第4話 お茶係。
そんなこんながあって、夜、弟に休憩のお茶を持っていくのが、いつの間にか私の係になった。不本意ではある。が、使用人がおびえるのを見るのも忍びない。どうせ起きているし。
今夜も元気にドアを開ける。
「はーーーい。お茶の時間ですよ!」
「・・・・・」
メイド服を着てやろうかと思ったが、めんどくさいので昨日も今日も部屋着のまま。ガウンはどうかと思ったので、カーディガンを羽織るようにした。一応、恩人だし。
目つき悪いけど。
「今日はよく眠れるハーブティーにしてみました。お夜食はお姉様手作りのクッキーよ。召し上がれ!」
「あ、はい、お姉様、ありがとう。」
サクサクとクッキーをほおばるレイノ、今日も可愛い。
渋々とティーテーブルに座った先生にもお茶とクッキーを勧める。
「お前、明日から試験だと言っていなかったか?」
「え?はい。そうですけど?」
自分の部屋に戻って冷めたお茶を飲むのもなんなので、早々に弟の部屋で一緒にお茶にすることにした。なにごとも諦めが肝心である。
「勉強しているのに、《《よく眠れる》》お茶を選ぶとは…。」
「だって、レイノは育ちざかりでしょう?睡眠は大事らしいですよね?大きくなるのに。」
「・・・・・」
「先生はもうこれ以上は大きくならないでしょうけど。」
「・・・・・」
お茶が美味しい。
「明日試験なのに、クッキーを焼くなんて、余裕だな?」
あら、やだ。顔が怖いわ。なんか言わないと気が済まない病気なのかしら?
「なんていうの?気分転換?ですわ。」
「・・・現実逃避?」
「現実逃避にはねえ、日常のストレスをほんの一瞬でも癒してくれる効果が期待できますよね。大事大事!」
私も小説を書いて煮詰まったとき、勉強でもするかあ、って思うもの。うん。
ただ、今回はねえ…。そうのんびりも出来そうにない。
「ほう、楽しみだな。試験の結果。」
「まあ、私のことなどお気遣いなく。おほほほほっ。」
クッキーを食べる。美味しく出来たと思う。
レイノがリスのようにサクサク食べている。
ティーカップを片手に優雅にお茶をしている先生の口にクッキーを一枚突っ込んでみようと思ったのは、何かと試験結果を楽しみにしている?口ぶりが気に入らなかったから。
「んぐっ。」
「美味しいでしょ?」
「・・・・・」
*****
「そんなわけでね、今回の試験、下手な点数を取れないのよ!よろしく皆さん!」
いつものように放課後の図書館の閲覧室(個室)。リーサとライラにノートを写させていただく。
「今ですか?準備が遅すぎ。いつもだけど。」
「そうですわねえ、もう数学は今からでは絶望的なのではないのでしょうか?」
「・・・絶望?」
初日の試験は言語系だったから、まあいい。
隣国語は本が読みたくて独学で勉強した。好きこそもののなんとか、ってやつである。言語表現に至ってはお手の物である。何なら答案用紙が足りないぐらい書ける。
小論文なんか大好物だ。
明日は歴史、地理、社会学。
小説を書く時の参考文献として読み漁ったので、得意。な、はずなのだが、時折、現存しない国名とかを書いてしまったりする。それさえ気を付ければ大丈夫!な、はず。
問題は…数学?簿記?経営学??
生物学までは趣味の範囲内なのだが、そこから先は、なんていうの?利用価値が良くわからない、って感じ?
「簿記は、自分の家の帳面と一緒だろう?」
「・・・桁と交際費の多さがねえ…理解の範囲外なんですよ。」
「数学は、今回は範囲が広いですからね。どこがわからないのかしら?」
・・・ライラ、どこがわからないのかすらわからない。
「取り合えず、公式をすべてマル覚えしろ。」
「そうですわね。」
これを?全部???
*****
リーサのノートもライラのノートも綺麗にまとめてあって読みやすかった。
これを?まるまる覚えるのか?
まる覚えしたら、応用問題も出来る物なのか??
ああ、こんな時、夜の窓を叩いて、素敵な殿方が迎えに来たり…しないわよね。
さあ、僕の国に一緒に帰りましょう。僕の国は試験は無いですよ?とかね。
逆に怖いわ。どんなにいい男でも、知らない男についていく度胸はないわよね。
ため息を一つついて、現実に戻る。