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5、追求

 二人きりになると、エドガーはアイリーンに声をかけた。

「久しぶりだな」

「ええ」とアイリーンは素っ気なく答えた。

「相変わらずだな。変わらない反応。懐かしさすら感じる」

「あなたはずいぶん変わったようね」

「うん。そうなんだ」

 アイリーンは皮肉っぽく言ったつもりだったが、エドガーはそれに気づかず、むしろ誇らしそうに返事をした。


「怒っているかい? 俺が約束をなしにしてほしいって言ったこと」

「別に」

 アイリーンは何の感情も込めずに言った。

「それならよかった」

 エドガーは本当に安心したように言った。少しは気にしていたらしい。しかしアイリーンの言葉を額面通り受けとるとは呆れたものだ。自分のしたことを一切恥じていないのだ。


「でも見てくれよ、この服装。伯爵に頂いたんだけど、すごいでしょ。もしかして噂とかで聞いていたかな。俺はもうすぐ伯爵家の人間になるんだ。ねえ、俺は立派になるんだって村を出ていったけど、こんなにすぐ本当になるなんて。アイリーンも喜んでくれるでしょ。幼なじみがこんなに立派になったんだから」

「うん。そうだね。すごいね」

 エドガーは本気でアイリーンが喜んでくれると無邪気に思っていたらしい。エドガーはアイリーンの言葉に満足そうに頷いた。

「でも俺もアイリーンには悪いことをしたと思ってるんだよ。アイリーンならわかってくれると思ってたけど。でも俺に良い考えがあるんだ。もしよかったらなんだけど、俺の愛人にならないか? 伯爵によると貴族だったら愛人をもつのは普通のことなんだって。その話を聞いて、真っ先に思ったんだ。アイリーンを愛人にしてあげようって。愛人の中でも、一番待遇をよくしてあげる。どう素敵な提案だろ?」

 開いた口がふさがらないとはこのことだろう。その顔を思いっきり叩いてやりたい。

「遠慮しておく。この村を離れたくないの」

「そうか。あとで後悔しても遅いよ。他に候補はたくさんいるんだから。まあ、アイリーンは特別だから、一番じゃなくなるけど、あとからでも愛人にしてあげるよ」

「興味ない」

 アイリーンは早くこの話を終えて欲しいと思った。そうしないと手が出てしまう。


「これだから田舎はだめだね。一度王都に来てみなよ。そしたら、伯爵に目をかけられることが女性にとってどれだけ価値あることだかわかるから。そうしたら、きっと君だって俺の愛人になりたがると思う。俺は心が広いからお願いを聞いてあげるけど」

「そう」

 アイリーンが相変わらず興味のなさそうに返事をすると、エドガーは少し不機嫌になった。自分の立派さとか都会の偉大さとかがアイリーンにわかってもらえなくて不満なようだった。

 やっぱり私、都会の男嫌いだ。

 アイリーンはもう早くこの場を離れたくてしょうがなかった。


「話は変わるけど、アーサー王子が何か隠したりしたのを見なかった? 何か気になることでもいいから」

 アイリーンは今の会話の流れで、そんなの言うわけないじゃないかと思った。もともと言う気はなかったけど。話をすればするほどこの男から心が離れていく。アーサーとこの男と、どちらの味方をするかと言ったら考えるまでもない。

 アイリーンはどうにかエドガーに一撃でも与えられないかと考えていたが、ある考えを思いついた。

「そういえばアーサー王子と森で出会った時に穴を掘っていたような。よく見えなかったけど」

「本当?」

「うん、私がそれについて聞いたら、誤魔化されたから何の穴かわからなかったけど」

「それだ」

 エドガーの表情が明るくなった。

 そして兵士たちを呼んで、アイリーンに場所を聞くと、森の中に捜索に向かった。

 アーサーとアイリーンが出会った時に、何か穴を掘っていたのは事実だ。植物を採取していたと言っていたけど、本当はあそこに隠そうとしていたんじゃないかな、とあとから考えてみると思ったのだ。でも実際はあそこには何もないはずだ。だって……


 エドガーは見るからにうきうきした表情になっていた。自分が今から手にすることになる手柄のことを考えているらしかった。そしてアイリーンにも急にやさしくなって、飲み物を渡してきたりした。

 

 しばらくして兵士たちが帰ってくると、確かに穴はあったが、なにも見つからなかったという報告をした。

 エドガーは残念そうな表情をしたが、

「アイリーンが言った通り穴はあったのだから、確実に一歩前進だ。きっと近くに別の穴を掘って隠したに違いない。捜索を続けろ」

 そう兵士に命じたのだった。

 エドガーは、目的のものが見つかるのは時間の問題だという楽観的な表情をしていた。


 そこにジョージ王子が帰ってきた。

 エドガーは、良いニュースをお知らせするという明るい表情で、今あったことを報告したのだった。

「そうか。その女、名前はなんだったかな」

「アイリーンです」とエドガーは言った。


「アイリーンは嘘をついていない。それは確かだ。しかし、一方で、まだ言っていないことが他にあるのではないか? 表情に何か妙な余裕がある。まだ核心に触れていないといような。俺にはわかるぞ。なにしろ俺は王になる男だからな」

「そうなのか。アイリーン。早く話した方が身のためだぞ」

「そう言われましても。これ以上は心当たりありませんので」

 王子はそれを聞いてどうしようか思案していたが、にやりと笑ってから話しはじめた。

「俺たちが探しているのは、首飾りだ。緑色の宝石が沢山ついている。そしてそれは王位の継承に必要な神器なのだ。アーサーのやつが持ち出して逃げたものだ」


 やっぱり探していたのはあの首飾りだったのだ。

 それにしてもアーサーは、王位継承の神器、そんなものを私に渡したのか。しかも、価値がわからないとか、売っていいとか言っていたし。本当に売っていたらどうしたのだろう?

 あの首飾りは、恐らく第二王子がクーデターを成功させるための最後のピースなのだろう。だから王子自らこの村にやってきたというわけだ。


「ジョージ様、そこまで話してしまって良かったのですか?」

「構わぬ。それに、俺の狙いは成功したようだ。あの女に動揺の色が見えるじゃないか」

「確かに、アイリーンは焦った時に服を指で掴む癖があります。あの通り」

 アイリーンは自分の手を見てしまった。それでは動揺したことを認めたようなものだ。

「さあ、アイリーン。話してもらうぞ」

「今のうちに話すのがお互いのためだぞ」とエドガーはにやにやと笑って言った。

 品のない笑い。話さなかったら拷問でもするつもりだろう。


 どうしよう。ごめん、アーサー、流石に、これ以上は隠すのは無理だ。

 もう首飾りを隠した場所を話すしかない。

 アーサーだってこうなったら、仕方がないと納得してくれるだろう。そのときアイリーンは思った。ああ、アーサーが言った「売ってもいい」とはこういうことなのか。

 アイリーンは話そうと口を開きかけたが、また閉じた。

 目の前の外道たちの言う通りにするのは、やっぱり嫌だ。だが、エドガーとジョージの二人がじりじり近づいてくる。

「さあ、話なさい」

「さあ、さあ」


 アイリーンが追いつめられたそのとき、天幕に慌ただしく伝令が入ってきた。

「なんだ」

「報告します。隣国との国境にいた国王陛下と第一王子の軍勢が突然反転、王都に向かいはじめたとのことです」

「なに?」

 そこで、今までずっと余裕の表情だった第二王子の顔から笑みが消え、信じられないと言う表情をした。

「そんな早く戻れるはずがない。話が違う。隣国の王子との約束ではもう一週間は停戦に応じないということだったのに。いや今はそれを考えている暇はない。おいエドガー」

「はっ」

「今すぐ撤収するぞ。急ぎ王都に戻り、我が軍勢と合流するのだ」

「この者はどうしましょう。それに首飾りは」とエドガーは王子に尋ねた。

「黙れ、このうすのろ。そんなものに関わっている余裕はない。今は王都に一国も早く戻らねば、俺たちの命はない」

 第二王子とエドガーたちは慌ただしく準備を整え、王都の方に帰っていったのだった。


 なんか助かった。

 アイリーンは呆然としていた。あまりの展開早さに頭がまだついていかなかったのだ。

 でも、とりあえず助かったらしいと思うと、ほっと安堵のため息をついたのだった。

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