第1話 夢を見るのは自由。
中等部の頃は良かったなあ…。
仲良しの友達と、キャッキャ言いながら将来の夢とか語り合っちゃって。
学院という小さな社会の中で、それでも自由なひと時だった。
先の事なんか見当もつかなかったし。夢も希望もあった。
特に私も私がつるんでいた友達も、決まった婚約者もいなかったしね。
「私はね、ゆくゆくは小説家で身を立てていきたいわ!」
「そうそう、ティーナの新作、面白かったわあ!王女と騎士の禁断の恋、憧れるわねえ!」
「ドラゴンを倒して、かあ…。夢っていいわよね。」
超リアリストのリーサがため息交じりに感想を述べる。そう言いながらも、一番の読者だ。読者って言っても、この3人だけだけどね。
「ライラの挿絵も良かったわ!流されるだけじゃない意志の強さを王女の横顔に見た気がしたわよ!」
「まあね。もっと褒めて!無限に想像が膨らむわよね?うふふっ。」
「ああ、ドラゴンも良く描けてた。」
「でしょう?図書館にこもったわよ!ドラゴンとか、見たことないし。」
「誰も見たことないと思うぞ?」
ライラが私の書いた妄想小説に挿絵を描いてくれる。稀有な才能!
逆に、彼女が書いた絵にインスパイアされて、小説が書けたりする。
例えば、儚げな妖精。黒馬に乗った黒髪の王子…。
同じ制服に同じリボン。靴まで指定。
窮屈だわあ、と思った時機もあったが、今となってはなんていうの?安心感?
私たちはお昼休みや放課後、中庭のガゼボや、図書館の閲覧室(個室の方ね)とかで、笑ったり、怒ったり、泣いたり…現実と遠い場所で飛び回っていた。
「次は?メガネ執事とお嬢様の恋なんかどう?」
「そそるわね。」
「いいわね…。採用!あはははっ。」
「それで?ティーナ、今書いてるのは?」
「こほんっ。あのね、病弱な深窓の令嬢が保養先の領地で旅の吟遊詩人と恋に落ちて、逃避行。どうよ?夏休みに領地に帰ってぼーーーっとしてた時思いついたんだ。」
「まあ、素敵ね!」
「え?でも病弱なのに旅とかに出ても大丈夫なのか?」
「・・・相変わらずリーサは夢が無いわね?」
「そうよ。旅に出て歩いているうちに丈夫になる?」
「あはははっ。じゃあ、それって病弱じゃなくて、運動不足だった?」
「もう!」
「あはははっ。」
「最も禁断の、平民の娘と王子の恋、路線はどうよ?」
「・・・なんか、あまりにも現実的じゃないのよね。」
「そうだな。恋しいだけで乗り越えられるかな、王子妃の教育。厳しいぞ。」
「ですわよね…。」
はああ…楽しかったな、中等部生活。
まあ、小説を書いている合間に、少しは勉強もした。
もちろん、家の手伝いもしたわ。
こんな日々が続くんだろうと、のんびり考えていた。