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第10話 夏休み。

久し振りの領地!

空気が美味しいわ!王都より幾分涼しいし!

さあ、のんびりするぞ!


いや、のんびりしたいなあ…。


馬車から降りて、伸びをする。朝から馬車で揺られたから、流石に体中痛い。

お父様と一緒に大型犬のエーミが駆けてくる。


「エーミ、久し振りね、元気だった?」

大きな茶色のふかふかのエーミの頭を撫でまわす。尻尾がぶんぶん回っている。

「お父様もお元気そうで!」

「ティーナもレイノも元気そうだな。」


「ご無沙汰いたしました、ハロネン侯。」

「ああ、アウリス様、いろいろとお世話になっております。」

父が深々と頭を下げる。

「こちらこそ、しばらくお世話になります。」


そうなんです。今回の夏休みは先生同伴。

領地でレイノに剣術と乗馬の練習をするらしい。もちろん、続けている勉強も。


エーミがものすごい勢いで先生に吠えている。珍しい。あんまり他人に吠える子じゃないのに。なにか感じるものがあったんだろうな。ふっ。わかるよ、エーミ。


「座れ。」


先生が吠えているエーミに号令を出す。地獄の底から響くような低い声だ。


エーミは…座るどころか、お腹まで出して降参している。おびえている。


・・・わかるよ、エーミ。



私たちは馬に乗って領内を視察して回ったり、領地の帳簿の勉強をしたり、時には、実尺で土地の面積を測ったり(必要ですか??)お父様が始めた畑のジャガイモ掘りを手伝ったりして楽しく過ごした。

残念なことに、夕食後の勉強会はここでもあったが。


先生が乗馬も剣術も指導者レベルなことはここで理解した。スゴイデスネ。

でも、相変わらず教え方が上手だ。


先生とレイノが剣術の練習をしている間は、台所で焼き菓子を作ったり、持ってきた本を読んだり。夜は少し早めに解放されるので、小説を書くぞ!と息巻いていたが、昼間に動き回るのでつい、眠ってしまう。




みんなで一緒にテラスでお茶をしている時、先生がレイノと勉強のスケジュールの確認をしている。

「いいな?素振りは一日100回。涼しいうちにやれよ?」

「はい。」

「帳簿の見方は覚えたな?さかのぼって10年分くらい見ろ。ここの帳簿は良く整理されているから。」

「はい。」

「なにか質問はあるか?」

「学院のほうの勉強は?」

「ああ、かなり進んだからな。教科書は全て目を通しておけ。帰ったらわからなかったところを聞くからな。」

「はい。」


ふふっ。

じ・ゆ・う?


「お前は、明日からの準備は出来たのか?」


え?わたしの?


「荷造りは済んだのか?明日の朝早いぞ。」

「ん?」

「・・・また聞いていなかったのか?明日、俺の家の別荘に向かうと言っただろう?」

「ええ、聞きましたけど?」

「お前の荷造りは終わったのかと聞いている。」

「はい?先生が先生の家の別荘に行くのに、なんで私の荷造りが?」

「は?一緒に行くからだが?」

「・・・だれが?」

「《《俺の婚約者になる》》お前が、だが?」

「・・・二人で?」

「そう、二人きりでな。」


怖いわ、その笑顔。あの時のエーミの気持ち、よくわかるよ。


お父様もレイノもにこやかにお茶を飲んでいる。



*****


「先生の家の別荘って?」

「先生じゃない、アウリス、な。言ってみろ。」

「アウリス…様?」

「俺の家の領地内にある。近くに湖があって、いいところだぞ。」

「・・・はあ。」

「家族の顔合わせみたいなもんだ。みんないろいろと忙しいもんでな。」

「・・・はあ。」

「妹の家庭教師も一緒に来ているはずだから、お前はダンスの練習ができるな。」

「・・・・・」


ダンスの…練習ね。



翌朝早くに出掛けて、夕刻には先生の別荘に着いた。

湖が近くにあるからか、幾分涼しい。


先生に手を取られて馬車から降りると、わらわらと使用人の皆様が迎えに出てくれた。これは…伸びも出来ないな。とりあえず、にっこり笑ってみる。


「着替えろ。すぐ夕食になる。」


客間に通されるとすぐに、侍女が待っていて、すでに用意されていたお風呂に入れられて、ピカピカにしてもらった。それから着付け。前に先生に買ってもらった夏用のドレスを着る。これは、私の持っているお洋服の中で、一番いいものだからね。結構気に入っている。持ってきてよかったわ。

淡いグリーンのデイドレスだけど…家族との夕食ならいいかな。


「あの、ネックレスとイヤリングは?」


そんな気がしたわよ。でも…おばあさまの形見のやつしか持って来ていないわ。

だって、自分の領地でゆっくりするだけのつもりだったんですもの!それはね、話を半分ぐらいしか聞かなかった私がいけないんだけどさ。

・・・まあ、元々、それぐらいしか持ってないんだけどね。


小さな宝石箱を開けて、アンテークな宝石を見せる。


「あら、まあ!素敵ですね!」


・・・そうなんだ。


侍女さんに髪も整えてもらっていると、いつの間にか先生がドアの前に立っていた。

淑女の部屋に勝手に入るなよな??


「まだか?」

「はいはい。今完成ですよ。どうですか?」

「まあ、いいか。」


いや、侍女さんの力量は中々だぞ?もっと褒めなさい。


「お世話になりました。こんなに整えて頂いて、ありがとうございます。」


これ見よがしに侍女さんにお礼を言う。にっこり笑うのも忘れない。


「行くぞ。」


はいはい。手くらい貸しなさい。

中々立ち上がらない私に、先生が振り返る。

にっこり笑って、手を差し伸べる。


「・・・ああ。」


してやったわ!!むふふふっ。


先生に手を取られて、メインダイニングに向かうと、すでにお父様もお母様も妹さんも着席されていた。


「ああ、遅くなりました。こちらが僕の婚約者になるティーナです。」

「はじめてお目にかかります。父がお世話になりまして、ありがとうございます。」


スカートをつまんで、お辞儀をする。












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