78点!これで、夏期補習を免れた!自由な夏休みが私を待っているんだわ!!
「はあああ、長かったわこの一週間!缶詰よ?缶詰!先生怖いし。」
「でも、あのティーナをここまでにした手腕は大したものだな。」
「そうですわね。」
「夏休みは書くぞ!」
「まあ、相変わらずね?」
「リーサは?別荘?」
「いや、この夏は公務のある父親にくっついて、隣国に行く。」
「ほお。ライラは?」
「私は領地に帰るわ。今度はいつゆっくり帰れるか分からないし。」
「ああ…なるほど。」
「そういうティーナは?領地に帰らないの?」
「父が領地にいるからね、帰ろうと思う。ただ、弟の家庭教師にお伺いを立てなくちゃ。私はどこでも。紙とペンさえあればいいしね。」
「まあ、そうね。」
「そうだな。」
リーサのところの侍女が、冷たい紅茶を運んでくれた。美味しい!
「そうそう、私少し早めにお暇するわね。弟が午後の授業で使う運動着を忘れて行ったから、中等部に届けに行くのよ。」
「あら!まあ!中等部に行くの?私も行きたいわ!」
「私も、ついていってもいい。」
「??」
「あなた、聞いていないの?中等部1年のAクラスにね…。」
「??」
「超美形の男の子がいるんですって!!」
「そうだぞ。お前、物書きなら物書きらしく、色々なアンテナを張り巡らさないとな。私も噂を聞いていた。」
「へ、へえ。」
「銀髪で菫色の瞳…。王家筋の侯爵家嫡男。」
「成績優秀で、剣術も馬も、上級生をしのぐらしい。」
「へえええ。」
ぞろぞろと3人で出掛けた。
中等部の受付に申出をして、校内に入る。
1年の教室は東棟の一階。
昼休みから戻ってきたらしい男の子を一人捕まえて、弟を呼んでもらう。
「あれ、姉上?僕に会いに来たんですか?お友達の皆様もこんにちは。いつもうちの姉がお世話になっております。ニーロです。今日はお天気が良くて…。」
「・・・違うわよ、ニーロ。」
ライラが長くなりそうなニーロの話にかぶせる様に話を切る。
教室から出てきた弟に運動着を渡して、ニーロを振り切って、遠回りして運動場の脇を通る。一年生の剣術を取る子たちが、模擬刀を持ってわらわらと運動場に出てくるのが見えた。よく観察すると、校舎の窓から女の子たちが身を乗り出している。待てよ?向こうの茂みには、高等部の女子まで潜伏しているじゃない?
「あれじゃない?」
「え?」
「ほらほら。きゃあああ、王子様よ!王子様!!」
ライラ…あなた、婚約者がいるんじゃ…。
「いいわね。そそるわ。年下彼氏。描こう。銀色の髪に菫色の瞳を持つ王子よ!!」
「ああ、なかなかいいな。」
な、リーサまで??
まあ、確かに…いいわね。こりゃあ、いいご褒美だわね。
*****
午後から学院の評議会があって、校舎内の会議室まで急いでいると…。
何やってんだ?あいつら?
「アウリス様?どうされました?」
「あ?いえ。」
*****
「それで?」
「はい。お陰様で、夏期補習を回避できました!先生、ありがとうございました!」
食後のお勉強会も終わりだわ!
返ってきた答案用紙を先生に見せて、うきうきと自分の部屋に帰ろうとすると、
「そうか。では、間違ったところの検証が必要だな。」
・・・必要?ですか?それ。
「教科書はどうした?早く持ってこい!!!」
えーーーーーっ