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第11話 婚約者(仮)。

「で?で?どうだったの?婚約者の家族との顔合わせは。」

「婚約者(仮)ね。」

「え?決まりだろう?」

「いやあ、ルビーの彼女がいるからね、なんとも。」


後期が始まった。いつもの3人でお弁当を持って集まる。

幾分過ごしやすくなった中庭。ちらほら上級生のカップルがいる。夏休みのお土産交換会とかかなあ。


ガゼボのテーブルにお昼ご飯を広げる。



「しずかーにご飯を食べて、しずかーにお茶にして、先生とお父様は仕事の打ち合わせ会みたいになってるしね、そんな感じ?さすがの私もおとなしくしてたわよ。お世話になっている家だしね。ご飯は美味しかった。」

「一日中、馬車の中で二人っきりだったんでしょう?」

「ああ、行くとき?先生は仕事の資料を読んでたし、私も読みかけの本を読んでた。帰りも似たようなものよ。」

「・・・・・」


リーサのお弁当の鶏肉のソテーを頂く。大公家の料理人は腕がいいよね。


「つまらんな。なんか、こう、ときめくものはないのか?ティーナはそういうの探し出すの得意だろう?」


「だっていわゆる政略結婚でしょう?しかも先生にはルビーの彼女がいるし。私は多くは望まないわ。どうも、観察したところによるとお父様とお母様もそんな感じじゃないかしら?会話ないし。その次の日にはそれぞれ違う馬車で帰って行ったし。」

「・・・そうか。大変そうだな。」

「あら、政略結婚だって、歩み寄りは大事よ?うちはちゃんとお手紙のやり取りとかしてるわよ?贈り物も届くし。」

「いいなあ。ライラ。」

「あら、もう一緒に住んでいるのに、何言ってるの?ティーナ?」


ごふっ、変なところに鶏肉が入りそう。

住んでるって、まあ、住んでるけど。


「それもそうだな。新作は、政略結婚から始まる恋、みたいな?得意だろう、妄想。」


リーサまで…何言いだすのよ。

いや?どうだろう?ありそうでないかな?なさそうでありかな?



零落した男爵家の令嬢が伯爵家の息子に助けられ恋に落ちる。しかし、その息子にはすでに婚約者がいて…ドロドロしたのは無理だな。


伯爵家の息子と侯爵家の娘が婚約したが、伯爵家の息子は忘れられない年上の女性がいて、それに気が付いた侯爵家の娘は自分を慕ってくれている護衛騎士と駆け落ちする。…幸せになれるかな?



「お嬢様方、楽しそうなお話し中、失礼。」

「???」


綺麗なリボンを結んだ小さな籠を持って現れたのは…先生…。

なんでこんなところに??


「午後から高等部の評議会がありましてね。婚約者殿に食後のデザートにどうかと、イチゴをお持ちしたんですよ?」


え?どこから聞いてた?なんでこのタイミング?そして秋だというのにイチゴ??

イチゴの旬は初夏だよ?しかも、笑顔怖いよ。


「あらまあ、アークラ伯爵家のアウリス様。お噂はかねがね。リーサと申します。」


動じないなあ。さすがだ。


「いつもティーナ様と親しくして頂いております。ライラと申します。」


二人共さっさと立ち上がって挨拶している。


口いっぱいにパンを詰め込んだところだったので、初動が遅れた。

かと言って、初めましてでもないしなあ。こういう時ってなんて言うんだっけ?あ、ありがとう、か。


もぐもぐしているうちに、さっさと私の隣の席に座り、イチゴの入った籠をテーブルの真ん中に置く。にこやかにリーサたちと話し出す。なんなの?


「・・・私は来年アカデミアに進んで、ゆくゆくは貿易会社をやるつもりです。アークラ家の商会とお付き合いもあるかもですね。今後ともよろしくお願いしたいです。」

「ほう、それは楽しみですね。と、言うことはお父様のお持ちのあの会社を?」


んはあ、びっくりした。パンが詰まっちゃうかと思ったわ。

朝、なんにも言ってなかったのに。


イチゴかあ。今頃のイチゴってどうなの?



「・・・私の嫁ぎ先は羊毛を生業にしておりますの。羊毛の出荷だけでは利益を望めませんでしょう?工業化を進めたいと婚約者が申しておりましたの。よろしかったら相談に乗っていただけたら嬉しいですわ。」

「そのようなことを初めて会った者に話してもよろしいんですか?」

「ええ。ティーナを選んだ方ですもの。信用しておりますわ。」

「光栄です。では…。」



そっとかかっていたハンカチをよけると、想像以上の瑞々しさ!!

美味しそう!!そっと一つつまんで…。


「あら!凄く美味しいわ!!皆さんもいかが?」


時季外れのイチゴなんてどうなの?って思ってごめんなさい!美味しいです!!


「何見てるの?」


まじまじと先生が私を見ているのに気が付いた。あ!食べたいの?


「はい。」


先生の口に美味しいイチゴを詰め込む。









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