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 煌びやかな祝賀会。

 その主役であるアーネスト・ファンセル魔公爵は、口元に嗜虐的な笑みを浮かべて私を見下ろした。

 魔術師らしく長く伸ばされた癖のない黒髪が、さらりと流れる。


 血のようだと評される真っ赤な虹彩の双眸も、女性的で繊細な美貌も、すらりとした体躯も。まるで精巧な作り物のように美しく現実味がない。


「ああ、良いことを思いついたよ」


 この声はまるで劇でも演じているかのように、周りの観衆を引き込む。


「そこの王子殿下に結婚相手を見つけろと、毎度毎度毎度顔を合わせるたび口煩く言われていてね。本当にウンザリしていたんだ」


 やれやれとでも言うように肩をすくめて、その目が一瞬近くにいる王子殿下を捉える。そして、再度私を見下ろした。


「貴族の血を持ちながら身寄りのない、何のしがらみも持たない君なら、僕も家同士の付き合いとやらに煩わされずに済みそうだ。それに君をどう扱っても、どこからも文句はこない。なんて魅力的な人材だろうね?」

「アーネスト!」


 王子殿下が嗜めるように声を上げるが、魔公爵はまるで聞こえていないかのように言葉を続けた。


「僕の結婚が心配で仕方がない王子殿下の為だ。ご希望通り、僕はこの女性を妻として迎えることにしよう! ああ。君もまさか、嫌とは言わないよね?」


 ゾッとするほど冷ややかな目で見下ろされて、体が凍りついた。


 6年前。13歳の時に父親から力ずくで当主の座を奪ったという彼を、人々は血濡れの魔公爵と呼び恐れている。天才的な魔術の才と圧倒的な美貌をもってしても、少しでも気を損ねれば首を刎ねられるのではないかという恐怖で、人は彼に近づかない。

 その彼の眼差しが、ひたと私に向けられている。


 ああ、なんで。なんで私なの。

 どう扱っても、どこからも文句はこない。そんな理由で求められる先に、明るい未来などほんの少しも望めない。

 だからと言って今、その申し出を拒む勇気も、権利も。私には、ありはしなかった。


「は、い……」


 何とか絞り出した声は、みっともなく掠れ震えている。けれどそれは確かに彼に届き、冷ややかな眼差しは作り物めいた笑みへと変わった。


「ああ、快諾してくれて良かったよ。これからよろしくね? じゃあここにはもう用はないし、帰るとしようか」


 そう言って差し出された手。それは私を新たな地獄へと誘うようで、どうしようもなく恐ろしかった。


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