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4、王都からの訪問者

 アーサーが村から立ち去った次の日、村を訪れた商人から王都から驚くような知らせがもたされた。

 王都でクーデターが、発生したというのだ。


 クーデター自体は三日前に起きたということだった。辺境の村に、王国のニュースが伝わるのは大抵少し時間差がある。今回は商人が来るタイミングがちょうどよくて、三日で伝わったというのは早いほうだ。

 クーデター自体も驚きだったが、その内容はさらに衝撃的だった。

 クーデターを起こしたのは、第二王子のジョージ。国王と第一王子が隣国との戦争に出ていて王都が手薄になったところを狙って事を起こしたのだ。国王と第一王子は、王都に戻ろうとすると、背後から追撃されるので戻れない状況ということだった。

 そしてクーデターが起きた当時、王都には第二王子の他に、第三王子がいたという。第三王子は、第二王子の手勢に殺されそうになったが、側近たちが体を張って王都を脱出させたという。そして逃げた先は、ノーム村の方角だということだ。

 現在、第二王子が差し向けた捜索隊が第三王子の行方を追っているという。


 アイリーンが驚いたのは、その第三王子の名前がアーサーだったことだ。

 そして、商人から聞いた第三王子アーサーの特徴は、明らかに昨日村を訪れた男の特徴と一致していた。


 植物学者だって聞いたけどな。

 考えてみれば、服はぼろぼろだったし、やたら疲れているように見えたし、逃げてきた王子と言われると納得できる点も多々あった。

 じゃあ、あなたがくれた首飾り、あれはなんだったの?


 何なんだ、嘘つきじゃない。

 わかってる。命からがら逃げてきて、すべてを警戒してるし、本当のことを言って私たちを巻き込みたくなかったんでしょう。馬鹿みたいにお人好しだったもの。

 アイリーンは地面を足で強く蹴って穴を掘った。

 私は、命がけで逃げてる王子に、個人的な事情だけで八つ当たりをしたのか。クーデターが起きて不安で一杯のアーサーに、子供っぽい態度をしてしまった。

 でもしょうがないじゃない。そんな事情知らないんだもん。


 しかし、アイリーンが、そのことをじっくり考えている間もなかった。

 その日の午後、王都からの捜索隊が村を訪れたのだ。


 ノーム村は大騒ぎになった。

 しかも、それは単なる捜索隊ではなかった。

 捜索隊のリーダーとして姿を現したのは、クーデターの張本人、第二王子ジョージその人だったのだ。

 そして、それだけではない。ジョージの横には、貴族のような格好をしたエドガーが馬の上で村人たちを見下ろしていた。

 アイリーンの幼なじみは、国を揺るがすクーデターを起こした当事者の一人になっていた。


 エドガーは、アイリーンの姿を見つけて目があっても、約束を反故にしたことについて申し訳なさそうな表情一つみせなかった。

 それどころか胸を張っている。立派な姿で戻ってきた自分を誇るような表情だ。そして、そこには過去のつまらないものを見るような侮蔑の色もあった。

 エドガーはジョージに、近づき何ごとか耳打ちすると、二人してアイリーンを見てくすくす笑ったのだった。

 あれが例の女です。俺が捨ててやった田舎の退屈な女。そんなことを話しているのだろう。

 アイリーンは恥ずかしさや悔しさで赤くなってそこに立ち尽くしたが、どうすることもできなかった。

 

 そのとき、アイリーンは、自分は勘違いをしていたのかもしれないと思った。アーサーに感じた気品や優美さ、それは都会の人なら持っているものだと思っていた。

 しかし、そうではないのかもしれない。


 それは、情報収集のために村人が集められた時にはより一層はっきりしてきたのだった。

 村の近くに設営された野営地、その一際大きく立派な天幕の中にアイリーンたちは呼び出されたのだった。

 第二王子ジョージは一段高い壇上に置かれた立派な椅子に偉そうな格好で座っていた。そしてその横にはエドガーが立っていて、こちらを見下ろしている。

 

 ジョージは、アーサーと兄弟だが、全く違う印象を与える人物だった。日焼けしていて、目つきは鋭く、武骨で粗野な雰囲気。アーサーのような気品を感じる所作は一切ない。

 そして、エドガーはそのジョージの真似をしているのだろうかと思うくらい、同じ雰囲気を身にまとっていた。たしかに、エドガーは周りの影響を受けやすい人だとは思っていたけれど、ここまでとは。彼はもはやアイリーンの知っている幼なじみとは別人だった。村にいる時のエドガーはもっと単純な、無邪気な男の子という感じだったのだが。


 二人は、村人たちをにやにやと嫌な笑顔で眺めていた。こちらを低く見るような、嫌らしい目つきだ。

 アーサーは決してそんな表情をしなかった。王子であるジョージは、アーサーと同じ、ずっと王都で育った人間のはずだ。

 やはり、アーサーに感じた都会的な雰囲気というのは、あれはアーサーの個人の特徴だったのだろうか? 


 いやそれより今は。

 なぜわざわざ王子自ら出向いてきたのだろう? アーサーは一人で逃げ延びてきたようだった。今すぐ脅威になるようなには思えない。


「さて一人ずつ訊くことにしよう。アーサーについて」

 一通り村人たちが知っていることを答えた。

 アーサーがいつ村を立ち去ったのかはみな一致した。アーサーは村を立つ前に、北に向かうと言っていた。ここから北にある大きな港町に二日かけて目指すという日程だと村人たちに話したと言う。

 ジョージは村人たちの証言について思案して、

「嘘をついているようには思えないな」

「追っ手を出しますか?」

 エドガーがジョージに尋ねた。

「いやあいつはしぶとい。なかなか簡単に捕まえさせてくれないさ。俺はあいつのことはよく知っているからな。それに、我々の目的はあれの身柄ではない」

「心得ております。ただ道中にあれを隠すという可能性もあるのでは?」

「そうだな。鼻の鋭い犬を連れて数人追跡させろ」

「わかりました」

「ただ俺にとって気になるのは、あいつがこの村に半日ほど滞在したという事実だ。なんで追っ手が迫る中そんなことをする? この村が怪しい。俺の直感がそうつげている」


 アイリーンは二人が、何かを探しているというのを聞いて、それについての心当たりが頭に浮かんできたが、それを頭の外に必死に追いやろうとした。私は何も知らない。


「まさか。この村に隠すなんて。村人たちに見られるかもしれないし。わざわざそんな危険なことをするでしょうか」

「エドガーわかっていないな。まさにそういう考えが盲点を生むわけだ。あいつの考えそうなことだ。そして、そこの女」

 そう言ってジョージはアイリーンを指さした。

「あいつが怪しい。証言は自然なようで、何か隠しているような気がする。肝も据わっているみたいだしな。アーサーが気に入りそうな女だ」

「ただの田舎女ですよ」とエドガーが不服そうに言った。

「そうだな。アーサーは変人だから、そういうのが好きなんだ」

 そう言ってジョージは笑った。それから、

「俺は少し疲れたから、ちょっと休憩してこようと思う。ここまで強行軍だったしな。エドガーはそこの女と旧交を温めたらどうだ。他の村人は戻っていいぞ。じゃあまた後で」

 そう言うと天幕からジョージや村人、他の兵士たちはいなくなり、エドガーと二人でその場に取り残された。

 要するにエドガーに私から情報を聞き出させようということだ。

 あんな失礼なことを言っておいて私が話すわけないだろう。しかしエドガーは私のことをよく知っているし油断ならないのは確かだ。

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