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1、幼なじみとの約束

「俺、きっと立派になったらアイリーンを迎えにくるから」

 エドガーは、海を見渡す丘の上で言ったのだった。

「そう」

 アイリーンは素っ気なく答えた。

 それはいつもの彼女だった。感情をあまり表に出さないのだ。しかし、エドガーはアイリーンのことを良く知っているのでそれを気にすることはない。


「これ約束のしるし」

 そう言ってエドガーはアイリーンの手のひらに何かを乗せた。

 それは、半透明の青い小石だった。

「綺麗ね」

 アイリーンはその小石を持ち上げ、良く晴れた青い空に透かして見た。

 それは何か貴重な宝石というわけではなく、たまたま形や色が綺麗なだけの小石だった。しかし、エドガーが自分の用意できる出来るだけ特別なものと考えてそれをくれたのだろう。

「小さい頃に拾って、ずっと大切にしてた小石だ。それを俺だと思ってくれ……なんてな。でもそれで、俺のことを忘れないでいてくれると嬉しい」

「もともと忘れないよ」

 エドガーはその言葉を聞いて、嬉しそうにほほ笑んだ。

「すぐに王都でたっぷり(かせ)いで、アイリーンを呼ぶからさ、待っててな。その時はそんな小石じゃなくて、本物の宝石をあげる」

「これも、とっても綺麗だよ」

 アイリーンはエドガーからもらった小石をじっと見つめて言った。アイリーンは、エドガーがずっと大切にしてきたものをくれたというだけで嬉しかった。

「それはよかった。俺が立派になって王都から帰ってくるまで、アイリーンには寂しい思いをさせるかもしれないけど、必ず迎えに来るから」

 アイリーンはエドガーがいなくなって寂しいと思うだろうか、考えてみたがわからなかった。でも、きっといなくなったら寂しくなるのだろう。


「まあ、体には気をつけて」

「うん、ありがとう」

 エドガーはアイリーンの手を握り、人懐っこい笑顔でそう言った。

 エドガーは美形という訳ではないが、表情が豊かで人を引きつける特別な魅力を持った少年だった。

「あ、そろそろ用意しなきゃ」

 エドガーはそう言うと、村の方へ帰っていった。

 アイリーンはしばらく一人で、青空を眺めていた。


 アイリーンはいつも冷静で、淡々としている。事務的ですらあり、自分でも面白みのない人間だと思っていた。だからエドガーが自分に好意を向けてくるのを不思議に思っていた。

 多分、村の人口が少なく、同年代の女性がほとんどいないので、自分に興味をもっているのだろう。

 本当に私でいいのだろうか、とアイリーンは思ったが、エドガーを信じようと思った。エドガーは少し調子に乗るところもあるが、真っすぐで素直な性格だ。彼の言葉に嘘はないと思う。


 アイリーンはエドガーからもらった小石を自分の机の引き出しの奥にしまった。

 時々引き出しを開いてそれを見ると、エドガーのことを思い出して、王都で元気にやっているだろうかと考えるのだった。



 一ヶ月後、王都で暮らしはじめたエドガーからアイリーン宛に手紙が届いた。

 そこには「あの約束はなかったことにしよう」と書いてあった。それを読んだアイリーンは別段、驚いたような表情もせず、冷静に見えたが……


 エドガーからの手紙を受け取ってすぐ、アイリーンは海辺に一人で向かうと、エドガーからもらった青色の小石を海に向かって力一杯、放り投げたのだった。

 そんな感情的な振る舞いをするのは、彼女にしては珍しく、自分自身でも驚きだった。

 彼女はさらに、息を吸い込み、海の向こうの水平線のあたりにむけて、

「エドガーなんて、都会なんて大嫌い」と叫んだ。

 

 アイリーン自身、思ったよりもエドガーのことを気にしていたようだった。

 改めて考えれば都会にはたくさんの魅力的な若い女性がいるに違いない。だから、自分のような平凡な村娘なんて(かす)んでしまうのは仕方がないのだ。

 頭ではそう思っても、やりきれない気持ちがアイリーンには湧いてきたのだった。


 一ヶ月で(くつがえ)るような気持ちなら、あんな約束するなよ。

 アイリーンは砂浜の地面を思いっきり蹴り上げた。砂が巻き上がった。その一部がアイリーンの顔にもかかって、彼女は不機嫌そうな表情をした。

 都会なんて大嫌い、もう都会のやつなんて二度と信じない、アイリーンはそう心に決めたのだった。

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