少年と2人の男
「起きなさい。」
誰だろう。
聞き覚えがあるようなないような。
「起きなさいって。」
ああ、あたたかい。
これは―――。
「おかあ―――」
「起きろってば!!」
視界が揺れる。
ものすごく強くゆすられているらしい。
「おい大丈夫か!?」
「あ、あれ?」
「なにがあれ?なんだ、なんでこんなとこで寝てんだ?大丈夫か?」
「まあ・・・傷はないっぽいな。」
このよくわからない状況に見つめる僕。
「ん?なにか顔についてるか?」
「男―――」
「どうみても俺は男だろうよ。」
◇
その瞬間大きな衝撃音が響く。
森の奥の闇に光る目が見えた。
「やべえ!もうきた!」
「逃げるぞ!走れるか!?」
「だ、大丈夫」
よくわからないが、まずい状況なのはわかる。
「こっちに走れ!」
響く衝撃音が本能を刺激する。
体が勝手に動いていた。
「やべえ追いつかれる!ここは一発―――」
「―――ふせろ!」
反射的に体が動く。
いや驚いて転んだだけだった。ちょっと恥ずかしい。
何かが横から飛んできたような気がする。
すぐに森の中で大きな炸裂音がした。
―――鈍い地響きが収まったころに現れたのは男だった。
◇
「無事か?」
なんとも感情がこもっていない台詞をはく男。
「無事なわけねえだろ!遅いだろ!おれ死んじゃってたかもしれないだろ!」
「おかしいな、確実なタイミングだと思ったが。」
怒っている男は一瞬納得したような顔をしたが、すぐさま顔が曇っていく。
「お前―――おれを囮にしたな?」
男は何も言わない。
恐ろしいほどに無表情だ。
「まあそ―――」
男がほとんど口を開いた瞬間にとびかかる。
「ハジメえええ!この人でなしがあああ!」
この男、泣いてないか。
「まて。」
ぴたりと止まる。
このハジメと呼ばれた男、大の男が泣きながら散々文句を言っても何も動じていない。
「ディーノ、この少年は?」
この泣きべそをかきながら殴りかかった残念な男はディーノというらしい。
「いや、途中の道で寝てたのよ。危ないから一緒に逃げてきた。」
「―――なるほど。少年、どこか不調はないか?巻き込んですまなかったな。」
ひどく事務的な物言いだが、おそらくこういう人なのだろう。
「大丈夫、ありがとう。」
ここでようやく心の余裕ができた僕は2人を見る。
最初に出会ったディーノと呼ばれた男。
背は僕より少し大きいくらい、整った顔立ちで透き通るような金髪。
清潔感もあるのだが、なにか妙な髪型や服装のせいなのか、態度のせいなのか。
―――みればみるほどに軽薄そうである。
「なんだよ、惚れたのか?」
裏切らない。
―――視線を移す。
次に出会ったハジメと呼ばれたこの男。
まず背が高い、というか細長い。
ディーノと同じく整った顔をしているが黒髪はボサボサ、無表情で何を考えているのかわからない怖さがある。
職業はわからないが医者や学者か、そんな感じだ。
「どうした、腹が減ったのか。」
―――天然なだけなのかもしれない。
じっと見つめる僕を不審に思ったのか、2人は目を合わせる。
どうやら仲は悪いわけではないらしい。
◇
「それよりも少年。なんでこんなところにいた。」
「・・・わからない。」
本当にわからない。なにか頭のなかにモヤがかかったようで何も思い出せない。
「記憶が一時的にないことは珍しいことじゃないが。」
「困ったな、まあ「人間」だし森の国ってことはねえよな。」
「俺たちも王都に帰るから・・・ひとまず一緒に来てもらうのがいいだろうな。」
「そんじゃそうするか。」
「少年、名前は?わかるか?」
ディーノの声は心にすっと溶ける声色をしている。
僕は―――
「僕の名前は、―――カイト。」